ぬるい炭酸と無口な君
「恋愛に現を抜かすのは馬鹿のすることだ」
同級生たちと恋愛の話になると、あいつはいつも決まってそう言った。
適当に合わせればいいだけなのに、あいつは馬鹿正直で嘘がつけない。
それに、自分を曲げない信念があった。
放課後の帰り道、あいつが意を決したように言った。
「人を好きになってしまった」
耳を疑った。信じられなかった。嘘だと思った。
――でも、薄々気づいていた。
あいつが下宿先のお嬢さんを好きだということに。
けど、信じたくなかった。
打ち明けたあいつは、晴れ晴れした表情をしていた。
「お前もラムネ飲む?」
途中の駄菓子屋で買ったらしい。
「もうぬるいかもだけど」
考える余裕もなく、ラムネを受け取る。
『……ぬるっ』
俺の言葉に、お前が笑う。
お前、なんか変わったな。
前はもっと無口で無愛想だったろ。
『笑うなよ』
俺が思わず口にした言葉にあいつは固まった。
『お前が笑うとイライラする』
――俺って最低だな。
けど今だけはお前の笑顔が嫌いだ。
8/3/2025, 5:12:56 PM