A地区にて
少女は小さな炎の友達と共に舞っていた
悲しげな歌を歌いながら
「♪〜♪〜♪〜」
炎は燃え続けている
長い間そこにいたからか、少女の身体は淡いピンク色の炎となっている
小さな炎の友達は少女を囲んで
踊っている
歌っている
騒いでいる
小さな炎の友達が騒げば騒ぐほど、炎の勢いは増していく
だが、A地区の外に燃え広がることは無かった
鎮火しようとした人達はみんな焼死体と化していった
これからも、人の手によって炎が収まることはないだろう
炎が収まった時は少女が歌と舞を止めた時
あるいは、人ならざる者が少女を解放した時
暗い森の怪物達が解放された時のように
アンソニーは海が見える所で歌っていた
「♪〜」
彼の歌声は、静かな海に優しく響き渡る
背後の茂みから誰かの足音が聞こえた
アンソニーは足音を聞いて身を隠した
茂みから少女が現れた
『あれ?歌声止んじゃった。確かにこの辺辺りから聞こえたのに、誰もいないや。』
〈おーい、用事は済んだか〜?早く来ないと置いて行くぞ〜。〉
『あ、お父さん待ってよ〜』
アンソニーは少女が遠くへ去っていくのを確認して、元の場所に戻ってからぼんやりと海を眺めていた
「ここ、静かだから人がいないところかなって思ってたんだけどな〜。まぁ、次からもうちょっと気をつけていようかな。」
人の気配がないのを確認したアンソニーは再び歌い始めた
「♪〜」
彼の紡ぐ歌は優しくも、切なさを帯びていた
光と濃い霧に包まれた街
人の気配が一つもない街にアンソニーは訪れていた
「ここはずいぶん神秘的な街だな〜。
前に訪れた暗い森とは違った不思議さを感じるよ。」
街の中をふらふらと彷徨う
誰もいない住宅街を少し先に進むとビルが立ち並んでいる
やはり誰もいないからか、とても静かだった
「誰もいないけど、死体が一つも落ちてないから元々住んでいた人達はこの街を捨てたのかな?
それか、この光と霧が関係してるのかな?
考えても仕方ないか。」
アンソニーは背中の黒い一対の翼を羽ばたかせて、街の上空へと飛んだ。
「霧が邪魔だな。」
アンソニーは腕を一振りし、街を覆っていた霧を払った
「やっぱり、人は一人もいないか〜。
これだけ静かだったらそりゃそうだよね」
その街で一番高いビルの屋上に降り、しばらく街を眺めていた
セシアは砂時計を見つめていた
「はぁ…やはりあの人魚のことが忘れられない
もう一度海辺へ行ってみるか…
ついでに地上のことを色々話せるように、砂時計等も持って行ってみるか。」
鞄に色々な物を詰めて、セシアは海辺へと赴いた
「以前はここに座っていたな。
この近くに居るのか?
もし移動していたとすれば…」
しばらく待っていると、例の人魚は水面から顔を出した
『彼、また来てるね
そうだね。僕等に興味があるのかな?
さあ?でも、悪い人ではなさそうだし、少し話してみる?
そうするよ』
『『こんばんは。君は何故この場所に来るの?』』
「あぁ、君か。こんばんは。以前見かけた時は話ができなかったからね、君のことについて色々と興味があるんだ。」
『『ふ〜ん、物好きだね』』
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はセシア。君たちは?」
『僕はノア』『私はリア』
「ノアとリアか、いい名前だ。」
『『それで、何しに来たの?』』
「ああ、そうだった。見てもらいたいものがあるんだ
とても綺麗だし、見ていると心が落ち着くんだ」
『『どれどれ?』』
話は盛りとても上がっているようだ
アンソニーは星が多く見える世界に居た
この世界には人間は居ない
星空が広がっているだけの世界
朝や昼は永遠に来ることがない
星がよく見える場所で仰向けに寝転んでいた
ただ空を見つめるだけの時間
風の音と虫の音が聞こえる
「あ、あの星もうすぐ消えそうだな〜
結構気に入ってたんだけど、まぁ仕方ないか。」
アンソニーがそう呟くと、例の星は消えてしまった
寿命だったのだろう
「僕もいつか、あの星みたいに消えちゃうのかな?
そもそも今の僕は異形だから死ぬことはあるのかな?」
アンソニーの周りには、かつて異形ネビルの身体から出ていた黒い液が漂っていた
自身の負の感情が高まると現れるそうだ
液が漂っていることを気にも留めず、アンソニーは、ただぼんやりと空を眺めていた