なまえ

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11/19/2024, 1:38:47 PM



すれ違ったおばあさんの持っている、鮮やかなで綺麗な生地で紡がれたキルティングのバッグ。
それは僕に都会の大きな公園で開かれたフリーマーケットで見たキャンドルの色を、なんとなく思い出させた。
虹色ではなく、鮮やかな単色の雨粒が重なって出来たような色味だった。ベースは生成り色だったので、見たことがないグラデーションが綺麗だったのだ。
今日は母の帰りが遅くなるらしいので食べたいものを考えるために街へ出たが、いざ食べたいものを探してみると難しい。自分が食べたいものを探すことはとても難しい。

11/7/2024, 11:50:47 AM



歩道橋を歩くのが好きだった。
信号のルールから逃れて、好きなタイミングで階段さえ登ってしまえばいつでも目的地まで向かうことが出来る。歩道橋から見える景色も高さも、全て好きなタイミングで自分のためだけに用意された道に感じられた。
何故ここまで歩道橋にこだわるのか自分でも分からないのだが、そんな特別感が好きだったように思う。
歩道橋を歩くたびに、水族館にあるトンネルの頭上を自由に泳ぎ周るアザラシを想像した。
歩道橋を登り、とくに変わり映えのしない、どこにでもあるような風景をスマホに収める。
段差がないわりに段数の多い階段を登っていく。僕は家に帰って毛布にまるまる自分を想像した。雲はゆっくりと移動する抽象画のようだった。

11/6/2024, 9:38:47 PM

雨が好きな人なんて珍しいな。天気の話をすると決まってこう言われてきた。
「雨が好きというか…雨の日の雰囲気が好きなんですよ。あの、雨に打たれた地面のにおいが濃くなる感じとか。屋内に居て雨の音を聴きながらご飯を食べたりするとなんか不思議な気持ちになるんです。外の世界と切り離されてるような…。雨の音って落ち着きません?」
「雨の話題だけでよくこんなに話せるなぁ。でも、分かるわ。」
私は共感してくれた学年主任の、厳しいと評判の先生と委員会のことでクラスに残ってしばし打ち合わせをしたあとで雑談をした。たしかに決まりごとには厳しいと評判だったが、雑談すると面白い先生だった。

11/1/2024, 1:21:17 PM





猫の背中を撫でながらソファにもたれかかり壁を眺めている。この時間が1番好きだ。
例えば親と出かけて一緒に好きな食べ物を食べることや波長の合う男の子とたわいもない会話をすること。人との会話も好きだが、私には一生1人で居る時間が必要だろうと、物心ついたころには自分のことを理解していた。
毎日少しで良い。1人沈黙する時間が欲しかった。
その時間だけは、自分が自分で居ることが出来る。誰の仕草や表情や声色を気にすることもない。
ふと窓に目を向けて空を見た。外にはまだらな雲たちが気持ち良さそうに浮かんでいた。寂しさなんて知らない顔で雲はこちらを一瞥すると、隙間から光を降ろしていた。
ほんのしばらくして、何本かの光の柱が出来た。猫が鳴いた。

10/31/2024, 12:10:48 PM


私は大きく一歩を踏み出した。たしかに地面がそこにあるのを確かめるように、足を踏み込んでみる。
周りからどう思われても構わない。私は絶対に今日という日を平和に過ごすのだ。自分を幸せにするためだけに身体を動かしたい。そんな気分の日だった。
昨日、実はまだ飼い猫にも話していないのだが、約1年ほど付き合った彼氏と別れた。理由はないが、動機なら心当たりがある。
母が勤めている図書館へ向かう予定も考えたが、彼と鉢合わせる可能性があるので辞めた。
目についた自販機のアイスを買おうとしたとき、片方だけ落ちた幼児用の靴を見かけた。私は靴を拾うと屋根のあるベンチへ靴を避けた。

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