ノイズ

Open App
1/28/2025, 2:55:59 PM

帽子をかぶって

清々しいほどの快晴に太陽がギラギラと光を放つ。私は日傘を持ってこなかったことを今さらながらに後悔した。雲は流動的に流れ、たまに日陰になるのがまた心地いい。視界いっぱいに広がる草原は颯爽とした風によって揺らされている。
 私は朝、早起きして作ったサンドイッチを入れた籐製のバスケットを手に持ち、涼める日陰を探していた。すると遠くの方に大きな木が見えた。幹はがっしりとした体つきで、立派に生い茂った葉によって周りには大きな影ができている。その神秘的な光景圧倒されていると、木の下に小さな子供いることに気づいた。その子は白いワンピースに麦わら帽子をかぶっている。気にもたれて三角座りをしている少女は後ろの木と相まって精霊に見える。

1/27/2025, 3:21:00 PM

小さな勇気

肩が触れ合い身動きが取れない。後ろの人が背負ってるバッグと目の前に立つ中年のサラリーマンに僕は挟まれていた。電車に乗ってる人の顔はみんな不機嫌で車内の空気はどんよりしている。
 電車は大きく揺れ僕は隣の女子高生にぶつかってしまった。慌てて僕は「すいません」とボソッと言ったが聞こえたかは分からない。彼女の顔はなんとなく見れなかった。きっと嫌な思いをするだけだ。
 ようやく電車が止まるものの、降りる人はほとんどおらず、それどころか2、3人新たに加わり車内はより窮屈になった。ドアが閉まり電車が動き出した時には、隣の女子高生と肩が触れ合っていた。僕はできるだけぶつからないように頑張ったが、後ろにいたはずのバッグを背負ってる人が少し移動し僕のすぐ横にバッグがある状態になっていた。なので僕は今、バッグと女子高生に挟まれている。朝から気持ちが落ち着かない。
 ようやく人も減り始めた頃、目の前の席が2つ空いた。僕は周りを気にして、しばらく立っていたが車内に人が入り逆に立ってる方が邪魔だと想ったので遠慮なく座ることにした。隣の女子高生も僕と同じことを考えたのか二つ空いたもう一つの席に座った。
 久しぶりに座る心地は想像以上に気持ちよくてさっきまでの疲労を一気に払ってくれた。あまりの極楽に身を浸していると、目の前に腰を90度に曲げたおばあちゃんがやってきた。おばあちゃんは吊り革を持たずに杖でバランスを取ろうとしている。このまま電車が動けばおばあちゃんが転ぶのは目に見えている。
 しかし僕はそこから立ち上がることができなかった。知らないふりをし、寝てるふりをした。その時、「どうぞ」と隣の女子高生が立ち上がり、おばあちゃんに席を譲った。おばあちゃんは柔らかい笑顔を作り「ありがとう」と優しく微笑んだ。それを見て女子高生も少し微笑んだ気がした。
 そんな幸せなシーンを薄目で見ながら、腕を組み、熟睡してる振りをしていることがとてつもなく恥ずかしくなった。

1/25/2025, 3:13:29 PM

終わらない物語

都会の冷たい夜風がぐちゃぐちゃになった髪の毛を揺らす。襟はめくれたり、シャツは出たり、だらしない服装の隙から直に当たる肌が寒いと言っている。こんなでも俺はまだ生きてるのだと実感した。ひとりポツンと静かに輝く月は寂しげに世界を照らす。久しぶりに見る夜空は懐かしくて神秘的に見える。空が綺麗すぎるのか、この高さから見るビル群は穢れてて、ここで働いてた事実に身震いする。
 今日、俺は仕事をクビになった。理由は聞かなかった。自分でもわかってる。クビになるのは初めてではない。それを彼女に慰めてもらおうと連絡すると、振られた。ニートの俺までは好きにはなれないみたいだ。今夜は何も考えず飲みまくろうと思い通帳を探した。バッグに入れていたはずの通帳はどこかでなくなっていた。何だこれ。
 おのずと心の底から笑いが込み上げてきた。俺は壊れたおもちゃみたいに笑い続けた。一瞬で何もかも無くなった。

 俺は屋上の淵に立った。一歩でも踏み出せば確実に落ちる。覚悟を決めて空を飛んだ。

恐怖など感じなかった。ただ落ちていく感覚だけが頭の中に残ってる。気づくと俺の口にはダクトがつけられていて、体の隅々まで包帯でくるまれていた。すぐ横には父と母が泣きながら何か言ってる。
神様は残酷だ。まだ俺に生きろと言うのだから。

1/24/2025, 2:58:08 PM

やさしい嘘

天井の眩しい照明が食卓を照らす。私が手をかけ作ったハンバーグの肉汁の泡が煌めいている。私は2人分のお茶碗と味噌汁をトレーに置いて食卓に運んだ。廊下からは夫がブォーという音を響かせてドライヤーで自慢の髪を乾かしていた。

「あなた、ご飯できたわよ」

私が言うと「はーい」と味気ない返事が返ってきた。いつものことだ。

対面して食卓に着いた。夫が「美味しそうだね」と恒例の台詞を言ってきたので「そうね」と私は微笑む。
「いただきます」と私たちは手を合して食べ始めた。私は夫がハンバーグを口に入れるのを食卓に手を置いて待った。モグモグとリスみたいに頬張りながら夫はグッドポーズを私に向けてくる。

「美味しい!やっぱ君の料理は格別だよ」

嘘だ。自分でもわかってる。このハンバーグが美味しくないことぐらい。なのに夫はいつも私を称えてくれる。どんなに不味くても。

美味しそうに出来の悪い料理を食べる夫を眺めながら彼に本当に心の底から「美味しい」と言ってもらえる料理を作ってあげたい。そう思えるのも彼のおかげだ。

1/17/2025, 3:19:52 PM

風のいたずら

周りの木がざわめき、落ち葉はくるくる回り、踊り狂う。どこで発生したのかも分からない風が強く私の体に打ちつけてくる。予報通り、今日の風は一味違った。
 私はそんな天候でも構わず公園のベンチに座っている。この日が暮れ始めオレンジ色に染まる景色を見るのが好きだった。
 それにしても強風の日には何かが起きる。何かは分からない。とにかく何かが起きるのだ。
 いつも通り人気のない殺風景な公園を眺めていると隣のベンチに小太りのサラリーマンらしき人が座った。そのサラリーマンは横に置いた鞄から出した新聞紙を目の前に広げた。腕につけた高級そうな腕時計がキラキラ輝いてる。その光は私の顔に届き、なぜか上下に動きだした。彼は足を組み貧乏揺すりをしていたのだ。規則的に私の目を照らすその光が私の気分を害す。
 どこかから女子の笑い声がした。二人組の短いスカートを履いた女子高生で今、サラリーマンの目の前を歩いていて私の方に近づいてくる。
 その時、今日一番とも言える突風が周りの木々をざわつかせた。まずキャーという声がした。女子たちは前のスカートをつかむのに必死だが後ろの防備はガラ空きだった。見えてしまうのも時間の問題だと思われた。
 しかしギリギリのところで私の視界で黒い物体が通り過ぎた。私は若い女の子のそれを見るよりもドンドン飛んでいく謎の黒い物体に目がいった。モジャモジャしていて細かい触手が生えているようにも見える。
 なんだろうと思っていると、横からものすごいスピードでサラリーマンの男が走りだした。その男から発されたキラキラした光が私の顔面に直撃する。目を凝らして見るとそれは先ほどの高級そうな腕時計ではなく、ツルツルした肌色の頭の光沢だった。
 風が止むと「めっちゃ風強いね」と女子2人が驚いていた。その様子を見ていると私はそのうちの1人と目があってしまった。私はすぐ目を逸らした。睨まれてる気がしたのだ。

「おじさん、見たでしょ」

女子高生2人がすごい形相で睨んでくる。

強風の時は何かが起きる。

Next