紅月 琥珀

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1/26/2025, 2:58:16 PM

 それは突然訪れた。
 例えば、道端の小石に躓く様に。
 或いは、朝、目が覚めるように。
 何の前触れもなく、けれどさも当たり前の様に告げられた。
 ある者は騒ぎ、ある者は慟哭し、また、ある者は呆然とその光景を見つめている。
 かく言う私はどうかと言うと。
 あぁ、そんなものかと、納得してしまった。
 そして、ふとある考えが過ったのだ。
 “そうだ、旅に出よう”と。
 どうせなら、思い出を巡る旅にしようと思い立ち私は必要最低限の物を持って、長年住み慣れた家を出た。

 それからというもの。私は自分の人生を振り返りながら、幼少期から今までに行った縁の地を巡る。
 歳を重ねていつの間にか無くなった場所もあったが、ボロボロになりながらも、そこにあり続ける物もあって、懐かしさと共に長く生きたのだなと感慨深くもあった。

 けれど、結局私は全ての終わりに我が家に帰ってきたのだ。
 長く人生を共にした大切な君との沢山の思い出が詰まったこの場所に。
 そして今、最後の時間に、あの日君と過ごした最後の日と同じ場所で、同じ様に星を眺めている。
 あの日とは違う空模様でも、美しさは変わらずに⋯⋯隣に君は居なくとも、同じ様に世界はまわり―――そして終わっていくのだろう。

 せめて、最後の瞬間に君を感じられたなら幸せだと、そんな事を思いながら私は一層きらめく星空に呟くのだ。

 『美しい世界よ、おやすみなさい』



 それは突然の出来事だった。
 例えば、ふと顔を上げた時に見つけた、1輪の桜の花だったり。
 或いは、遠くに見える夕日のオレンジが街を染め上げる光景によく似ていた。
 偶然に恵まれて見つけた美しいもの。

 ある日目覚めたら世界は終わっていた。
 それは何の前触れもなく、突然に。
 昨日まで居たはずの両親も、寝る前までメッセージをやり取りしていた友人達も。
 全ては瓦礫の中に消えていて、見る影もない惨状になっていた。
 目の前に広がるのは、街だった物の残骸とムカつく程に晴れ渡った青い空。
 どうすれば良いのかも分からずに、私はただ歩いていた。

 戸惑いながら歩いていた時に見つけた一軒のお家。
 周りはみんな酷い有様なのに、このお宅だけ原型を留めている。
 悪いと思いながら入ったお家で、1人眠るように横たわるご老人。
 大切そうに持っていたその本を拝借して覗き見してみた。

 それは終末旅行記。
 綺麗(たいせつ)なモノを巡る旅の物語。
 そのページに挟まれた、恐らくご老人の書いた最後の想い。
 私はそれに触発されて、この命か星の終わりまで終わってしまった世界を旅してみようと思った。
 ご老人には悪いと思ったが、この本と彼の想いを持って。

 そして私はその2つを旅のお供に、終わった世界を歩いて行く。
 きっと終わらなかったら見れなかったであろう景色を、この瞳に焼き付けながら。

 『わぁ!なんて美しい光景なのかしら!』
 おはよう、世界。そうして新たに君は目覚めた。
 

1/25/2025, 1:21:01 PM

 最初は祝福されていた。
 優しい神々の腕の中で、安寧を享受する。
 次に経験を送られる。
 辛い事、悲しい事の中から学びを知った。
 それから成長を送られる。
 同じ状況でも、昔とは違う選択肢を見つけられる様になった。
 沢山の贈り物を受け取った。
 友人も仕事も愛情も、全ては祝福されていたからだと知る。
 そうして祝福されたまま、天寿を全うするのだと思っていた。

 それなのに―――優しい神々は歪な神様に食べられて、安寧は崩れ去る。

 最後にもらったモノは呪い。
 永遠に取り憑かれた歪な神様が、世界の理を塗り変えた。
 不完全な不老不死。
 幸福とは程遠い苦痛の中で、半永久的に生かされ続ける。
 体の一部が千切れても吹き飛んでも、腐りながらも生かされていく現状に、心を壊す者もいた。

『ねぇ、いつまでこの地獄は続くの?』
 誰かの呟きが空気を揺らす。
『この体(ぺーじ)が全てなくなるまで。それか⋯⋯この魂(ものがたり)の終わりまで、続くかもしれないね』
 違う誰かの声が聞こえて、僕はふとある考えに至る。
『或いはこの星(しりーず)が終わるまで、僕達は生かされ続けるのかもしれないなぁ』

 死にながら生き続ける僕達は、苦痛に耐えながら⋯⋯いつ来るかもわからない救世主を待ち続ける。
 星(しりーず)が終わる前に、いつかあの歪な女神様を倒してくれる新たな神様を―――この地獄の中でずっと待ち続けるのだろう。

1/24/2025, 1:51:50 PM

 ずっと続くと思ってた。
 煌めく夜空の帳に、ゆらゆらと揺れる月の揺り籠。
 抱かれて眠りに就くような心地良さに甘んじた。

 ずっと続くと思ってた。
 何処までも広がる青を見上げて、描いた太陽の夢。
 君と一緒ならきっと掴めると信じられた。

 ずっと続くと思ってた。
 少しの違和感を口にした私に、困った様に笑う君。
 君の言葉を信じた私を、くつくつ嘲笑う逢魔ヶ刻の影法師。

 ずっと続くと信じたかった。
 いつか君は居なくなると、初めから心の何処かで確信していたのに。
 それを信じたくなくて、真実に瞳を背ける。
 君のやさしい嘘を信じて瞳を背けた私は、最後の機会すら掴めずに。
 あの日描いた夢はいつの間にか砕けてた。
 それなのに君への憧憬は消えないまま、あの日の嘘の意味を探し続けた。

 答えを手にした時、ずっと思い描いていた答えと真逆で―――君の愛の深さを知った。

 最初から最後まで、私の為のやさしい嘘。
 君のために生きていた私と、私のために傷付いた君。
 あの日言えなかった言葉を、いつか君に伝えるために。
 迷いながら生きていくと決めたんだ。

 この手を放してしまった後悔と言い表せない程の感謝を。
 届く日が来る事を願いながら、今日も私は―――君のくれた嘘(せかい)の中で生きていく。

1/23/2025, 2:29:45 PM

 失意の果てに底に着き、深淵の中を彷徨って。
 その手に掴んだモノは何だった?
 折れた剣から、滴り続ける紅(あか)は誰のモノ?
 仄暗い眼窩に、見据えていたはずの光を見失う。

 神にも縋る気分。
 幾度祈りを捧げても、紅に塗れた両の手に祝福はなく。
 やっと掴めたモノは何だった?
 右手に銃を、左手には折れた剣を。
 縫い止められた瞳を、もう一度開くために。
 溢れた紅に刃を立てて、心(いのち)を燃やせ!

 瞳を閉じて、呼吸を整え。
 瞳を閉じて、鼓動を聞いて。
 瞳を閉じて、そこにあるモノを感じ。
 瞳を閉じて、世界(じぶん)を見据える。

 瞳を開けて/片目を開けて
 そこにある―――。
 当たり前を疑え!/常識を穿て!


 心に火を灯せたなら、私はまだ戦える。
 傷だらけでも泥だらけでも、どん底ならそれ以下なんてないから―――いつかまた、光のもとに進んでいこう。
 

1/22/2025, 12:02:35 PM

 私が辛い時、悲しい時。
 そっと寄り添って話を聞いてくれたあなた。

 楽しい事も嬉しい事も、怒りで我を忘れそうな時も。
 隣りに居て一緒に喜んだり、諌めたり。
 色んな事を教えてくれた。

 バレンタイン、誕生日、クリスマス。
 あなたがくれたモノは今でも大切な宝物。
 あなたとの思い出も、あなたからの言葉も。

 あなたにとって私の贈り物もそうであったら良いなと思うのは、傲慢な気がするけれど。
 もしも、そうであったなら幸せだと思うのです。

 今、私は隣には居ないけど。
 優しくて我慢強いあなたが少しでも長く、幸福の中で笑っていられたらと今も願っています。
 あなたがそうしてくれた様に、願い続けるから。
 どうか幸せでいて、笑顔の溢れる日々を送っていてください。

 その祈りが―――今の私があなたに贈れる、唯一の贈り物。

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