紅月 琥珀

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 彼女に出会ったのは趣味の集まりだった。
 その時の僕はゴア表現の強いゲームが好きで、良くそういうスプラッタ系ホラーゲームをやっていた。
 その中でもマイナーなタイトルがお気に入りで、ネットで知り合った同志達と集まり、そのゲームについて語り合う。そんなオフ会で出会ったのが彼女だった。
 彼女はゲームだけでなく、基本的にゴア作品全般が好きで、蒐集しているらしい。絵画やイラストに始まり、小説や漫画、果ては映画等の映像作品まで、幅広く蒐集していた。
 そんな彼女の話に興味を持ってしまった僕は、ゲーム以外でもゴア作品について話が聞きたくて、その旨を彼女に伝え連絡先を交換したいとお願いした。
 彼女はとても嬉しそうに笑い快く承諾してくれ、それ以降僕達は個人的に話すようになる。

 ある時は新しく上映された映画を一緒に観に行き、その帰りに感想を語り合ったり、彼女お勧めの漫画や小説を借りて読んだり。ゴア作品に触れれば触れる程、内容の悲惨さもそうだが⋯⋯しっかりとストーリーが作り込まれているのが多くて、僕はどんどんのめり込んでいく。
 そうして徐々に在り来りなモノでは物足りなくなって、様々な作品に触れるようになったが、どれも僕を満足させてくれなくなった。

 もっと、もっと凄惨で胸糞悪くなるようなモノが欲しい!

 日に日にそう思うようになり、藁にも縋る思いで彼女に相談した。
「なら、あなたが作れば良いのよ。自分の理想のゴアがどんなモノなのか、まずはノートに書き出してみたら? もし書けたら私にも見せてね」
 青天の霹靂とも言える提案だった。僕の理想がないなら、僕自身が作れば良い。彼女の言葉に感銘を受け、僕は何度もお礼を言ってから家に帰り、早速ノートに理想を書き出した。
 そして出来上がったそれをまた違う日に彼女に見せる。
「なるほど⋯⋯これが、あなたの理想なのね。素敵だけど、表現するとなるとかなり難しそうね。でも、やってみる価値はあると思うの」
 そう言ってまたノートに書かれた、僕の理想を表現する方法を教えてくれた。僕は彼女の助言通りに表現し続ける。何度も何度も慣れない作業に失敗し続けたけど⋯⋯納得のいく作品が出来た時、僕はこれまでにない感覚に陥った。
 達成感も喜びもあったけど、それとは違う何が僕の中に渦巻いているのが分かる。しかし、それが何なのかは理解できず、掴もうとしても掴みきれなかった。
 僕はその感覚に戸惑いつつも、わからないなら今は放って置くことにして、僕の理想―――その全てを表現する事に全力を尽くした。
 そうして作り上げた理想も底をつきかけた時。僕はこれでは満足出来なくなっていると理解する。
 まただ。また、僕は満足出来なくなってしまった!
 どうすればこれ以上の理想を体現できるのかと考えた時、彼女の顔が浮かんだ。だからまた彼女に相談した。
 そうしたらまた、僕の思い付かない方法を教えてくれ、彼女はそれを表現する場所や道具まで提供して、それに必要な人材を提供してくれる人達も紹介してくれた。

 そこからまた僕は、僕の理想を体現する為にあらゆる努力をして、その全てを映像に残した。
 それを見返す度に満たされ創作意欲を刺激され、また新しい作品を生み出す。
 それを繰り返す日々は最高に楽しく幸せだった。
 しかし、最高のゴア作品を生み出す日々に、終止符が打たれた。それはあなた達の介入だ。
 僕の作品を傑作を、ただの殺人だと断じ! 侮辱した!
 あの素晴らしさが分からない者が、私の作品に触れるな! 語るな!
 不愉快極まりない!
 僕は断じて殺人なんてしていない。僕はただ彼女達を転生させただけだ。
 見ろ、あの安らかな顔を! 天使が眠っているような美しい姿を! あの姿は彼女達が自ら望んでなったのだとなぜわからない!?
 そう言った僕の反論も虚しく、死刑が確定した。そうして新たな作品を作ることも出来ず、余生を無駄に過ごしていった。新たなゴアを⋯⋯新たな作品を。作り上げる為のネタは全てノートに描き記した。

 ようやく訪れた死刑執行の朝。僕は看守と共に執行部屋へと移動する。その最中、見慣れた顔が前から歩いてきて「お疲れ様です!」そう挨拶する看守に「ご苦労」と返したのは紛れもなく彼女だった。
 すれ違いざまに目が合ったその人は、薄く笑いながら僕を見つめ⋯⋯その仄暗い瞳を逸らすことなく声もなく言葉を発する。

“さようなら、良い見世物でしたよ”

5/4/2025, 1:21:16 PM