紅月 琥珀

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4/6/2025, 12:59:44 PM

 小さな希望と大きな不安を持って出た旅路だった。
 長年の夢が叶う嬉しさと、未開拓の宇宙(そら)へ踏み入る不安を胸に⋯⋯私達は飛び立つ。
 広大な宇宙の旅は母星で習った事なんて殆ど役に立たず、手探りの毎日で⋯⋯辛いこともあったけど、それでも皆で力を合わせて何とかやっている。

 沢山の惑星を見てきた。
 それこそ木星のような重力の強い惑星だとか、地球に似た環境の惑星等。宇宙船から無人機を飛ばして調べて、降りれそうな場所には降り立って直接調査したこともある。
 決して楽しいだけの旅路では無かった。けれど、苦しく辛いだけの道のりでも無い。
 不安は今もこの胸に燻ぶっているけど、それと同じくらい―――これからの旅路に期待もしていた。

 未開拓の銀河。数多の惑星。
 それらを私達の手で記録し、母星に送る。
 まるで地図を作るように、少しずつ⋯⋯でも正確に。どんな些細な事でも、記録していく。

 遠く⋯⋯遠く⋯⋯遥かな宇宙(そら)で、未開の銀河の地図を作る。
 幼い頃の夢の欠片と、現在遂行している大切な仕事。
 楽しいばかりでは無くても、充実した日々に⋯⋯今日も感謝しながら眠りにつくのだった。


4/5/2025, 4:39:38 PM

 好きだと言った 貴方の瞳
 宝石みたいにキラキラしてる
 ティールブルーのトルマリンみたい

 好きだと言った 貴方の瞳
 宝石みたいにキラキラしてた
 光を透過するエメラルドみたい

 好きだよと言いながら
 手を伸ばす その瞳に
 傷付けないように くるり
 取り出したモノ 手のひらに

 暖かで不思議な感触と赤色
 しつこい赤を落として
 ホルマリンで満たしたビンに詰めた

 好き、好き、大好き⋯⋯
 大切な人達の持っていた
 キラキラと輝く宝石達
 なくならないように
 なくさないように
 お気に入りのビンを抱き締めて
 今日もまた“好き”を捜していく


4/4/2025, 11:07:40 AM

 暖かな風がそよぐ季節を迎え、私は今日…新たな旅立ちを祝福する。

『木漏れ日の日々に』

 春先の暖かな風に揺られて、ざわざわと音を立てる梢に耳を澄ます。
 先程まで騒がしかった校舎も今は静まり、私はここであなた達が来るのをずっと待っている。その間に脳裏を掠めるのは、共に過ごした記憶だった。
 月日が過ぎ去るのは早く、瞳を閉じれば鮮明に浮かぶ日々も、今は思い出となり……私はそれを追懐する。
 たくさんの経験をした行事。皆で騒いだ休み時間。
 放課後には仲間達と部活に勤しみ、様々な思いを共有した。
 そんな彩り鮮やかな日常も、今は思い出となって私の中をめぐっている。
 一つ一つ思い返しながら今日という日を思う。そうしている内に、先程まで静まっていた校舎が最後の賑わいに包まれていく。
 そこに響く声はもう会うことのない別れを歌う様で……この胸を締め付ける。
 あの日の面影を残しながらも成長したあなた達。
 泣いている子も、遠くで友人と談笑している子も、皆昔よりもずっと大人びて見え、この場所で共に成長してきた事を教えてくれる。
「ねぇ、記念写真撮ろうよ!」
 そう言って私も一緒に写してくれた少女が「上手く撮れた」と、嬉しそうに笑う。
 それを見た友人達も笑顔で答え、その光景を見ていた私も笑った。
 その後、他愛のない話で盛り上がりを見せる彼女達。普段通りにふざけ合う姿を私は微笑みながら見つめていた。
「これで最後かぁ……」
 ひとしきり騒いだ後、一人の少女が寂しそうに呟く。その言葉に彼女達の顔が曇り、何だか私も寂しくなる。
「確かに……ここで皆と過ごすのは最後だけど、永遠の別れって訳じゃないでしょ?」
 しんみりとした空気の中、ふと顔を上げ少女が言う。皆を元気付けるように明るく振る舞っているのが見て取れたが、ソレに続くように髪の長い少女も口を開く。
「そうだよ! 会おうと思えばいつだって会えるじゃない。たとえ遠く離れたって、連絡取り合って会いに行けばいいんだから。それにさ……―――――」
 そこで一度言葉を区切り、一呼吸置いた彼女は私を見上げながら言う。
「今年も桜が祝福してくれてるよ。凄く綺麗に咲いて……私達を送り出してくれてるんだから、最後に涙で終わったらこの子だって寂しくなっちゃうでしょ?」
 ふわりとした笑顔で言う彼女に「そっか……そうだよね!」と、少女は精一杯の笑顔で答える。
 それを見ていた友人達も微笑みながらそっと寄り添い、刹那の時を過ごしていく。
 ここで過ごした懐かしい記憶や、私の知らない彼女達の思いでまで、沢山のことを話していた。
 そうして彼女達と過ごしている間に、少しずつ人が減っていくのがわかった。もうすぐ終わりを迎えるであろうこの時間を、私は噛み締めるように過ごす。
 そんな私を元気付けるように、一際強い風が吹く。
 少女達は髪を軽くおさえながら、風が収まるのを待っている。
 少しして風が凪ぐと、少女達は軽く髪を整えて私を見ながら呟いた。
「今年も綺麗に咲いてくれてありがとう」
 今日一番の綺麗な笑顔に、私は『元気でね』と返す。
 決して届かない言葉ではあるけれど……それでも私はこの気持ちを届けたくて必死に伝える。
 今の私に出来る最高の笑顔で、あなた達のこれからが素敵なモノである事を祈った。
「……今、桜が笑った気がする」
 大人しそうな少女がそう言って私に触れた。
 暖かな手のひらと少女の鼓動が幹を伝い、私に届く。その熱を感じた瞬間――――愛おしさが溢れ出す。
 それと同時に少しの切なさが胸を締め付け……私は花びらを散らした。

✶ ✶ ✶

 冬を越えて春を謳う。
 季節が巡り、別れの日が訪れた。
 たくさんの祝福と、少しの切なさを含んだ詩は……また新しい出会いを引き寄せ巡る。

 この花が緑に変わる頃、新しい思い出と共にあなた達を思うでしょう。
 別れるその日まで、たくさんの記憶をくれたあなた達へ……私に出来る最高の祝福を送るから――――。
 どうか、思い出したなら会いに来て欲しいと、しじまに沈んだ校舎を眺めながら……聞こえぬ声で涙を流した。

木漏れ日の日々に 了

4/3/2025, 12:52:03 PM

 君と遊んだ記憶、君と見た景色。少しずつ霞んでく。
 あの日の夕焼けとか綺麗な青空。風の音と運んで来た雨の匂い。そのどれもが少しずつ、けれど確実に思い出せなくなっていく。
 忘れたくなくて、必死に書き殴った日記と絵は膨大な量となって部屋に散乱する。
 見返して読み返しても少しずつ情景は霞んで行く。
 そんな日々を過ごしていた。

 君との会話や約束。大切だったのに⋯⋯1日を終えるごとに消えていく。新しい物も全て書き記して思い出そうとしても掴めない。でも、何か大切なモノを落としたみたいに酷く虚しくなった。

 何度も、何度も。
 書いて、描いて。
 記録しては霞んで消えていく。
 その間隔は日に日に短くなって1日に何度も記録して、それでも⋯⋯読み返しても見返しても他人の記録の様に思えてならない。
 どうして、こんな事になったの?
 君は悲しそうに笑って、私を受け入れてくれるけど⋯⋯私は私を許せなくて気が狂いそうだった。

 そうして訪れた最悪の日。
 私は君の全てを忘れた。
 知らない人の事が書かれたノートと、綺麗な景色の絵や写真が部屋に散乱している。
 その一つ一つを手にとって見てみたけど、どれも誰かの記録の様に思えて⋯⋯どうしてこんな物がここにあるのかと、気持ち悪くなった。
 全てまとめて母に捨てて欲しいと頼んだ。
 酷く悲しそうな⋯⋯泣き出しそうな顔をする母に、困惑したが母はそれを了承して受け取ってくれた。

 それからは何もする事が無くて、今までどうやって過ごしていたのかと思う程⋯⋯やる事が無かった。
 けれどたまに―――とても大切な何かがあったような気がして、酷く胸が苦しくなって⋯⋯理由もわからないまま、私は静かに涙を流した。



4/2/2025, 1:43:19 PM

 私の世界は逆さま世界。
 そんな風に見えたらきっと楽しいだろうなって思う。
 例えば、海に広がる空には鳥や雲が浮いていて、雲は掬ったりして食べれたら良い。
 空には砕けた海があって、そこには大きなクジラやイルカ等の海洋生物が優雅に泳いでる。
 コンクリートは海に広がる空から取ってきた雲を固めて道を作り、家は星を集めて建てるの。
 雨は土が降るところと海水が降る所があって、それはランダムが良い。
 だから飛行機は海の空で泳いで、船は逆さまになりながら空の海を行ったり来たり。
 そんな逆さまな世界で、生きるとしたらどんな生活になるのかな?
 雲の土には海藻や珊瑚が生えてて、空の海には沢山の地上に生えてた植物達がのびのびと育ってる。
 それを収穫するにはどうしたら良い?
 考えるだけでもワクワクする。
 私の世界は逆さま世界。
 みんな逆さまになって、色んな物も逆転して⋯⋯そうなったらどうなるのかって考えるのが凄く楽しい。
 次はどんな事を考えようか?
 そうして―――私は今日も不思議で楽しい思考の海を泳いでいく。



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