紅月 琥珀

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5/8/2025, 2:54:45 PM

 私達はどこで間違えたのだろうか?
 先の学校での事件?
 それとも教育の仕方?
 色々と考えを巡らせても、結局あの子はもう帰っては来ないのだ。
 どんなに悔いても、どんなに謝りたくても⋯⋯もう、その全ては届かない。

 それは仕事中にかかってきた1本の電話だった。
 自身のスマホに学校からの連絡で、あの子に何かあったのかと思い、上司に事情を話して少し時間をもらい折り返し連絡した。
 その内容はあの子がクラスメイトの私物を盗み隠したというのだ。
 何を言っても知らないと言いはり、話にならず強制的にカバンやロッカーなど隠せそうな場所は全部見たが見つからなかったらしい。
 仕事が終わってからで良いから学校に来て欲しいとという旨の電話だった。
 信じられないと最初は思った。けれど学校に行き話を聞くと、盗んだ場面には目撃者がいるとの事で、何度聞いてもあの子がクラスメイトの鞄を漁っていたと証言しているそうで、実際に話を聞くとどうも嘘を言っている様にも見えず⋯⋯私達はただ平謝りするしかなかった。
 しかし、うちの子は不服そうにしており謝る気も無いみたいで、それに少し苛立ちながらも無理矢理頭を抑えつけ謝罪させた。

 帰宅後も本当の事を話して欲しいと何度も言ったが先生達の証言通り「知らない、やってない」しか言わず、全く解決しない⋯⋯進展すら見えないこの事件に腹が立ち、あの子の言い分も信じずに引っ叩いてしまう。
 それでも泣きながら「本当に知らない、私じゃないのに」と言い続けるあの子に、私は「本当にこの子はやってないのではないか」と思い始めていた。
 一度怒りを静めようと部屋を出て頭を冷やし、もう一度冷静に話しをしようとあの子の部屋に行ったらおらず、家中探しても居なくて⋯⋯玄関まで行くと靴が無くなっていた。
 まだ深夜ではないにしても、まだ子供であるあの子にとって夜は危険だ。急いで探さなければと必死になって探すも、見つからず⋯⋯連絡先の分かる学校関係の人達に片っ端から電話をかけ、それでも見つからず、深夜になり警察へと駆け込んだ。
 事情を説明すると怒られたが捜索はしてくれるとの事で、私達は娘が帰ってきた時のために自宅に待機する様に言われた。
 待ってる間に先程の疲れもあってつい眠ってしまう。すると、変な夢を見た。

 深い森の中であの子が楽しそうに、大きな犬の様な馬のような⋯⋯そんな不思議な生物と木の実や山菜などを採っている。
 木漏れ日の綺麗な森の中で幸せそうにしていた。
「優羽!」
 あの子を呼ぶ声と共に駆け出していく男の子。それは呼び出された時に、話を聞いた目撃者だった。
「夏斗君待って!」
 その少年の名を叫び追いかける少女。その子も呼び出された際に会ったあの被害者の子だ。
 一体何が起こっているのか? と困惑している時だった。
 “良く、ここまで来たね。この通り優羽はこの森で、私と共に幸せに暮らしている。安心して元の生活に戻ると良い。”
 頭の中に直接響く声。私達だけかと思ったが、子供達にも聞こえていたらしく⋯⋯少年の方が噛み付く様に言葉を発する。
「うるせぇ! こっちはいきなり居なくなられて凄い心配したんだ! 優羽を返せ化け物!」
 “返せと言われても、この森で穏やかに過ごしたいと言うのがこの子の願いだ。私はそれを叶えたに過ぎない。帰りたければまた私に願えば良いだけの話だよ。だが⋯⋯果たしてそんな日は来るのか―――その答えを一番分かっているのはお前達だろう?”
 そう答える獣は全てを見透かす様な瞳をこちらに向けて続ける。
 “恋患いから嫉妬して冤罪を被せ、自分に気を向かせたいからと相手の嫌がる事をし、挙句⋯⋯味方になってくれると思っていた両親にも信じてもらえなかったこの子の気持ちが、お前達には分かるまい”
 “諦めよ、人の子達。今回私がお前達を招き入れたのは、少なくともこの子はこの森で幸せに暮らしていると、伝えたかっただけだ。用は済んだ、穢れた人の子達。無垢な魂をこれ程までに傷付けた罰と捉え、その罪過を背負い元居た世界(ばしょ)で生きるが良い”
 その言葉を聞き終わると同時に、私は目が覚めた。
 そこはあの子を待つ為にいたリビングのソファの上。座りながら寝ていたらしく、傍らには妻もいる。
 彼女も同時に起きたらしく、変な夢をみたと互いに言うものだから、詳しく聞くとどうやら同じ夢を見ていたらしい。
 あの獣が言った事が本当なら、あの事件の真相は被害者の自作自演で、それに便乗する形で嘘の証言をした。そして、信じ切れなかった私達は暴力まで振るってしまったと⋯⋯こういうことらしい。
 頭を抱えた。自分の子供を信じていればあの子は居なくならなかった。そも、あの子達が嘘なんて吐かなければ、私達は子供を失う事はなかっただろう。
 でも結局はあの子にとって、全て同罪で帰ってきたくない要因なのだろう。
 それでも―――一縷の望みをかけて祈る。
 どうかいつか、全てを許しても良いと思えた時に⋯⋯一度でも良いから帰ってきてくれますように。
 その時は抱き締めて誠心誠意謝り、今度こそ何があっても信じることを誓うよ。


5/7/2025, 1:11:05 PM

 その日はとても嫌な1日だった。
 いつも突っかかってくる男子の所為で、私は何もしてないのに犯人扱いされて先生に怒られて、盗まれた物探すとかでカバンの中身漁られたりポケットとか全部調べられたけど結局何も出てこなくて、それでも責められた。
 両親まで呼ばれたけど、私何も取ってないって言っても信じてくれなかった。
 頭叩かれて被害者の子と両親に平謝りしてたけど、何もしてないのに私も頭抑えつけられて謝らされた。
 家に帰ってからも散々責められて、結局どこに隠したって怒鳴られて本当に知らないのに、正直に言えって叩かれ続けて痛くて泣いた。
 それでも知らないと言い続ける私に、両親は諦めたのか部屋から出ていった。

 このままだと殺されるかもしれないと思った私は、着の身着のまま外に逃げ出す。もうあんな場所に帰る気なんてない。
 あの人達から逃げられるならどこでも良よかった。ただ必死に走って、走って、走って―――呼吸が苦しくなって、そこでようやく足を止めて地面にへたり込んだ。
 少し呼吸を整えてから周りを見ると、鬱蒼と生い茂る草木がどこまでも続いている。
 私は森の中に入ってしまったようだった。
 しかし、私の住んでいた街の近くに森なんてあったっけ?
 そう疑問に思いながら辺りをを見渡す。
 同じ様な景色で、どっちから来たのかすらわからない。
 でも⋯⋯ここならあの人達に見つかる事もなく、頑張れば生活出来るかもしれないと、少しだけホッとした。

 “とりあえず、川を探そう”
 少し休憩してから飲み水を確保するべく川を探す。
 夜で暗い獣道を当て所なく進んでいく。何れ程歩いた頃だろうか?
 流石に足が疲れて痛くなってきた頃に、水の流れる音が聞こえてくる。私は目的を果たせそうだと嬉しくなり駆け出した。
 そうして辿り着いた場所は開けていて、川が流れており近くには小屋まで立っている。
 こんな深い森の中で住んでいる人が居るのだろうか?
 そう不思議に思っていた時だった。
「おや、珍しい。こんな場所に人の子がなんの用かな?」
 優しくてどこか暖かな声がして、反射的に振り向く。そこには熊やライオンよりも大きな体の白い犬の様なウサギの様な⋯⋯でもたてがみがあってスラッとしてるから馬? かも知れない不思議な生物がいた。
 私はその子を見上げたままじっと見つめてしまう。
 それを恐怖ととったのか、その子は静かにお座りの状態から体を伏せてくれた。
「⋯⋯すまない、驚かせてしまったね。この森に人の子が迷い込むのは久々だったものだから⋯⋯迷子かい? それとも祈りを捧げに来たのかな?」
 不思議と最初から恐怖心は無かったけど、先程の言葉が少し引っかかる。
「祈りを捧げるとどうなるの?」
「私がそれを食べて、その祈りが願いならばそれを叶えるんだよ」
 私の問いにまた不思議な答えで返してくる。
 でも、祈ると願いが叶うならやってみても良いかもしれない。
「お祈りってどうやるの?」
「強く心の中で感謝や願いを思ってごらん。そうすれば私の言葉の意味が分かるさ」
 早速私は目を瞑り、その子の言葉通りに強く心の中で願いを呟く。

 とにかく助けて欲しかった。でも、今回の事が解決したとしてもきっとまた同じ様な事が起これば私のせいにされる。
 だから家には帰りたくない。しかし、私には帰る場所がそこしか無かった。できればこの森の中で住みたい。
 そう強く念じた。

 すると、目蓋を閉じていても分かるほどの光が近くで輝く。不思議に思って少し目を開けるとそこには、輝きを発しながら成形されていく何があった。
 それは見たことのない花で、それが完全に成形されると光は自然と消えてしまう。
「ほぅ、チグリジアか。さて、どの花言葉に当てはまるやら⋯⋯」
 そう言ってその花をパクリと一口で食べてしまった。
「なるほど⋯⋯わかった。人の子よ、お前が後悔しないのならここにいると良い。私がその願いを叶えよう」
 何かに納得したように、そう話すその子に私は頷く。
「後悔なんてしない。どうせ帰っても心配もなく、ただ迷惑かけるなって怒るだけでしょ。なら最初から居なくなれば互いに幸せになれると思うんだ。
 それに、また同じ事が起これば私のせいにしてくるよ。どうせ」
 そう答えた私に少し複雑そうな顔をされたけど、その子はゆっくりと立ち上がり小屋に向かって行く。
「なら、おいで。これからは私の家がお前の家だよ。
 私はエレムルス。人の子、名前を教えておくれ」
 小屋の扉の前で座り、そう言ったエレムルスに私も自分の名前を告げる。
 エレムルスは“そうか、良い名だな”と嬉しそうに笑い小屋の中に招いてくれた。
 そうして―――私はこの不思議な森で、エレムルスと名乗る大きな生物と一緒に暖かな木漏れ日のような日々を過ごしていくのだった。

5/6/2025, 12:33:13 PM

 始まりは些細な事だった。
 国と国のやりとりで、いつも通り自分達の利益になる様にと話し合ってただけ。そこからヒートアップしつつも最初は何とか話し合いで収めようとしていたらしい。でも、互いに引き下がれなくなった結果起こった戦争だった。
 互いが互いの国に攻撃しては報復合戦。終わりの見えない戦いに民衆達は辟易としていたし、何よりも身近になってしまった死に怯えていた。
 昨日まで共に生きていた隣人が、突然帰らぬ人になるなんて日常茶飯事で⋯⋯明日は我が身と緊張の日々。
 大切な人を失った人達の慟哭と、守れなかった後悔がそこかしこから聞こえてくる。
 食事も睡眠も満足にとれない、お風呂だって入れず最低限清潔を保つ為に体を拭くぐらいだ。
 そんな日々の中で遂に1番恐れていた事態に発展し⋯⋯国指定の避難シェルターに家族全員で逃げた。
 私達は何とか間に合って無事だったが、何人かは間に合わず無情にも目の前で扉が閉ざされてしまった人達もいる。
 けれど、開けるわけにもいかず⋯⋯そのまま私達だけ難を逃れた。
 幸い電波は通っていて、私は気になってしまい、友人達の安否確認をスマホで行う。
 殆どは生きていたけど、家族の誰かが死んでいたり、何人かは連絡が取れなくなっていた。

 いつまで続くんだろうと正直うんざりしていた。
 国の偉い人達のやりとりで、何で私達が死ななきゃならないの?
 今まで当たり前にあったはずの未来とか、幸せとか全部奪われて⋯⋯果てはこんな子供でも分かる“やっちゃいけない事”までやり出して、そうまでして何が得られると言うのか。
 怒りが頂点に達した時だった。
 少なくともここから当分は出られない。出られたとしても命の保証すらない世界に飛び出す勇気は私にはないから。
 せめてもの娯楽にと、持ってきていたサイレントギター。それで一曲作ってみる事にした。
 今の気持ち・今の現状・戦争が起こる前の楽しい記憶―――淡い恋心。それらを表現するような曲調に仕上げて、歌詞を乗せる。
 そうして出来上がった曲をどうしようかと考えていたら、小さな女の子が私に話しかけてきた。
「ねぇ、今日はそれ使わないの?」
「ずっと曲を作ってたんだけど、完成しちゃったからこれからどうしようかなって考えてたんだ」
「お姉ちゃん曲作れるの? 凄い! 聞きたい!」
 その子は目を輝かせてそうせがんでくる。私は周りの人達に視線をやった。皆怒るでもなくただ、優しく微笑んで頷いてくれた。
 私は少し恥ずかしく思いながらも、チューニングしてその新曲を披露する。
 なんてこと無いラブソング。今までの日常と変わってしまった日常。それでも好きで会いたいと思う気持ち。また、一緒に色んな事を共有出来たら良いなと願望も乗せた歌詞。
 明るい曲調に少しの寂しさを乗せた曲にしてみたが、どうだろうか?
 今までは新曲が出来たら友達に聞いてもらってたから、少し不安だけど⋯⋯それでも今の私の全てでその曲を披露した。

「⋯⋯素敵なラブソングね」
 拍手してくれた避難民の人達の中で、老婦人がそう言ってくれる。
「私も! この曲好き! 避難した人達皆にも聴いてもらいたい!」
 女の子のその言葉がきっかけで、何故かこの避難シェルターの人達は「ネット回線使って連絡取れるなら、まだ動画サイトとか残ってるのでは? LIVE配信してみたら良いんじゃないか?」とか「互いに気晴らしになるだろうし、君さえ良ければどうだろうか」と提案されて少し考えたけど、結局両親の後押しでやる事にした。
 セトリは昔作った曲も合わせて10曲くらい。他のシェルターに連絡取ってくれた自治会の人達から予定日を聞き、練習を重ねて遂に本番を迎える。
 初めてのLIVE配信だけど、結構大勢の人が配信を見ているそうで、余計に緊張してしまうけど⋯⋯私の曲で少しでも元気になれるならと自分を奮い立たせた。

 そうして私は、この閉ざされた世界に精一杯のラブソングを歌い続けた。

5/5/2025, 2:34:40 PM

 人生に失望した。
 友人達にも両親・先生・祖父母とかの親戚に、バイト先の店長や先輩・後輩に至るまで。
 嫌な事続きで滅入っていた。けれど、私は誓って悪いことなんてしていない。
 やってない事をなすりつけられて、本当の事を言っても誰も信じてくれなかった。
 だから今日、学校を勝手に休んでここまで来たのだ。
 スマホのLINEは削除して、電話帳に登録された全ての連絡先をブロック。誰も私に連絡出来ないように対策しておいた。
 何時間もかけてなれない交通機関を乗り継ぎ、自然豊かなこの地へと降り立った。
 今まで貯めていたバイト代を使って美味しいもの食べて、夜まで時間を潰し私はこの断崖絶壁までやってきたのだ。
 周りは草木に囲まれていて、その先に海が一望できる。
 夜空には綺麗に光るお月様と、空いっぱいに広がるお星様。
 最後に見たい景色として、思いついたのがこの風景だった。

 いい人生だった。
 なんて言えたらもっと最高だったのに⋯⋯残念ながら今の私に、そんな言葉は嘘でも言えないだろう。
 でも、本当に綺麗な空だった。
 今度、もし生まれ変われるのなら、私は星になりたいなって思うくらい素敵な景色。
 そうしてその風景の中に飛び込もうと一歩前に進もうとした時だった。

 パシッと腕を掴まれて、後ろに引かれる。
 咄嗟にバランスを取ろうとしたが、上手く取れず何かにぶつかった。顔を上げるとそこには少し険しい顔の男性がいる。
「こんな所で何してる。危ないだろう」
「止めないでください。私、次は星になるんです」
 危ないと言った彼に私は自分でも不思議に思う様な言い訳をした。
 でも彼は「何があった? 話せる事なら話してみなよ」と、そう言って上着を脱ぐと地面に敷き、その隣の土の上であぐらをかくと、敷いた上着の上をぽんぽんと叩いた。
 それに甘えて座り、ぽつぽつと今までの経緯を話した。
 彼は何も言わずに聞いてくれ、初対面の私に寄り添い怒ってくれる。
 それが嬉しくて、違う話もしたいと言ったら付き合ってくれた。
 そうして、夜が明け始めた頃に彼は不思議事を言う。
「嫌な事がたくさんあった場所に帰るのは嫌かもしれんが、それでもまだ人生を終わらせるのは早いと思う。君に濡れ衣をきせた人には何れ罰が当たるから、それまで耐えて生きてみなさい。変わりに僕が君の好きな星を届けるから、辛い時はそれを見て前に進みなさい」
 良く分からなかったけど、私はそれで良いんだって変に納得してしまい、朝になってまだ辛うじて残っていたバイト代で家に帰った。
 帰宅する頃には午後12時を過ぎていたけど、両親と祖父母が家に居て私は叱られた。けれど、言い返してやる。
「私を信じてくれなかった癖に、こういう時だけ親面するな! 帰ってきたのは唯一私を信じてくれた人の望みを叶えただけで、生きたくてここに戻ってきたわけじゃない!」
 そう言い捨てて私は自室へと戻り、遠出して疲れていたのか着替えてベッドに入ると直ぐに眠ってしまった。

 それから3日後、私宛に宛名の書かれてない手紙が届く。
 何も考えずに手紙を開くと、封筒の中から満点の星空が広がる。あの時見たような風景に、彼の言葉を思い出し、中には入っていた手紙を読む。
  “約束通り、星を贈る”
 1行だけの素っ気ないものだったし、どういう原理でこの星々が私の部屋全体に広がっているのかはわからないが⋯⋯それでも私の心は救われた。

 また別のバイトをしてお金を貯めよう。
 今度は死ぬためではなく、彼にもう一度会うために!

 そう決意を新たに、敵だらけの学校へと向かうのだった。

5/4/2025, 1:21:16 PM

 彼女に出会ったのは趣味の集まりだった。
 その時の僕はゴア表現の強いゲームが好きで、良くそういうスプラッタ系ホラーゲームをやっていた。
 その中でもマイナーなタイトルがお気に入りで、ネットで知り合った同志達と集まり、そのゲームについて語り合う。そんなオフ会で出会ったのが彼女だった。
 彼女はゲームだけでなく、基本的にゴア作品全般が好きで、蒐集しているらしい。絵画やイラストに始まり、小説や漫画、果ては映画等の映像作品まで、幅広く蒐集していた。
 そんな彼女の話に興味を持ってしまった僕は、ゲーム以外でもゴア作品について話が聞きたくて、その旨を彼女に伝え連絡先を交換したいとお願いした。
 彼女はとても嬉しそうに笑い快く承諾してくれ、それ以降僕達は個人的に話すようになる。

 ある時は新しく上映された映画を一緒に観に行き、その帰りに感想を語り合ったり、彼女お勧めの漫画や小説を借りて読んだり。ゴア作品に触れれば触れる程、内容の悲惨さもそうだが⋯⋯しっかりとストーリーが作り込まれているのが多くて、僕はどんどんのめり込んでいく。
 そうして徐々に在り来りなモノでは物足りなくなって、様々な作品に触れるようになったが、どれも僕を満足させてくれなくなった。

 もっと、もっと凄惨で胸糞悪くなるようなモノが欲しい!

 日に日にそう思うようになり、藁にも縋る思いで彼女に相談した。
「なら、あなたが作れば良いのよ。自分の理想のゴアがどんなモノなのか、まずはノートに書き出してみたら? もし書けたら私にも見せてね」
 青天の霹靂とも言える提案だった。僕の理想がないなら、僕自身が作れば良い。彼女の言葉に感銘を受け、僕は何度もお礼を言ってから家に帰り、早速ノートに理想を書き出した。
 そして出来上がったそれをまた違う日に彼女に見せる。
「なるほど⋯⋯これが、あなたの理想なのね。素敵だけど、表現するとなるとかなり難しそうね。でも、やってみる価値はあると思うの」
 そう言ってまたノートに書かれた、僕の理想を表現する方法を教えてくれた。僕は彼女の助言通りに表現し続ける。何度も何度も慣れない作業に失敗し続けたけど⋯⋯納得のいく作品が出来た時、僕はこれまでにない感覚に陥った。
 達成感も喜びもあったけど、それとは違う何が僕の中に渦巻いているのが分かる。しかし、それが何なのかは理解できず、掴もうとしても掴みきれなかった。
 僕はその感覚に戸惑いつつも、わからないなら今は放って置くことにして、僕の理想―――その全てを表現する事に全力を尽くした。
 そうして作り上げた理想も底をつきかけた時。僕はこれでは満足出来なくなっていると理解する。
 まただ。また、僕は満足出来なくなってしまった!
 どうすればこれ以上の理想を体現できるのかと考えた時、彼女の顔が浮かんだ。だからまた彼女に相談した。
 そうしたらまた、僕の思い付かない方法を教えてくれ、彼女はそれを表現する場所や道具まで提供して、それに必要な人材を提供してくれる人達も紹介してくれた。

 そこからまた僕は、僕の理想を体現する為にあらゆる努力をして、その全てを映像に残した。
 それを見返す度に満たされ創作意欲を刺激され、また新しい作品を生み出す。
 それを繰り返す日々は最高に楽しく幸せだった。
 しかし、最高のゴア作品を生み出す日々に、終止符が打たれた。それはあなた達の介入だ。
 僕の作品を傑作を、ただの殺人だと断じ! 侮辱した!
 あの素晴らしさが分からない者が、私の作品に触れるな! 語るな!
 不愉快極まりない!
 僕は断じて殺人なんてしていない。僕はただ彼女達を転生させただけだ。
 見ろ、あの安らかな顔を! 天使が眠っているような美しい姿を! あの姿は彼女達が自ら望んでなったのだとなぜわからない!?
 そう言った僕の反論も虚しく、死刑が確定した。そうして新たな作品を作ることも出来ず、余生を無駄に過ごしていった。新たなゴアを⋯⋯新たな作品を。作り上げる為のネタは全てノートに描き記した。

 ようやく訪れた死刑執行の朝。僕は看守と共に執行部屋へと移動する。その最中、見慣れた顔が前から歩いてきて「お疲れ様です!」そう挨拶する看守に「ご苦労」と返したのは紛れもなく彼女だった。
 すれ違いざまに目が合ったその人は、薄く笑いながら僕を見つめ⋯⋯その仄暗い瞳を逸らすことなく声もなく言葉を発する。

“さようなら、良い見世物でしたよ”

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