それは突然訪れた。
例えば、道端の小石に躓く様に。
或いは、朝、目が覚めるように。
何の前触れもなく、けれどさも当たり前の様に告げられた。
ある者は騒ぎ、ある者は慟哭し、また、ある者は呆然とその光景を見つめている。
かく言う私はどうかと言うと。
あぁ、そんなものかと、納得してしまった。
そして、ふとある考えが過ったのだ。
“そうだ、旅に出よう”と。
どうせなら、思い出を巡る旅にしようと思い立ち私は必要最低限の物を持って、長年住み慣れた家を出た。
それからというもの。私は自分の人生を振り返りながら、幼少期から今までに行った縁の地を巡る。
歳を重ねていつの間にか無くなった場所もあったが、ボロボロになりながらも、そこにあり続ける物もあって、懐かしさと共に長く生きたのだなと感慨深くもあった。
けれど、結局私は全ての終わりに我が家に帰ってきたのだ。
長く人生を共にした大切な君との沢山の思い出が詰まったこの場所に。
そして今、最後の時間に、あの日君と過ごした最後の日と同じ場所で、同じ様に星を眺めている。
あの日とは違う空模様でも、美しさは変わらずに⋯⋯隣に君は居なくとも、同じ様に世界はまわり―――そして終わっていくのだろう。
せめて、最後の瞬間に君を感じられたなら幸せだと、そんな事を思いながら私は一層きらめく星空に呟くのだ。
『美しい世界よ、おやすみなさい』
それは突然の出来事だった。
例えば、ふと顔を上げた時に見つけた、1輪の桜の花だったり。
或いは、遠くに見える夕日のオレンジが街を染め上げる光景によく似ていた。
偶然に恵まれて見つけた美しいもの。
ある日目覚めたら世界は終わっていた。
それは何の前触れもなく、突然に。
昨日まで居たはずの両親も、寝る前までメッセージをやり取りしていた友人達も。
全ては瓦礫の中に消えていて、見る影もない惨状になっていた。
目の前に広がるのは、街だった物の残骸とムカつく程に晴れ渡った青い空。
どうすれば良いのかも分からずに、私はただ歩いていた。
戸惑いながら歩いていた時に見つけた一軒のお家。
周りはみんな酷い有様なのに、このお宅だけ原型を留めている。
悪いと思いながら入ったお家で、1人眠るように横たわるご老人。
大切そうに持っていたその本を拝借して覗き見してみた。
それは終末旅行記。
綺麗(たいせつ)なモノを巡る旅の物語。
そのページに挟まれた、恐らくご老人の書いた最後の想い。
私はそれに触発されて、この命か星の終わりまで終わってしまった世界を旅してみようと思った。
ご老人には悪いと思ったが、この本と彼の想いを持って。
そして私はその2つを旅のお供に、終わった世界を歩いて行く。
きっと終わらなかったら見れなかったであろう景色を、この瞳に焼き付けながら。
『わぁ!なんて美しい光景なのかしら!』
おはよう、世界。そうして新たに君は目覚めた。
1/26/2025, 2:58:16 PM