奏桜希夜

Open App
7/20/2024, 12:32:14 AM

向日葵を見ていた。
麦わら帽子をかぶった白いワンピースの黒髪ロングの美少女が。

ここは、ラノベの世界だっただろうか…?そう思ってしまうほど絵になっていた。

サーッと風が吹いて彼女の麦わら帽子が宙に浮く。
おれは思わず手を伸ばしてしまった。

「……すみません。思わずキャッチしてしまいました」

そう謝りながら彼女に帽子を差し出す。

「いえいえ、むしろありがとうございます」

ニコリと笑った彼女は何故か俺の手元を見て固まった。

「………変なこと聞くのですがお兄さん毎年この季節に出会ったことありませんか」

俺は思わず目を見開く。

「俺を知ってるんですか」

「はい。毎年向日葵の絵を描いている姿を見かけて気になっていました」

そう言われ急に恥ずかしくなってきた。なぜ俺は気づかなかったのだろうか。

「でも絵に集中して周りに意識されてなかったようなので……実は毎年あなたの絵を少し楽しみにしてました」

少しはにかみながら話す彼女に胸を射抜かれた。 これは、なんだ。
やたらドキドキ心臓がうるさい。顔が熱い。
なんだこれは

「…っ見られていたなんて…お恥ずかしいものを。でも何故か嬉しいです。ありがとうございます」

日本語がバラバラだ。あぁ、さっきまでは普通に話せていたのに。目の前の彼女から目が離せない。

「今年は…描かないのですか?」

少し上目がちに聞いてくる彼女に僕は苦笑いをこぼす。

「絵ばかり描いていたら親から怒られてしまいまして…昔から言われてはいたのですが。無視ばっかしていたらいよいよあっちも本気を出してきまして。唯一の娯楽まで取り上げようとしてくるんですよね」

ハハハと遠い目をして笑うと次の瞬間彼女の手が俺の手に重なっていた。
え?ナニコレ

「私は何も知らないですけど……でもやめちゃだめです。貴方の大切な存在で、多分曲げちゃだめなのが絵です。自分からは決して手放してはいけないと思います。あんなきれいなものを描ける人が」

真剣な目をして言われ俺は柄にもなく涙がこぼれるかと思った。
あぁ、そういえばだれかに昔も言われたな。

『あなたの絵、すっごくきれいねっ
私お金があったらいっぱい買っていたわ』

って。当日10歳だった俺と同じ年くらいの女の子にキラキラとした瞳で褒められたら、単純な少年は辞めようとしていたものだって続けてしまう。

そして、当時の少女と前の彼女は同じ瞳をしていた。あぁ…7年前の少女は彼女だったのかと気づいた。

彼女のあのキラキラとした視線の先には、おれの絵とおれがいた。


数年後

「ねぇ、ぱぱぁーママの絵をまいとしかいてるわよね。なんでここでかくの?」

「んーパパとママの大事な思い出の場所だからね」

「むぅーわたしもかいてよ!!いっつも絵はママばっか」

拗ねたように言う娘の愛らしさに胸がきゅっとなる。

向日葵畑のその中で、おれら家族は笑い合った。
向日葵だけだったその絵に彼女が、その中に娘が、息子が、娘が、孫が増えていくのだった。


#視線の先には

7/11/2024, 12:34:37 PM

ブブッ

LINEの返信が来るたびに僕はメッセージを開いてしまう。
あぁ…前はそんなことなかったのに。

『ねー聞いてぇ……』

そんな一件から始まる会話を僕は最近の楽しみにしつつある。彼女からの話題はいつも止まらない。
けれど、お互い部活や学校が違うため時間が合わないから長期間の会話になることが多い。

いつもこれで終わらないで……と少し思いながら返信していることは内緒だ。

『今日はどうしたの?』

『後輩ちゃんがさ、彼氏が出来ましたーって言って紹介してくれたの』

『この前告白してきます!って言った子?』

『そう!!!けどその彼氏くんがさぁ……』

以前話題に出た彼女の後輩の話だった。告白とか、彼氏…とか、好きとか。
キーワードにドギマギしてしまって我ながらピュアすぎるなと思ったりする。

『めっちゃいい子でね??キラキラの空気で…』

『じゃあ送ってきまーすっていって出てったんだけど、ピュアな空気に触れて胸キュンした』

『かわいーね笑』

そんな彼女が可愛いなと思いながらも、僕は返信する。え、この笑。きもっとか思われないよね…?

『キュン🫣』

普段絵文字を使わない彼女が送るときは大体照れ隠しのときが多い。間違えてなかった…とホッとして僕は続きを打つ。

『彼氏とか欲しくなったの?』

これでいらないとか言われたら今じゃないと思おう。そうその先を予想しながら言葉を紡ぐ。
1分経った頃彼女から返信がきた。

『ウン…でも私が好きで、相手のことを私が大事にできる人がいいなぁ…とオモイマス』

何故かカタコトで可愛いことを言う彼女にニヤケが止まらない。
あー電車なのに…絶対やばいやつって目で見られる……

『きみは…?』

チラッというスタンプとともに送られてきた言葉に僕は少し嬉しくなった。
聞かれるってことは、少しは僕に興味あるってことだよね??じゃなきゃ残酷すぎるよね?

心臓をかつてないほどならしながら返す。

『おなじかも。でも僕、彼女になってほしい子がいるんだよね』

既読がついて、返信が来ない。やばい、胸痛い…

『…え!?だれ??』

だよね、そうくるよね。逆だったら僕もそうなる。でも君は直接言ってほしいタイプだったよね?
どうしよ…ってうそだろ。僕は目を見開いた。

ー次はー想咲ー想咲ーお出口はー右側ですー

そんなアナウンスが流れ扉が開いたその先に、彼女はエスカレーターに乗ろうとしていた。

あぁ、きっとそういうことだよね?神様いるのか知らないけど、多分今日は僕の味方だ。てかなってくれ。明日からめっちゃいい子になるから。

「……ねぇ久しぶり」

トンと彼女の方に手を乗せ声を掛ける。すると彼女は驚いたようにこっちを見た。
あぁ…やっと会えた。

「っびっくりしたぁ…ひさしぶりぃー!!会えて嬉しい」

笑顔で返してくれる彼女につられ頬がゆるむ。流れに乗って一緒に帰る。

「ねぇ…言いたくなかったらいいんだけどさ…さっきのLINEの好きな人って……?」

彼女から出た話題に僕の心臓はまた大きく動き出す。ほんと、明日死ぬかもしれない。
でも、ここが踏ん張りどころ…だよね?

僕は意気地なしだけど、攻めどころは間違えたくない。だから、お願い。そう君の手を取って言った。

「4年前からずっと

『「大好き」』



電車に乗ってる仕事帰りのサラリーマン

『えーー絶対あそこの2人付き合う寸前じゃん……うわっ青春だぁ…つかれた目に染みるな……』

キャリアウーマン

『え、めっちゃかわいい。絶対告白してるよね??手繋いじゃってるんだけど……繋ぎ方慣れてなさすぎて可愛い。まじかわなんですけどぉ……毎日会いたいわ』


#1件のLINE

7/10/2024, 11:49:04 AM

「なんでそんなに毎日頑張れるん?」

突然クラスメイトに投げかけられた疑問に何故か言葉が詰まった。癖…としか言いようがないから。

「朝起きて、朝練して、授業真面目に受けて、昼練して、放課後も練習。なんでそんなに頑張れるん?」

関西から転入してきたこの男子はそんなことが気になるようだ。

「…べつに…対して努力してるとは思わないというか…」

頭でまとめながら話す私を待っているように頷く彼を見て続ける。

「んー私は人並みにしかできないから、練習も勉強もちゃんとやるしか道はないの。
例え天才だったとしても才能があったとしても努力しなきゃ開かないし……からかなぁ?」

わかんないやと眉を下げて笑うと彼は瞳を輝かせていた。

「それって、つまり丁寧にやることが癖ってことやんな?最強やん!」

今まで言われたことがないセリフに私は首を傾げた。

「なにが?人並みにしかできないんよ?」

「おまっ…人並み言うて、いつもテストはクラス3位以内やろ?体力テストとか球技大会も活躍するやん?しかも部活は全国常連吹奏楽の部長やろ??なぁにが人並やねん!!!お前どこ目指しとるん!?」

そんな話したことがない彼に何故かとても褒められる。
なんだこれ…?と目を白黒させながらもお礼をいう。

「…ありがとう?」

「あかんっ絶対わかっとらん!!」

頭を抱え上を向く彼を見て何故か笑いがこみ上げてきた。

「…ふっふふ」

思わず声に出して笑うと彼は目を丸くした。

「…あんたがそんな心から笑っとるん、久々に見たわ」

そう言われ笑いながらも思い出す。そういえば、最近はコンクールが近づいて息抜きができていなかった気がするな…と思わず遠い目をした。
その瞬間彼は言った。

「俺は、あんたがよう練習しとる姿キラキラしとって眩しいなぁ思うけど、そうやって笑っとるのみるとそうやっとるのもええなって思うわ」

「……」

思ってもいなかった言葉に言葉が出ない。

「…え…なんで急に黙るん?」

私は赤くなっているであろう顔をそむけ返す。

「…そんな事言われると、褒め言葉なんでしょうけど口説かれてるみたいに聞こえるんです……」

そう返すと彼も顔を赤く染めた。


聞いていたクラスメイト①

「あーー新たなカップルが……てか彼女あんな表情変わるんだ…」

クラスメイト② 

「…あと何日でくっつくか賭けようぜ」


#私の当たり前

6/15/2024, 10:07:43 PM

「ねー聞いて」

僕の一日はそんな彼女の言葉から始まる。
本好きな僕らは朝一番に推し本を語り合う。

「おはよ。今日は何?」

彼女は笑いながらでも答える。

「今日はねぇ、『龍に希う』だよ」

ニコリと笑いながら答える彼女に僕は首を傾げる。

「それって『恋う』って漢字?確か明治時代の妖系だったよね?」

彼女は瞳をきらめかせ答える。

「やっぱり君なら知ってると思った!!そうなんよ!ちなみに私は希望のこいねがうのほうがしっくりくるなと思う」

「あーわかる。あの物語に合うよね」

毎日、毎日なぜ飽きないのかと友人に時々聞かれる。むしろ僕はなぜこんな楽しい時間を飽きると思うのかが疑問だ。

友人は「だってお前ら本の話しかしねぇじゃん。話題が尽きたらどうすんだよ。てか、男女の友情は成立しねぇ!!!」なんてほざいてるけど。

でも男女の友情は成立しないって言うのは僕も共感。だって僕は彼女が

「好きだし」

そうポツリと呟いていた。
あ、やばい。今言うつもりじゃなかったのに。そう焦って彼女を見るとその焦りは吹っ飛んだ。

いつも桃色に染まっている頬は紅葉のように真っ赤だし、耳もそうだ。目は潤んでいる。可愛すぎやしないか?

「……っなんで…っそーゆことを…今っ!!いうの!!」

真っ赤な顔でポコポコ怒られても痛くない。むしろもっと見せてほしい。可愛いから。でもこれ以上怒らせるとめんどいからやめておく。

「ごめん。でも気づいてたでしょ?」

にやりと笑うと彼女は赤い顔を隠して座り込んだ。

「………ぅぅう」

「隠さないでよ。可愛いんだから」

この2年間、彼女の好みはだいぶ知ってきた。
少し気だるげな人が好き。本が好きな人が好き。言葉でも行動でもそれとなく愛を伝えてくれる人がいい。身長は同じくらいでも良い。話しやすい人が好き。僕みたいなタイプが好き。
全部、朝のあの時間で知ったことだ。

愚かな友人はそれを無駄だと鼻で笑ってたけど。ざまぁみろ。僕は彼女と両思いだったようだ。

「で?君は?」

「………、いいたく…ない」

僕が口をとがらせると彼女は目を泳がして僕を見る。

「あした……明日の放課後紡書店に行こ?一緒に。そん時に言う……じゃだめ?」

僕のこの片思いは明日までの苦労なようだ。ねぇ、僕君のタイプだと思うよ。だから、

「いーよ。そのかわり、明日は僕のおすすめね」

「…ん」

頬をあかめながらコクリと頷く彼女に目を細め僕は笑う。


その時の友人

「……おまえら…ここ教室だし。まじリア充滅べ。てかおせぇよ。まだ付き合ってねぇとか距離感バグりすぎだろ」

彼女の友人

「…!!!!!ついに!!みたかこら!!6年間の片思いが…!!やばい泣きそう…」

クラスメイト

「まだ…つきあってなかったんだ」

クラスメイト2

「うそ…だろ…」


#好きな本

5/28/2024, 10:30:10 PM

「おはよー」

いつものざわめきとともに肩をぽんと叩かれ僕は振り向く。そこには顔に満面の笑みを浮かべる彼女が立っていた。

「おはよう。今日も元気そうだね」

「返信が近所のおじいちゃんか」

ケラケラと笑いながら隣を歩く彼女に僕は目を細める。
5月のくせに青空が少なくても彼女の笑顔があればなぜか晴れやかな気持ちになる。

「君は7月が似合いそうだね」

夏のひまわりみたいだと思いそうつぶやくと彼女は大きな瞳をまんまるに開けた。

「どゆこと?夏が似合う的な?」

「うん」

コクリと肯定するように首を動かすと、にまぁっと彼女の口角が上がった。

「やだぁ照れちゃいますよぉ。そんな笑顔が輝いていて眩しいなんて言われても」

「そこまではいってないよ」

即座に突っ込むとツボが浅い彼女のツボに入ったようで笑いが溢れている。

「…そういえば、今日から半袖なんだね?」

そう違う話題を渡すと笑うのをやめた彼女が笑みを深める。

「そうなのです!どうですかぁ?夏が似合う女に似合ってるでしょ」

その場でくるりとポニーテールをひるがえして笑う彼女はとても眩しかった。

「うん、似合ってる。基本似合ってるけど特に」

そう返すと彼女は勢いをなくして僕の肩に顔を埋めた。

「きみさぁ…そうやって急に刺してくるのやめよ?私の心臓に悪いんよ。この天然褒め上手」

僕は身に覚えがないためキョトンとしているとドスッと一撃を食らった。解せぬ。

「まぁ嬉しいけどね。ありがと!」

少し照れたような横顔の彼女を今日も微笑ましく思う。


周囲を歩いていたサラリーマン

「……せいしゅんだなぁ…」遠い目

犬の散歩をしてたおじーちゃん

「ほっほっほ。ばぁさんにあいたくなるのぉ」

二人のクラスメイト①

「まだ付き合ってないんだよなぁ…信じられねぇー」

二人のクラスメイト②

「は!よ!付き合えーー」


#半袖

Next