紅月 琥珀

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 人生に失望した。
 友人達にも両親・先生・祖父母とかの親戚に、バイト先の店長や先輩・後輩に至るまで。
 嫌な事続きで滅入っていた。けれど、私は誓って悪いことなんてしていない。
 やってない事をなすりつけられて、本当の事を言っても誰も信じてくれなかった。
 だから今日、学校を勝手に休んでここまで来たのだ。
 スマホのLINEは削除して、電話帳に登録された全ての連絡先をブロック。誰も私に連絡出来ないように対策しておいた。
 何時間もかけてなれない交通機関を乗り継ぎ、自然豊かなこの地へと降り立った。
 今まで貯めていたバイト代を使って美味しいもの食べて、夜まで時間を潰し私はこの断崖絶壁までやってきたのだ。
 周りは草木に囲まれていて、その先に海が一望できる。
 夜空には綺麗に光るお月様と、空いっぱいに広がるお星様。
 最後に見たい景色として、思いついたのがこの風景だった。

 いい人生だった。
 なんて言えたらもっと最高だったのに⋯⋯残念ながら今の私に、そんな言葉は嘘でも言えないだろう。
 でも、本当に綺麗な空だった。
 今度、もし生まれ変われるのなら、私は星になりたいなって思うくらい素敵な景色。
 そうしてその風景の中に飛び込もうと一歩前に進もうとした時だった。

 パシッと腕を掴まれて、後ろに引かれる。
 咄嗟にバランスを取ろうとしたが、上手く取れず何かにぶつかった。顔を上げるとそこには少し険しい顔の男性がいる。
「こんな所で何してる。危ないだろう」
「止めないでください。私、次は星になるんです」
 危ないと言った彼に私は自分でも不思議に思う様な言い訳をした。
 でも彼は「何があった? 話せる事なら話してみなよ」と、そう言って上着を脱ぐと地面に敷き、その隣の土の上であぐらをかくと、敷いた上着の上をぽんぽんと叩いた。
 それに甘えて座り、ぽつぽつと今までの経緯を話した。
 彼は何も言わずに聞いてくれ、初対面の私に寄り添い怒ってくれる。
 それが嬉しくて、違う話もしたいと言ったら付き合ってくれた。
 そうして、夜が明け始めた頃に彼は不思議事を言う。
「嫌な事がたくさんあった場所に帰るのは嫌かもしれんが、それでもまだ人生を終わらせるのは早いと思う。君に濡れ衣をきせた人には何れ罰が当たるから、それまで耐えて生きてみなさい。変わりに僕が君の好きな星を届けるから、辛い時はそれを見て前に進みなさい」
 良く分からなかったけど、私はそれで良いんだって変に納得してしまい、朝になってまだ辛うじて残っていたバイト代で家に帰った。
 帰宅する頃には午後12時を過ぎていたけど、両親と祖父母が家に居て私は叱られた。けれど、言い返してやる。
「私を信じてくれなかった癖に、こういう時だけ親面するな! 帰ってきたのは唯一私を信じてくれた人の望みを叶えただけで、生きたくてここに戻ってきたわけじゃない!」
 そう言い捨てて私は自室へと戻り、遠出して疲れていたのか着替えてベッドに入ると直ぐに眠ってしまった。

 それから3日後、私宛に宛名の書かれてない手紙が届く。
 何も考えずに手紙を開くと、封筒の中から満点の星空が広がる。あの時見たような風景に、彼の言葉を思い出し、中には入っていた手紙を読む。
  “約束通り、星を贈る”
 1行だけの素っ気ないものだったし、どういう原理でこの星々が私の部屋全体に広がっているのかはわからないが⋯⋯それでも私の心は救われた。

 また別のバイトをしてお金を貯めよう。
 今度は死ぬためではなく、彼にもう一度会うために!

 そう決意を新たに、敵だらけの学校へと向かうのだった。

5/5/2025, 2:34:40 PM