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泡になりたい

君は、人間の王子様に恋をした。

僕は反対した。
それでも君は首を振り、ただまっすぐに王子様を想い続けていた。
だから、せめてもの約束として手紙のやりとりをしようと決めた。

やがて君は、魔女と契約を交わした。
繊細で美しい声と引き換えに、陸を歩く脚を得た。

再び会えた時、君は泣いていた。
王子様にはすでに婚約者がいると知ってしまったから。

君は隠していたけど、僕は知っていた。
君が王子様と結ばれなければ、やがて泡となって消えてしまう運命にあることを。
そして、その運命を変えるたったひとつの方法も。
それは、君が王子様を殺すこと。

僕は、ナイフを渡した。
それが君を救う唯一の道だったから。

けれど、次の日。
それまで毎日のように届いていた君からの手紙が、ぴたりと止まった。

その沈黙が、すべてを物語っていた。

君は、王子様を殺せなかった。
僕が好きだった君のその優しさが、君を泡に変えた。
静かに、静かに、僕のいるこの海へと還ってきた。

もし僕が君だったら、迷わず殺してた。
僕も恋をしたら、君の気持ちがわかるのかな?
もしそのときが来たら、僕もきっと、君と同じ泡になりたい。

8/6/2025, 9:25:39 AM