なまえ

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10/24/2024, 9:51:50 AM



どこまでも続く青い空を背景に、ドライブをする男女が画面いっぱいに映し出されている。車は橋を渡り女はオープンカーの中で両手を広げながら何かを叫んでいた。
カラオケでは、歌よりもイメージドラマのほうが気になり見入ってしまう。
僕と彼女はカラオケに来たが、歌はたまにしか歌わずほとんど学校では話さないことを話すことが多かった。持ち込みはokだったので各々好きなお菓子を持ち寄って食べる。
ノートを広げた彼女は落書きみたいなものを描いて僕に見せてくれた。
その時間がとても貴重なものだと当時の僕はほとんど理解していなかった。また何年後かには、違う彼女と来るだろう。頭の片隅にいる小さな僕が思っていることだ。

彼女のペンの持ち方が頭の中に残った。

10/22/2024, 11:01:49 AM






近所の街路樹が衣替えをする季節になったころ、僕はやっと季節というものの存在を思い出した。
友達とは季節の話などほぼしなかったけれど、彼女の話には季節にまつわる話題が多かった。
季節ごとの行事や期間限定の食べ物や植物や気候などクラス通信の出だしに書いてありそうだ。というのが学生当時の僕の感想だが、今度は僕がだれかに届けにいくのだろうという予感がした。

10/21/2024, 11:39:25 AM

「声が枯れるまで好きな食べ物の名前叫んだことある?」
彼女は食べ物の話となるとエピソードトークが止まらなくなるようで、相槌を打つのが精一杯だった。
           
           *

「ないな…いや、あるか。小さな頃にとっておいたお気に入りのスナック菓子があってそれを従兄弟に食べられたんだ。そのときは叫んだよ。」
「私が聞きたいこととは違うけど面白い。」

僕は彼女が何を面白いと言ったのか分からなかったけれど、それはどうでも良いことだった。僕と彼女にとっての時間とは意味のない会話をすることに意味があったのだ。

10/20/2024, 11:29:17 AM


僕にとって"始まり"はいつも"不安の始まり"でもあった。
楽しい予定が入ると、予定が終わるところから想像する。悲観的というよりは漠然とした想像のつもりだ。

つまり僕にとって彼女と過ごす日々は、彼女と別れる日までの、カウントダウンの日々でもあったのだ。

勿論彼女に自分からその感覚を伝えることはなかったのだけれど、ある日たまたま会話の流れで、彼女と僕は同じ感覚を持ち合わせた者同士なのかもしれないと思う瞬間があった。

「私ね、食べる前から食べ終わった時のことを考えちゃってなかなか手をつけられない食べ物があるんだ。食い意地張ってるでしょう。」

10/19/2024, 1:17:05 PM




初めて覚えた気持ちの名前も分からぬまま、彼女に別れを告げられた日のことは、記憶が朧げになりつつあった。
そのことが僕に街を徘徊させる原因になっていた。
忘れたくないことほど忘れてしまう。ただはっきりと覚えているのは彼女のもみあげから見えた新しくて小さなほくろだけだった。
木とすれ違いざまに何かの花と土の混ざった香りがした。
でも僕には何の花の香りなのか、聞ける相手はもう居なかった。遠くから、かすかに、アパートの扉が開いて閉まる音が聞こえた。

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