紅月 琥珀

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 咲いて、散って。
 生を謳歌する命はまるで花のようだと、遠い昔あの人が言っていた。
 その日の私は、彼の人の言葉の意味を理解できなかった。

 余年幾許もないこの身になってから、よく昔の事を思い出す。
 遠い昔、まだ私が幼い頃の事だとか。あの人と結婚した時の事だとか。
 子供がひとりだちした時の事を、思い出した時もあった。
 それらは未だ鮮明で、まるで昨日の事の様に思い出せた事に驚きを隠せなかった。
 そうして余生を思い出と共に過ごそうと、そう思って様々な事を思い出している内に⋯⋯あの人が言っていた言葉を思い出したのだ。

 生とは花のようだ、と。

 あの日の私にはよく分からなかったけれど⋯⋯今思えば確かにと納得のいく言葉だった。
 思い出や経験はまるで蕾の様に、ある日ふとした瞬間に花ひらくのだと、この歳になってようやく理解する。
 色とりどりの思い出や経験達。
 歳を重ねれば重ねるほどに美しく咲き誇り⋯⋯そして―――死の瞬間に散華していくのでしょう。

4/8/2025, 1:51:29 AM