酷くふわふわとした感覚の中で、自分の存在を確かめる。
私が私である証明を探すけど、どうにも見つけられないでいた。
そんなモノクロ世界で、息を殺しながら⋯⋯誰にも見つからないように生きている。
でも、いつかは―――なんて思い、僅かな灯火(ひかり)を探していたら、気付けば君が隣で笑ってた。
名前すら知らない。どんな人なのかも。
でも何故かその笑顔に安心して、繋いだ手は暖かくて離したくないって思ったんだ。
色の無かった世界は、君の周りだけ鮮やかに煌めいて⋯⋯私もその世界に行きたいと、始めて願えた。
はじめて自分の意思で何かを願い、叶えようと奔走する。
私(こ)の世界から抜け出すためにはどうすれば良い?
何度も自分に問いかける。
抗い続けてもモノクロの世界は色付く事無くそこに在り続けた。
強い焦燥感に駆られて、変な夢でも観てるみたいな錯覚を覚える。
ここじゃない何処かで、誰かが⋯⋯大切な誰かが待っていてくれている。そんな馬鹿げた妄想が脳裏に過った。
ふと、その馬鹿げた妄想を足掛かりにしてみようなんて阿呆な事を思い付き、モノは試しとやってみる。
なんてことはない。
この世界は私の見ている夢だと思い込むだけ。
ただの錯覚で幻なのだと“理解”して、目を覚まさせようという魂胆だ。
これが成功するのは本当に眠っている時だけ。夢を見ている間にそれを自覚すると明晰夢になって、自分の意思で起きられるらしい。
詳しくは知らないけど⋯⋯昔聞いた噂話だった。それなのに―――モノクロの空にヒビが入って、パキパキと何かが割れる音が聞こえてくる。
その内ボロボロと空が崩れて混沌が現れた。私は、崩れる世界から逃げるように自宅に駆け込み⋯⋯自室のベッドに横になる。
早く覚めろ、早く覚めろ、早く覚めろ、早く覚めろ!
念じている間もパキパキと音がして大きな落下音と共に世界は崩れていく。
そうして、少しずつ壊れていく世界と共に⋯⋯私の意識も遠退いていき、プツリと全てが途絶えた。
◇ ◇ ◇
ふわふわとした感覚と光を感じて、私は酷く重いまぶたを開く。
初めに見たのは白い天井。規則的な機械音が耳に届き、変に大きく聞こえる呼吸音を聞きながら私は今自分が病院にいるのだと理解する。
その後はなんてことはない。
医師から事のあらましを聞き、私と共にいた友人は即死だった事。
私も危なかったと聞かされた。
あぁ、待っている人など⋯⋯いなかったのだ。
リハビリを頑張ったのは退院するため。
私の願いをもう一度叶える為に、退院しても体がちゃんと動かせるまで頑張った。
そしてようやく悲願を達成するために⋯⋯私はもう一度“あの世界”へ行くために、廃墟に忍び込んで首を括った。
4/10/2025, 2:11:02 PM