向日葵を見ていた。
麦わら帽子をかぶった白いワンピースの黒髪ロングの美少女が。
ここは、ラノベの世界だっただろうか…?そう思ってしまうほど絵になっていた。
サーッと風が吹いて彼女の麦わら帽子が宙に浮く。
おれは思わず手を伸ばしてしまった。
「……すみません。思わずキャッチしてしまいました」
そう謝りながら彼女に帽子を差し出す。
「いえいえ、むしろありがとうございます」
ニコリと笑った彼女は何故か俺の手元を見て固まった。
「………変なこと聞くのですがお兄さん毎年この季節に出会ったことありませんか」
俺は思わず目を見開く。
「俺を知ってるんですか」
「はい。毎年向日葵の絵を描いている姿を見かけて気になっていました」
そう言われ急に恥ずかしくなってきた。なぜ俺は気づかなかったのだろうか。
「でも絵に集中して周りに意識されてなかったようなので……実は毎年あなたの絵を少し楽しみにしてました」
少しはにかみながら話す彼女に胸を射抜かれた。 これは、なんだ。
やたらドキドキ心臓がうるさい。顔が熱い。
なんだこれは
「…っ見られていたなんて…お恥ずかしいものを。でも何故か嬉しいです。ありがとうございます」
日本語がバラバラだ。あぁ、さっきまでは普通に話せていたのに。目の前の彼女から目が離せない。
「今年は…描かないのですか?」
少し上目がちに聞いてくる彼女に僕は苦笑いをこぼす。
「絵ばかり描いていたら親から怒られてしまいまして…昔から言われてはいたのですが。無視ばっかしていたらいよいよあっちも本気を出してきまして。唯一の娯楽まで取り上げようとしてくるんですよね」
ハハハと遠い目をして笑うと次の瞬間彼女の手が俺の手に重なっていた。
え?ナニコレ
「私は何も知らないですけど……でもやめちゃだめです。貴方の大切な存在で、多分曲げちゃだめなのが絵です。自分からは決して手放してはいけないと思います。あんなきれいなものを描ける人が」
真剣な目をして言われ俺は柄にもなく涙がこぼれるかと思った。
あぁ、そういえばだれかに昔も言われたな。
『あなたの絵、すっごくきれいねっ
私お金があったらいっぱい買っていたわ』
って。当日10歳だった俺と同じ年くらいの女の子にキラキラとした瞳で褒められたら、単純な少年は辞めようとしていたものだって続けてしまう。
そして、当時の少女と前の彼女は同じ瞳をしていた。あぁ…7年前の少女は彼女だったのかと気づいた。
彼女のあのキラキラとした視線の先には、おれの絵とおれがいた。
数年後
「ねぇ、ぱぱぁーママの絵をまいとしかいてるわよね。なんでここでかくの?」
「んーパパとママの大事な思い出の場所だからね」
「むぅーわたしもかいてよ!!いっつも絵はママばっか」
拗ねたように言う娘の愛らしさに胸がきゅっとなる。
向日葵畑のその中で、おれら家族は笑い合った。
向日葵だけだったその絵に彼女が、その中に娘が、息子が、娘が、孫が増えていくのだった。
#視線の先には
7/20/2024, 12:32:14 AM