紅月 琥珀

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3/19/2025, 2:24:27 PM

 ある日の放課後。友人達とカラオケで盛り上がっている時だった。
 ピコンと通知が届く音が鳴り、皆一斉にスマホの通知を確認する。
 その中の一人が自身の通知であると明かし、その相手がこの場にいる全員共通の友人であるとも伝えられた。
『今、どこにいるの? だって』
 そう私達に言ったが、伝えた本人は酷く動揺している。
 それもそのはず。先程LINEを送ってきた友人は、放課後カラオケに行くからと誘ったが、用事があると断っていたからだ。
 その為、何故そんな事を聞いてるのか分からないといった表情をしている。
 それは、他の人達も同じではあるが⋯⋯私だけは違った。
『莉乃、私が変わりにLINE返信するのって大丈夫? ちょっと気になる事があるから確認したいんだけど良い?』
 そう言うとふたつ返事でスマホを貸してくれた。
 そのまま私は彼女とやり取りし始める。

 用事あるって言ってたけど終わったの?

 終わった。今どこ?

 駅前のカラオケ居るよ。

 どこの?

 いつものカラオケだよ。分かるでしょ?

 わかんない、今どこ?

 来るならいつものカラオケね。着いたら言って。

 今どこ? わかんない、今どこ?

 今どこ?どこ?どこ?

 どこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこ

 今どこだって言ってんだよ言えよ言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え言え

 ヨミ駅前商店街の№℉℃√⁉ってカラオケ店だよ。

 今イくね

 それだけ返すとメッセージが止んだ。
 私は不安そうな皆に怪異であった事を伝えて、とりあえず私のスマホから本物の彼女のアカウントにLINEを送り、一連の事を説明して今何をしているのか尋ねた。
『いま親戚の法事に参加してるから、今日はカラオケとか無理だよ。そいつ何がしたかったんだろうね』っと返って来る。
 とりあえず、全く違う場所。しかもこの世にはない場所を指定したので何とかなるとは思うが⋯⋯一応おばあちゃんに連絡して事情を説明。
 すると、おばあちゃんは大笑いして良くやったと褒めてくれた。
『いい判断だよ、そいつは自分の居場所教えると来ちゃってね。寂しいからって気に入った子を一緒に連れて行くやつだ。しかし、案内したのがヨミとはね。恐れ入ったよ。』
 何通かはメッセージが届くかもしれないが、それ以上は何も出来ないだろうと楽しげに言っている。
 私はその事を友人たちに言うと、ようやく安堵の表情を浮かべてホッと一息ついていた。
 まぁ、おばあちゃんが言うなら間違いないだろうと私も一息つく。

 そうしておばあちゃんの言う通り2・3通恨み節が炸裂したLINEが送られてきたが、その後は何も起こることはなく⋯⋯カラオケを目一杯楽しんでから皆と別れて帰宅する。
 家に帰るとおばあちゃんは私の頭を撫でながら、最近良くやってるねぇ。
 流石私の孫だよって褒められて少し満更でもないかなって思ってしまった。


3/18/2025, 12:31:18 PM

 星 海 空
 綺麗なもの キラキラと
 花 雨 風
 ふわふわと儚い

 大切なもの 閉じ込めた
 クッキー缶も サビれる程に
 沢山の好きを詰め込んだ

 あなたは覚えてる?
 あの日の喜び オレンジの抱擁
 あなたは覚えてる?
 あの日の嬉しさ 黄色の好奇心
 心の中に 今も⋯⋯


 雨上がりの街並み
 夕焼けに染まる世界
 月光の慈悲と夜の帳
 朝の静けさにあなたの寝顔

 あなたは覚えてる?
 あの日の悲しみ 青色の憂鬱
 あなたは覚えてる?
 あの日の憤怒 赤色の咆哮
 全部抱き締めて 進むの


 くるくる くるくる
 まわる世界に 私とあなた
 同じモノでも 全て違うの
 ひとつひとつが 特別なモノ

 くるくる くるくる
 まわる世界 その時々で変わる感情(かお)
 全てが混ざった 抱き締めた色
 いつか訪れる 黒色の孤独

 大切なもの 閉じ込めた
 クッキー缶の中 溢れてる
 鮮やかな日々 虹色の郷愁
 その心が 黒で染まりそうな時
 思い出して欲しいの たくさんの色

 抱き締めた全てが 煌めいて
 最後に贈る 白色の口づけ
 大好きなモノ もう一度
 今度は一緒に 探してみようか


3/17/2025, 12:06:54 PM

 掴もうと足掻いていた
 小さな夢 大きな願い
 青い薔薇が咲く頃に
 君と指切り 夕暮れ空

 掴もうと足掻いていた
 君の背中 遠すぎて
 何度腕を伸ばしても
 霞ばかりを掴んでた

 夕暮れ指切る帰り道
 君と手繋ぐ影法師

 星海の広がる空に
 願い事 一つ
 君との約束 夢の欠片
 箒星に乗せて飛ばした


 掴もうと足掻いていた
 夕焼け染まる天気雨
 遠く遠くの蝉時雨
 泣いていたのは誰だった?

 夕闇降ろす帳の先に
 意地悪影の手通せんぼ

 道なき道を行く君に
 追いつけないまま泣いた
 掴みたかった夢は
 いつの間にか砕けてた


 夜の帳に隠されて
 くつくつ笑う影法師
 あの日の僕が笑ってる

 星海の広がる空に
 願い事 一つ
 崩れ落ちたのは⋯⋯
 果たしてどちらだったのだろうか

 砕けた海の向こう側
 箒星と散った夢
 溶けてなくなるその日まで
 叶わぬ夢の欠片 彗星(ほし)に乗せて
 砕けた海に⋯⋯流し続けよう


3/16/2025, 1:42:58 PM

 そこは片田舎にある町外れの森の中。昼でも光を通さない程深い森の舗装されていない獣道を、ただひたすらに進んでいくと開けた場所に出る。
 そこには湖と立派な洋館があり、僕がその洋館のノッカーを軽く叩くと、開かれた扉の中へと入って行く。

『ようこそおいで下さいました。さぁ、こちらにお座り下さい。あなたのお話をお聞かせ下さい。』
 広いロビーに入ると、まるで待っていたかのようにその人は出迎えた。勧められた席に座ると、直ぐに暖かい珈琲とお菓子が出され、話すように促される。
 僕は今日ここに来た経緯を少しずつ話し始めた。

 婚約していた人がいた事。
 その人が憧れていた結婚式を上げたくて仕事を増やし、貯金していたが⋯⋯その分婚約者とは会える時間が減ってしまい、寂しかったという理由で浮気された。更にはお腹に赤ちゃんがいるという。
 ここ最近会えても食事を共にする程度だった為、確実に僕の子ではない。その子を産みたいらしくて、婚約破棄を言い渡され⋯⋯僕も彼女が信じられなくなったから承諾した。
 けれど、そう簡単に切り替えられなくてこの気持ちを彼女という記憶ごとなくしてほしくて、僕はこのサナトリウムを訪れたのだ。
 もし、可能なら彼女と過ごした10年分の記憶を別の物にすり替えて欲しいと、そう伝える。

『それはお辛い出来事でしたね。ご安心下さい。あなたのお悩みは私共が解決してみせます。
 さぁ、今回の担当医達の所までご案内いたします。こちらへどうぞ。』
 そういうと私の手を取り、吹き抜けの階段を上がって2階、1番左の部屋へと案内される。
 コンコンコン、と。控えめなノックの後にどうぞと声がかかり、案内してくれた彼女が扉を開けてくれた。
 手の仕草だけで中へと促され僕がお礼を言って入ると、そこには前髪で片目を隠した少女とふんわりとした雰囲気の少女に黒いマスクをした女性がおり、椅子に座るよう言われる。
 僕が指示通りに座るとふんわりとした雰囲気の少女が早速話を切り出した。
『特定の人物との思い出摘出と摘出した空白分の記憶を新たに繋げるであってますか?
 摘出した記憶は特殊な事例でもない限り戻る事はないです。
 それに、本人に会っても誰なのか分からなくなりますが大丈夫ですか?
 また、新しい記憶で空白期間を埋めると、他の人達との記憶に差異が生じてしまうのでその点注意が必要になります。
 その事を踏まえた上で、この同意書にサインして下さい。どんな記憶で埋めたいか、リクエストがあればその通りの記憶をお繋ぎ出来ますので、何かあれば遠慮せずに行ってくださいね!』
 そう言い終わると1枚の紙を、僕の目の前の机に差し出す。
 それは彼女の説明通りの内容が書かれた同意書であり、最後に摘出したモノは手術代としてもらうため、返せないとも書かれていた。
 私はその事に同意しサインすると、彼女に差し出す。彼女はそれを確認すると、引き出しの中からファイルを取り出して中にしまい僕に向き直る。
『では、どんな記憶にしたいか。具体的な要望はありますか?』
 そう聞いてきた彼女に、僕は理想の記憶を伝える。
 すると、わかりましたと笑顔で答えて、僕を壁際に設置されたベッドに誘導した。
 彼女は僕が横になるのを見届けると、不思議な音色の鈴をゆっくりと鳴らす。その音はとても心地が良く、聞いている内に―――少しずつ眠くなってくる。
 そのまま眠気に抗うことなく⋯⋯僕はゆっくりと意識を手放した。

 目が覚めると知らない天井が視界に広がっている。
 辺りを確認しようと上体を起こすと、それに気付いた少女が話しかけてきた。
『おはようございます。お加減は如何ですか?』
 ふんわりとした雰囲気の少女に僕は大丈夫ですと答えたが、何故ここにいるのか定かではなく⋯⋯困惑していた。
『ここは私達の経営するサナトリウムです。あなたはこの辺りで倒れていたので、私達が介抱していました。』
 お家に帰れそうですか? と何故ここにいるのか分からない僕に説明してくれ、気遣いにもそうだが親切にしてもらった事への感謝を述べた。
 そうして僕はその少女の案内で部屋を出てロビーへと行き、もう一度感謝を伝えてからその場を後にする。
 そこは深い森の中にあるらしく、舗装されていない獣道を進み⋯⋯何とか僕にも分かる道まで辿り着き、日が暮れる前にと急いで帰路についた。

 その日以降、たまに不思議な感覚に襲われる事がある。
 ある花の香りがすると、何か懐かしい感じがして心がざわめくのだ。
 その花の名前も知らないし、嗅いだ覚えもないのに何故だろう?
 そう不思議に思いながらも、シャンプーとかの香りで知らない内に印象に残ってたのかもしれないな⋯⋯と、そう納得しかけていた時だった。
 強く腕を引かれ驚いて振り返ると、そこには綺麗な長髪の女性が息を切らせながら僕の腕を掴んでいる。
 その人に面識はなく、僕は困惑していたけど⋯⋯何故か彼女は僕の名前を知っていて少し恐怖を感じた。
 彼女の言い分を纏めると、僕と彼女は前に婚約関係にあったが婚約破棄になった。しかし、その原因である子供は流産で流れたから今度こそ一緒に幸せになろう! という事だったが⋯⋯僕にそんな記憶は一切なく、きっとこの人は勘違いしているのだと判断する。
『あの、誰かと間違えていませんか? お恥ずかしながら⋯⋯僕は今まで生きてきて、女性と婚約⋯⋯ましてやお付き合いした事すらありませんよ。』
 そう言った僕に、彼女はあの時の事怒ってるなら謝るからと必死に縋り付いてきたが、正直知らない人にやられても怖いだけなので、このあたりで偶々いた通行人に警察を呼んでもらい、事情を説明する。
 僕が嘘を吐いていないと理解したのか、警察の方々が女性を連れて行ってくれたので僕は帰ることにした。
 そういえば⋯⋯彼女が去る前にあの花の香りがして心がざわついたけど、やっぱりシャンプーの香りか何かなのだろうかと―――ちょっと不思議に思いながらも、僕は家路を急いだ。


3/15/2025, 2:48:55 PM

 その人と出会ったのは夕暮れの寂れた公園。
 その日私は恋人に振られて泣きそうになるのを堪えながら歩いて⋯⋯けれどもそのまま家に帰る気にはなれず、当て所なく町中を彷徨っていた。
 そんな時に見つけた寂れた小さな公園。そこにあったブランコに座り、声を殺して涙を流す。
 涙と一緒に彼との思い出も全部流されれば良いのに⋯⋯と思いながら、流れ落ちる雫を拭くこともせず、ポロポロと地面に落ちる様を見つめていた。

 どのくらいそうしていたのか。涙が地面を濡らしていくのを見つめていた私の視界に、スッと綺麗なハンカチが差し出される。
 泣いて酷い顔なのは分かっていたけど、気になってつい⋯⋯顔を上げてしまった。
 そこには端正な顔立ちの男性が立っていて、その人は黙ってもう一度私にそのハンカチを差し出す。
 戸惑いながら受け取った私を見届けると、その人は私の隣のブランコに静かに座り、少し前後に揺らし始めた。
 何も話さず、ただそばにいて⋯⋯私の邪魔をするでもなく。
 この静寂を壊す事もなく⋯⋯ただ、私に寄り添う様に、隣のブランコを静かに揺らしていた。
 まるで私が泣き止むのを待っているかのように、彼はその場を立ち去る事なく、一定の感覚でゆらゆらとブランコを揺らすだけ。
 それは奇妙な光景だったと―――後から思うものの、その時の私は彼の行動に救われていた。
 辛い思いはしたけど、私は1人ではないんだって思えたから。
 そうして、彼の優しさに甘えて泣いた。貸してくれたハンカチで涙を拭いて、でも滔々(とうとう)とこぼれてくる涙を全て受け止めるには、このハンカチは小さ過ぎたみたいで⋯⋯泣き止んだ時にはびしょびしょになっていた。
 その頃にはもう夜の帳が下りていて―――私は、慌てて立ち上がり彼に向き直る。
 彼は不思議そうな顔をしてこちらを見ていたが、お礼と汚したハンカチは洗って返すと伝えて急いで帰宅した。
 お母さんには心配したと大変怒られ、腫れ上がった目元に何があったのかと詰め寄られる羽目になったが⋯⋯話を聞いてもらえてなんだかスッキリする。

 それから就寝し朝になり、学校へ向かう。勿論彼とその浮気相手の元友人は、私を見てニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながらイチャついてたけど、もうどうでもよかった。
 それよりも、昨日急いでいたから名前とか聞き忘れて帰ってしまい、今日あの公園に行って、会えるかと不安になっていた。
 一応昨日帰ってから直ぐに洗って乾燥機で乾かしたハンカチと、お礼として持参したお菓子はあるけど渡せるかと心配で気が気でなかった。
 放課後になるまで凄くソワソワして、授業に集中できてない私を、他の友人たちは心配してくれたけど⋯⋯大丈夫って言って誤魔化し続ける。
 それから放課後にあの公園へと向かう。昨日行った場所を思い出しながら彷徨い歩き、夕暮れ時にようやく見つけたその公園にはやはり誰も居なかった。
 それでも―――もしかしたらまた来てくれるかもしれないと思い、昨日と同じブランコに座り彼が来るのを待つ。
 昨日の彼のようにゆらゆらと揺らしながら待っていたら、突然後ろから影がさし⋯⋯振り返ると昨日の彼が立っていた。

『昨日はありがとうございます。これ、借りてたハンカチと昨日のお礼に⋯⋯お菓子なんですけど、良ければどうぞ』
 そう言ってハンカチとお菓子の入った袋を差し出す。
 彼はすんなりと受け取り、また隣のブランコに座りゆらゆらと揺らしはじめた。やはり彼は静かに、寄り添うような優しい静寂を保っていて、だからかも知れないけれど⋯⋯昨日の出来事を、あったばかりの彼につい愚痴るように話していた。
 その間もずっと沈黙を貫いて⋯⋯けれども時折頷く素振りを見せ、ちゃんと聴いてくれていると分かる。凄く心地の良い静寂の中で、響くのは私の話す声とブランコの錆びた鎖の揺れる音。
 全て話し終えた後、彼はやはり何も話さないまま―――スッと私に手を伸ばし頭を撫でてくる。とても優しく、よく頑張ったねって労る様な。
 それがあまりにも心地良くてその感覚に身を委ねていると、突然彼は撫でるのをやめてしまう。不思議に思い彼を見ると、こちらを見つめながら空を指さしていた。
 そちらを見やると、もうすぐ日が暮れるところだった。
 私はそろそろ帰らなきゃいけないとまた慌てて立ち上がるも、彼に向き直り再度昨日のお礼を言って―――また明日、ここに来れば会えますか? と質問する。
 彼はやはり喋らず、でも静かに頷いて返してくれ⋯⋯それを見た私は深く頭を下げてから帰宅した。

 その日からずっと彼に会いに行っている。
 元彼と友人の事などどうでも良くなる程、彼との時間は私にとって居心地の良いものだった。
 でも何故か夕暮れ時にならないと、彼のいる公園に辿り着くことが出来ないのだ。休みの日に朝から公園に行こうとして、何度も行った道だから覚えているはずなのに見当たらない。
 その辺りであの公園が普通ではない事。そして、彼も人では無いのだろうと察しが付いた。
 それでも――――――知ってしまったあの心地良さと温もりを、手放す勇気が持てずにいる。
 ゆっくりと、しかし確実に⋯⋯夕闇の中に引きずり込まれている感覚を覚えながら、今日も彼との逢瀬を楽しむ。
 いつか私も彼と同じ存在になるのだろうと、ざわめく心にフタをして⋯⋯手放せなくなった新たな恋に少しずつ溺れていく。


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