紅月 琥珀

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4/11/2025, 12:08:27 PM

 踏み込まれたくない領域というのは誰にでもあるもので、それと同じ様に奪われたくないモノも、譲れないモノも存在する。
 君と僕の関係性を例えるなら、略奪なんだろうなと垂れ流していたテレビを観ながら思った。
 適当につけたチャンネルでやっていたのが恋愛系のバラエティ番組で、トークテーマが恋人との関係性について。特に興味も無かったけど、他の番組も対して面白そうなものが無く⋯⋯これでいいやと聞き流しながら食事をとっていた。
 ふと、聞こえたテーマに僕は君との事を思い浮かべる。喧嘩と言うほどでも無いが、互いが互いに我が強くて良く衝突してはお互いに踏み込まれたくない領域まで―――土足で侵入して荒らすを繰り返していた。
 本当に不愉快な程、互いの手放したくないモノを真っ向から否定し合い、奪ってはボロボロになるまで傷つけ合う。
 正直、付き合っているわけじゃないけど⋯⋯なんでこんな人と一緒にいるんだろうとは何度も思っている。けれど、仕事上の付き合いもあるので我慢していた。
 何度も必要最低限の付き合いにとどめようと努力したけど、彼女の方が何故か僕に絡みに来る。あらゆる手を尽くして距離を取ろうとしたけど、その度に彼女は益々躍起になって絡みに来た。

 迷惑な人。凄く嫌な人。
 でも、凄く仕事が出来て⋯⋯純粋に尊敬出来る部分もある。
 何度も傷つけ合って奪い合う。
 良い所も悪い所も含めて、ボロボロになるまでやり合い続けて―――いったい僕らは何を成そうとしているのかと、最近よく思うようになっていた。
 いっそ転職でもしようかと思ったが、きっと彼女の事だから関係なく今までのように距離を詰めてくるだろう。
 どうせ何しても無駄ならば―――いっそガードすら捨てて相手を叩きのめしてしまおうか。
 そんな考えに浸りながら、今日も君と僕の奪い合いが始まった。

4/10/2025, 2:11:02 PM

 酷くふわふわとした感覚の中で、自分の存在を確かめる。
 私が私である証明を探すけど、どうにも見つけられないでいた。
 そんなモノクロ世界で、息を殺しながら⋯⋯誰にも見つからないように生きている。
 でも、いつかは―――なんて思い、僅かな灯火(ひかり)を探していたら、気付けば君が隣で笑ってた。

 名前すら知らない。どんな人なのかも。
 でも何故かその笑顔に安心して、繋いだ手は暖かくて離したくないって思ったんだ。
 色の無かった世界は、君の周りだけ鮮やかに煌めいて⋯⋯私もその世界に行きたいと、始めて願えた。

 はじめて自分の意思で何かを願い、叶えようと奔走する。
 私(こ)の世界から抜け出すためにはどうすれば良い?
 何度も自分に問いかける。
 抗い続けてもモノクロの世界は色付く事無くそこに在り続けた。
 強い焦燥感に駆られて、変な夢でも観てるみたいな錯覚を覚える。
 ここじゃない何処かで、誰かが⋯⋯大切な誰かが待っていてくれている。そんな馬鹿げた妄想が脳裏に過った。
 ふと、その馬鹿げた妄想を足掛かりにしてみようなんて阿呆な事を思い付き、モノは試しとやってみる。

 なんてことはない。
 この世界は私の見ている夢だと思い込むだけ。
 ただの錯覚で幻なのだと“理解”して、目を覚まさせようという魂胆だ。
 これが成功するのは本当に眠っている時だけ。夢を見ている間にそれを自覚すると明晰夢になって、自分の意思で起きられるらしい。
 詳しくは知らないけど⋯⋯昔聞いた噂話だった。それなのに―――モノクロの空にヒビが入って、パキパキと何かが割れる音が聞こえてくる。
 その内ボロボロと空が崩れて混沌が現れた。私は、崩れる世界から逃げるように自宅に駆け込み⋯⋯自室のベッドに横になる。
 早く覚めろ、早く覚めろ、早く覚めろ、早く覚めろ!
 念じている間もパキパキと音がして大きな落下音と共に世界は崩れていく。
 そうして、少しずつ壊れていく世界と共に⋯⋯私の意識も遠退いていき、プツリと全てが途絶えた。

 ◇ ◇ ◇

 ふわふわとした感覚と光を感じて、私は酷く重いまぶたを開く。
 初めに見たのは白い天井。規則的な機械音が耳に届き、変に大きく聞こえる呼吸音を聞きながら私は今自分が病院にいるのだと理解する。

 その後はなんてことはない。
 医師から事のあらましを聞き、私と共にいた友人は即死だった事。
 私も危なかったと聞かされた。

 あぁ、待っている人など⋯⋯いなかったのだ。
 リハビリを頑張ったのは退院するため。
 私の願いをもう一度叶える為に、退院しても体がちゃんと動かせるまで頑張った。
 そしてようやく悲願を達成するために⋯⋯私はもう一度“あの世界”へ行くために、廃墟に忍び込んで首を括った。

4/9/2025, 11:40:26 AM

 節目節目で思い出す。一番幸せだった日々と、共に過ごした君の事。

 ずっと一緒にいられたら良かったって、苦しい時も悲しい時によく思ってた。
 嬉しい事と楽しい事は1番に君に伝えたくて、辛い時は側にいて欲しい。
 そんな君は遠く、遠くの知らない場所へ。
 嫌だと言う私に困ったように笑う君。子供の私と大人な君。
 正反対の私達。だけど君の隣は心地良くて、その声は安心する。だから離れたくなかったけど、仕方がないと君は言う。
 納得するしか無くてとても長い時間をかけて、何とか自分の心を納得させた。
 それでもやっぱり思い出す。

 いつまでも、いつまでも。
 君といた時間が1番幸せだったんだって、思い知らされる。
 伝えたい事はたくさん。
 聞きたい事もたくさん。
 でも、最初に言うのはきっと―――お元気ですか? だと思う。

 今も大好きで大切な君。
 お元気ですか?
 君は今、幸せでしょうか?
 君の優しい笑顔を思い浮かべながら、私は記憶の中の君に⋯⋯これからも同じ様に問い続けるのでしょう。


4/8/2025, 2:17:08 PM

 深く深く沈んでいく。
 暗くて綺麗なソラの中。
 私は遠いあの日の約束を思い出す。

 風の強い日だった。
 花が咲き乱れる丘の上で、あなたと一緒に聞いたラジオが歌うメロディーを口ずさみながら⋯⋯いつかの夢を見る。
 あのソラの向こう側へ―――大人になったら旅に出ようと。
 同じ曜日にこの丘で。何も言わなくても2人、示し合わせたように会いに行った。
 きっとこれからも続くと思ってた。変わらない幸せな夢。それを見続けられるんだと疑う事すら知らない⋯⋯あの日の私は無垢な子供だったのだろう。

 いつの日か、彼は来なくなった。
 来る日も来る日も彼を待ち、花が枯れ冬が来ても、彼が訪れる事は無かった。
 それでも私の胸の中。2人の約束が燻るから、その灯りが消えないように―――必死に勉学に励み夢を掴んだ。
 そうして訪れた約束のソラ。私達の船が進む中で、彼の痕跡を見つける。
 やっぱり彼も約束を覚えていたんだ!
 私は嬉しくて早く彼に会いたくて、彼の痕跡を辿り必死に捜した。
 けれど、見つけた彼は―――彼等は息絶えていた。
 地上への激突で破壊された船の残骸と沢山の死体。
 衝撃とは思えない変な傷のある船の一部。血まみれの船内。
 何とか中を捜査して見つけた彼の日記と、そこに記された書き殴られた文字。

 この胸に燻ぶっていた約束の灯火は消え、私はもう⋯⋯カエル事はないでしょう。
 あなたと結んだ約束は、このソラで解けてしまったから。
 どうかあなたと共に“2人のソラ”で、新たに旅立つ事を―――許してください。

 深く深く沈んでいく。
 暗くて綺麗なソラの中。
 私は“あなた”と一緒に、今日もソラを漂って(たびして)いく。

4/8/2025, 1:51:29 AM

 咲いて、散って。
 生を謳歌する命はまるで花のようだと、遠い昔あの人が言っていた。
 その日の私は、彼の人の言葉の意味を理解できなかった。

 余年幾許もないこの身になってから、よく昔の事を思い出す。
 遠い昔、まだ私が幼い頃の事だとか。あの人と結婚した時の事だとか。
 子供がひとりだちした時の事を、思い出した時もあった。
 それらは未だ鮮明で、まるで昨日の事の様に思い出せた事に驚きを隠せなかった。
 そうして余生を思い出と共に過ごそうと、そう思って様々な事を思い出している内に⋯⋯あの人が言っていた言葉を思い出したのだ。

 生とは花のようだ、と。

 あの日の私にはよく分からなかったけれど⋯⋯今思えば確かにと納得のいく言葉だった。
 思い出や経験はまるで蕾の様に、ある日ふとした瞬間に花ひらくのだと、この歳になってようやく理解する。
 色とりどりの思い出や経験達。
 歳を重ねれば重ねるほどに美しく咲き誇り⋯⋯そして―――死の瞬間に散華していくのでしょう。

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