「僕の傍にずっといてくれるでしょ?」
そんな一言を呟いた彼は私の服を掴んで離さない。
なんでこうなったんだっけ……
私はそっと現実の頭を無視して遠くを見つめた。
遡ること3時間前。私と彼は一緒にテレビを見てダラダラとそれぞれのことをしていた。
たまたま2人とも仕事が休みで行きたいところもない日は必然とどちらかの家に行くのがここ数年のルーティンとなっていた。
「昨日は定時で帰れたの?」
「うーん…絶妙かなぁ。後輩ちゃんが最後にちょっとミスしちゃっててねぇ」
そんな他愛もない会話をしていたはずだ。
2人で見ていたのは恋愛リアリティ番組。最近流行ってると高校生の従姉妹から「福野さんと見てね」とラインで言われ見てみようと提案したのだった。
『ずっと、ずっと大切にするので付き合ってください』
そう震える手で画面の中の男の子が女の子に手を差し出した。甘酸っぱぁ……という少し照れ恥ずかしい感情と懐かしいなぁというノスタルジックな気持ちを思い出していた私は私たちの高校時代を思い出していた。
私たちはたまたま同じ小中高同じの顔見知りだった。小中はお互い仲のいい同性がいたし、まぁ席が近かったら話すみたいなクラスメイトの距離感だった。
変わったのは高校から。書道科に入った私たちは必然的によく話すようになった。名前も[福野][福原]と前後で3年間クラス替えがなかったのもあり。
話してみると普通の字が上手い男の子という印象は変わらなかったが、だんだん福野について知らないことが減っていった。
例えば甘いものが好き。例えば犬より猫派。例えば小さい子が好き。書道は小学校1年生からやっていて辞め時がわからなくなったから続けていること。
ちはやふるに影響されて百人一首をサンタさんにもらったこと。
些細なことだったけど私が彼を知るたびに彼も私を知っていった。近すぎず遠すぎず気軽に話せる彼にいつしか私は心を奪われていた。いつの間にかの恋の始まりだった。まぁそれが序盤に過ぎないのだけど。
書道科ということもあり女子が多くて男子の肩身は狭かったはずだけど、以外に福野はかわいいーと無害扱いされていた。書道がとてもうまかったし、福野自身落ち着いて穏やかだったということもあいまっていた気がする。
そんなこんなでライバルもいないわけではないが姿を秘めた者たちばかりだったので、私はそこまで焦らずじっくり進展させていってみた。
先生の展覧会に誘ってみたり、小学校の同級生の演奏会に誘ったりお互いの好きな本を貸し合ってみたり。
デートの口実を作ってドキドキさせようとしたら返り討ちを食らったり。そんな懐かしい日々を思い返していた。
「……ねぇ……ねぇえ…陽光ったら僕の言葉聞いてた?」
はっと隣を見るとどこか呆れた瞳で春樹がこちらを見ていた。ポコンと軽く頭を押される。
「あぅーごめん。高校時代にタイムスリップしてたわ」
「もーその夢中になると何も聞いてないのやめようよ…心臓に悪いんだよねぇ」
私の悪い癖を嫌がらず苦笑いで返してくれる春樹はいい意味で高校の時から変わっていなかった。
「いやぁいつもごめんだわ。ねぇ、春樹ってだいぶいい男だよね」
「ええ何急に?」
少し驚いたように目を見張りそして笑いを堪えた春樹は聞いてきた。
「そりゃ可愛くていい彼女がいるからね。いい男になっちゃうでしょ」
その瞬間私の春樹への思いは最高点を突破した。
「もう好きぃぃずっと一緒にいよぉ離さない離せないやめられない渡せない」
彼は楽しそうに瞳を輝かせていった。
「ならずっと永遠に一緒にいようね。僕と結婚してくれませんか?」
「……はぇぅぁい?」
春樹は嬉しそうに私を抱きしめたのだった。
後日談
「え?福コンビやっと結婚すんの?」
「思ったより福野粘ったね。大学卒業したらすんのかと思ってたわ」
「それな。何気にずっとナチュラルにいちゃついてたよね」
「結婚式のパフォーマンスで何の文字おくる?」
「「「「おめでとう」」」」
『ねぇ、おじいちゃん。おばあちゃんのどこが好きなの?』
『んーそうだねぇなんだかんだ全部好きみたいだよ』
『もー春樹ったら。私もよ』
『ふふ。おばあちゃんもおじいちゃんもラブラブだね』
#永遠に
11/2/2024, 10:42:08 AM