NoName

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9/23/2025, 12:20:56 PM

僕と一緒に

君がいなくなった。

僕との約束は、忘れたらしい。

君がいないと何もできない。
食事も喉を通らないし、眠ることもできない。
楽しさも哀しさも感じなくなった。
君といたときだけ、僕は感情を持てていた。

僕は君にとって、何だったんだろう。
結局、約束を破って勝手に消えた。
僕は君にとって大した存在じゃなかったんだろう。

君が僕を嫌っても、僕は君を好きだ。
愛している。
……いや、そんな安っぽい言葉で片付けていいのか。
君がいたから僕がいた。僕は君そのものだった。

あの約束を、君は苦笑いしながら受け入れた。
一緒にいくって、言ったくせに。

――嘘つき。

9/9/2025, 12:34:23 PM

フィルター

君は、完璧な存在だった。
教室の隅にいる僕なんかとは正反対で。
頭が良くて、優しくて、どこか儚い。
神様はいくつもの贈り物を、君だけに与えたんだろう。

初めて同じクラスになった春。

隣の席になった夏。

君が知らない男の人と歩いていた秋。

そして、君が死んだ冬。

――君はただの人間だった。

だって君が死んでも季節は巡る。
最初は泣いていた奴らも、もう君のことを忘れたみたいだ。

君が完璧な人間じゃないってこと、本当は気づいてた。
自分が見たいものだけ見て気づかないふりをしていただけなんだ。

ごめんね。
あいつは、僕が殺すから。

8/10/2025, 12:21:51 PM

やさしさなんて

君は誰にでも優しい。
その優しさが、僕の胸を締めつける。
吐き気がするほど、苦しい。

お願いだよ。
その優しさは、恋人の僕だけに向けてほしい。
僕には君しかいないんだ。

『僕だけを愛してほしい』
『僕だけを見ていてほしい』
そんな独りよがりな願いが、頭を支配する。

――そうだ、わかった。
『君を閉じ込めてしまえばいいんだ』と。
こんなに簡単なことに、なぜ気づけなかったんだろう。

自分のアイディアに酔いしれながら、君に電話をかける。
『明日、うちに来てほしい。見せたいものがあるんだ』
「―――」
『ありがとう。じゃあ、明日ね』

君が悪いんだ。
僕以外に優しくするから。
君も僕以外なんて、いらないんでしょ?

なら、あいつらに優しさを向ける必要なんてない。
僕だけを見ていて。

8/10/2025, 8:36:32 AM

風を感じて

君は、台風みたいな人だ。

予告もなくやってきて、僕をあっという間に巻き込む。
今日も突然、「海に行きたい」なんて言い出して――
潮風に髪をなびかせながら、笑っている。

振り回されるのは、嫌じゃない。
むしろ、この風の中で君といる時間が、何より好きだ。

砂浜で、僕は君の前に膝をつく。
潮の匂いと、君の香りが混ざり合う。

「僕と結婚して」

一瞬、海風が止まったように感じた。
君は驚いたあと、照れたように笑って――

「喜んで」

その声を包むように、また風が吹き抜けた。

8/6/2025, 9:25:39 AM

泡になりたい

君は、人間の王子様に恋をした。

僕は反対した。
それでも君は首を振り、ただまっすぐに王子様を想い続けていた。
だから、せめてもの約束として手紙のやりとりをしようと決めた。

やがて君は、魔女と契約を交わした。
繊細で美しい声と引き換えに、陸を歩く脚を得た。

再び会えた時、君は泣いていた。
王子様にはすでに婚約者がいると知ってしまったから。

君は隠していたけど、僕は知っていた。
君が王子様と結ばれなければ、やがて泡となって消えてしまう運命にあることを。
そして、その運命を変えるたったひとつの方法も。
それは、君が王子様を殺すこと。

僕は、ナイフを渡した。
それが君を救う唯一の道だったから。

けれど、次の日。
それまで毎日のように届いていた君からの手紙が、ぴたりと止まった。

その沈黙が、すべてを物語っていた。

君は、王子様を殺せなかった。
僕が好きだった君のその優しさが、君を泡に変えた。
静かに、静かに、僕のいるこの海へと還ってきた。

もし僕が君だったら、迷わず殺してた。
僕も恋をしたら、君の気持ちがわかるのかな?
もしそのときが来たら、僕もきっと、君と同じ泡になりたい。

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