NoName

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8/10/2025, 8:36:32 AM

風を感じて

君は、台風みたいな人だ。

予告もなくやってきて、僕をあっという間に巻き込む。
今日も突然、「海に行きたい」なんて言い出して――
潮風に髪をなびかせながら、笑っている。

振り回されるのは、嫌じゃない。
むしろ、この風の中で君といる時間が、何より好きだ。

砂浜で、僕は君の前に膝をつく。
潮の匂いと、君の香りが混ざり合う。

「僕と結婚して」

一瞬、海風が止まったように感じた。
君は驚いたあと、照れたように笑って――

「喜んで」

その声を包むように、また風が吹き抜けた。

8/6/2025, 9:25:39 AM

泡になりたい

君は、人間の王子様に恋をした。

僕は反対した。
それでも君は首を振り、ただまっすぐに王子様を想い続けていた。
だから、せめてもの約束として手紙のやりとりをしようと決めた。

やがて君は、魔女と契約を交わした。
繊細で美しい声と引き換えに、陸を歩く脚を得た。

再び会えた時、君は泣いていた。
王子様にはすでに婚約者がいると知ってしまったから。

君は隠していたけど、僕は知っていた。
君が王子様と結ばれなければ、やがて泡となって消えてしまう運命にあることを。
そして、その運命を変えるたったひとつの方法も。
それは、君が王子様を殺すこと。

僕は、ナイフを渡した。
それが君を救う唯一の道だったから。

けれど、次の日。
それまで毎日のように届いていた君からの手紙が、ぴたりと止まった。

その沈黙が、すべてを物語っていた。

君は、王子様を殺せなかった。
僕が好きだった君のその優しさが、君を泡に変えた。
静かに、静かに、僕のいるこの海へと還ってきた。

もし僕が君だったら、迷わず殺してた。
僕も恋をしたら、君の気持ちがわかるのかな?
もしそのときが来たら、僕もきっと、君と同じ泡になりたい。

8/3/2025, 5:12:56 PM

ぬるい炭酸と無口な君

「恋愛に現を抜かすのは馬鹿のすることだ」
同級生たちと恋愛の話になると、あいつはいつも決まってそう言った。
適当に合わせればいいだけなのに、あいつは馬鹿正直で嘘がつけない。
それに、自分を曲げない信念があった。

放課後の帰り道、あいつが意を決したように言った。

「人を好きになってしまった」

耳を疑った。信じられなかった。嘘だと思った。
――でも、薄々気づいていた。
あいつが下宿先のお嬢さんを好きだということに。
けど、信じたくなかった。

打ち明けたあいつは、晴れ晴れした表情をしていた。
「お前もラムネ飲む?」
途中の駄菓子屋で買ったらしい。
「もうぬるいかもだけど」

考える余裕もなく、ラムネを受け取る。
『……ぬるっ』
俺の言葉に、お前が笑う。

お前、なんか変わったな。
前はもっと無口で無愛想だったろ。

『笑うなよ』

俺が思わず口にした言葉にあいつは固まった。


――俺って最低だな。

けど今だけはお前の笑顔が嫌いだ。

8/2/2025, 11:07:34 PM

波にさらわれた手紙

あいつに手紙を書いた。
もう、隣にはいないあいつへ。

ずっと好きだった。
ずっと、隣にいてくれると思ってた。

けど、それは間違いだった。

あいつにはあいつの生き方があって、僕には僕の生き方がある。
なんでそんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。

あいつの居場所は、僕の隣だと信じてた。
けど、違ったみたいだ。

波打ち際にしゃがみ込み、便箋を瓶に押し込む。
潮の匂いが胸いっぱいに広がる。
手を離した瞬間、瓶は白い飛沫をまとって沖へと滑っていった。

たぶん、お前にはもう届かない。
それでも、もし波の向こうで見つけられたら――

会いに来て。

7/31/2025, 10:32:19 PM

眩しくて

君が眩しくて、息ができない。

髪も、身体も、心までも――
ぜんぶ真っ白で、綺麗で、まるで光みたいだ。
その光が痛いのに、もっと欲しくなる。

その隣に立つ僕は、影みたいに真っ黒で、
触れたら君を汚してしまうから、息を潜めるしかない。

君はきっと、僕がいなくても笑うんだろう。
……そんなの、嫌だ。
僕をみない君なんて壊してしまいたい。

――でも、壊せない。
だから、せめてこの黒い僕を、刻みつけたい。

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