高校時代に仲の良かった女友達が、最近派手に遊び歩いているという噂を耳にした。
正直、彼女に対して恋愛感情を抱いていた時期があるため、笑い話で語られるその内容を他人事のように処理は出来なかった。
もう何年も経った、もう関係の無い人だ。
そう思えるだけの時間と環境を手に入れたはずだった。
──────────
夜に耽ってあまり聞きたくなかった噂話を思い返しているうちに、寝室から眠っている妻の咳が聞こえてハッとした。自分はとっくに結婚していて、子どもにも恵まれた。自分は幸せだ。
カーテンの隙間から次第に空が白み出していることに気づいた。日の出はいつも正確だな。
昨日と同じ速度で、同じ場所から、ゆっくりと昇ってくる。
太陽は何も知らない。自分が手に入れたもの、失ったもの、そして彼女がどんな人生を送ってきて、どう変わってしまったのかも。
それでも光は等しく降り注ぎ、結婚した自分も、噂の中でイメージが崩れ落ちていく彼女も、同じ朝の下に立たされ、日常の営みを淡々と続けていく。
人は変わる。美しくも、醜くも、自分の意思とは関係なく。何も変わってないと思う自分でさえ、もうあの頃の自分ではないことを思い知る度、人の不安定さを痛感する。
完全に昇った太陽の光が、カーテンを切り裂く勢いで隙間から漏れてくる。子どもの身動ぎで新たな一日の始まりを予感する。
自分は、過去を否定しないし、今の彼女を裁くこともしない。そもそも出来ないのだが。
ただ、間違いなく彼女と充実していた青い日々があったことを胸にしまう。
日の出は毎日飽きもせずやってくる。変わらない周期で
世界を照らす。
その下で、人は今日も、少しずつ別の形へと変わっていく。
連続変死事件が町を騒がせていた。
被害者は皆、驚愕の表情を浮かべたまま死んでいた。
死因は不明。
「黒フードの犯人が、風の夜に現れるらしい」
そんな噂を聞きつけた大学生の男女グループ
隼人、悠真、麻奈、美咲は、
軽いノリで“犯人探し”を始めた。
ある日の夜、街で黒フードの男を見かけた悠真が、
こっそり写真を撮り、SNSに投稿した。
《こいつ犯人じゃね?》
投稿は一気に拡散され、たちまちネットは大炎上。
《勝手に晒すな!》
《冤罪だったらどうすんだよ》
悠真は批判の的になった。
***
数日後、悠真が変死体で見つかった。
ネットはまたもや騒然とし、様々な憶測が行き交う。
その時、"とある名無しのアカウント"が現れた。
いわゆる捨て垢というやつだ。
《最初は偶然だった。でも、噂が僕を"そういう存在"にした》
《今度は、お前たちの番だ》
不気味なほど具体的な語り。
他にも事件の時系列や犯行動機などを投稿している。
《こいつ、本物……?》
《いたずらする暇あったら働けよニート》
半信半疑のネットの意見は収拾がつかぬまま
数日が経過した。
***
「ねぇ、次、私たちだったりしないよね?」
「そんなわけないじゃん、考えすぎだよ。」
震える麻奈を、美咲は励ますことしか出来なかった。
隼人は黙って窓の外を見ていた。
途端に隼人はどこから出たか分からない悲鳴をあげた。
そこには、風にたなびく黒いフードの男が立っていた。
…!!!
慌ててスマホを開き、"あのアカウント"を確認する。
隼人の指が震えた。次の瞬間、強い風が吹き付けた。
隼人の手に握られていたスマートフォンには、
あのアカウントが表示されていた。
以前は名無しだったが、とある名前が付けられていた。
2025.3.6「風が運ぶもの」
秋の終わり、
枯葉が舞う。
ひらり_
幼馴染の沙希がいなくなってから、
初めての秋だった。
彼女はずっと病気を抱えていた。
それを知っていたのは俺だけだった。
「みんなには言わないでね。普通に過ごしたいから。」
沙希はいつも笑っていた。
風が吹けば、
彼女の髪が揺れる。
ひらり_
あの日も俺たちは、
落ち葉が積もる公園で、
並んで座っていた。
「ねえ、優真。
落ち葉ってさ、ちょっと羨ましいよね。」
「は?」
「ほら、最後の瞬間が綺麗じゃん。
ひらひら舞いながら落ちていって、
それでも風が吹いたら、また空に戻れる。」
そう言って、
沙希は足元の葉をつまみ上げた。
指先からこぼれた葉が、
風に乗る。
ひらり_
「……何それ。」
「そういうの、いいなって思うの。」
そのときは、
ただの何気ない会話のひとつだと、
思っていた。
——でも、今なら分かる。
あれは、
彼女なりの覚悟の言葉だったんだ。
──────────
今日も公園のベンチに座り、
俺は静かに空を見上げる。
風が吹いた。
一枚の葉が枝を離れ、
ゆっくりと落ちていく。
地面に触れたその瞬間、
また風で舞い上がった。
ひらり_
ふわりと宙へ戻っていく葉を、
俺は目で追う。
まるで、
彼女の魂が空へ還っていくみたいだ。
その様子を喩えるなら__
2025.3.3「ひらり。」
ピンポーン。
「誰だろう、なんか荷物頼んだのー?」
キッチンにいた妻が料理の手を止め、
インターホンの画面を覗く。
「なんか頼んだっけな、心当たりないなー」
ソファに座る俺は何気なく答える。
「……違うみたい」
妻はしばらく画面を見つめた後、不思議そうに首を傾げた。
「誰も映ってないわ」
そんなばかな。俺も立ち上がり、玄関へ向かう。
ドアスコープを覗くが、確かに誰の姿もない。
悪戯かとも思ったが、心臓が妙に早鐘を打っていた。
「まあ、いいか」と言いかけた瞬間、妻がふと呟いた。
「最近、よくあるのよね……この時間に鳴るの」
「……そうなのか?」
「ええ。あなたが帰ってくる少し前にね」
ゾクリと背筋が冷えた。妻の視線を感じる。
俺は気づかれないようにスマホを握りしめ、
通知を確認した。
メッセージがひとつ。
――「今日も会えなくて寂しい」
喉が鳴る。妻の目が、まっすぐ俺を見ていた。
「……ねぇ、本当に_」
2025.3.2 「誰かしら?」
さっきまでの賑やかな黒板アートは消され、教室には静けさが広がっていた。
机の上を撫でる。
3年間の落書きの跡、削れた角、微かに残るチョークの粉。
ここで笑い、悩み、時には涙を流した。
窓の外を見ると、校庭の桜の蕾が膨らんでいた。まだ固く閉じたままだけど、もうすぐ咲く。
まるで今の自分みたいだ。
卒業は終わりじゃない。ただ、新たな世界へ歩み出すための、静かな合図なのだ。
僕は今、強く、美しく、しなやかに、
大きな花を咲かせようとしている。
今日という日が僕にとっての__
2025.3.1 「芽吹きのとき」
P.S. 高校生の皆!卒業おめでとう!!!