紅月 琥珀

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 君と遊んだ記憶、君と見た景色。少しずつ霞んでく。
 あの日の夕焼けとか綺麗な青空。風の音と運んで来た雨の匂い。そのどれもが少しずつ、けれど確実に思い出せなくなっていく。
 忘れたくなくて、必死に書き殴った日記と絵は膨大な量となって部屋に散乱する。
 見返して読み返しても少しずつ情景は霞んで行く。
 そんな日々を過ごしていた。

 君との会話や約束。大切だったのに⋯⋯1日を終えるごとに消えていく。新しい物も全て書き記して思い出そうとしても掴めない。でも、何か大切なモノを落としたみたいに酷く虚しくなった。

 何度も、何度も。
 書いて、描いて。
 記録しては霞んで消えていく。
 その間隔は日に日に短くなって1日に何度も記録して、それでも⋯⋯読み返しても見返しても他人の記録の様に思えてならない。
 どうして、こんな事になったの?
 君は悲しそうに笑って、私を受け入れてくれるけど⋯⋯私は私を許せなくて気が狂いそうだった。

 そうして訪れた最悪の日。
 私は君の全てを忘れた。
 知らない人の事が書かれたノートと、綺麗な景色の絵や写真が部屋に散乱している。
 その一つ一つを手にとって見てみたけど、どれも誰かの記録の様に思えて⋯⋯どうしてこんな物がここにあるのかと、気持ち悪くなった。
 全てまとめて母に捨てて欲しいと頼んだ。
 酷く悲しそうな⋯⋯泣き出しそうな顔をする母に、困惑したが母はそれを了承して受け取ってくれた。

 それからは何もする事が無くて、今までどうやって過ごしていたのかと思う程⋯⋯やる事が無かった。
 けれどたまに―――とても大切な何かがあったような気がして、酷く胸が苦しくなって⋯⋯理由もわからないまま、私は静かに涙を流した。



4/3/2025, 12:52:03 PM