ノイズ

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2/6/2025, 3:02:57 PM

静かな夜明け

 チュンチュんと小鳥が歌うように鳴く。暗闇の世界に太陽が顔を出し始めた。このまま夜まで過ごせば今日の太陽の光を残さず浴びることができると変な考えが浮かんだ。
 犬のぽたちは朝から元気で私は早足で歩かなければならなかった。いい運動になるのでいいのだがこの愛くるしい生物は疲れることを知らない。いつでも元気なのでそれが面倒になることもある。
 
「おはようございます」

前からランニング中の若者が声をかけてきた。

「おはよう」

元気な若者のはつらつとした笑顔に釣られて私も微笑む。

「今日は天気がいいですね」

真面目にもその場で足踏みしながら若者は言った。

「そうだね。こんな晴天でも寒さは変わらないんだけどね」

「まだまだ寒くなりますよ。ではまた」

 そう言うと若者は走り去っていった。年齢も名前も知らないがいつも話しかけてくれる。そんな薄い関係だがあの子に会うことが私の1日の元気の源だった。
 
ふと見上げると夜の役割を果たしたお月様が白く薄くなっていた。

2/5/2025, 2:58:32 PM

heart to heart

 カーテンで遮られた朝の日差しが微かに部屋に入ってくる。外は清々しいほどの青空で絶好のさんぼ日和だ。それができるようになるのは何年後なのか、考えるだけで気が遠くなりそうだった。
 私が作った目玉焼きをかじりながら夫が何か言葉を吐いてる。その言葉は私の耳を通り過ぎていく。理解しようとする方がアホらしい。
 隅っこでまだ歩けもしない赤ん坊が喚きだした。うんざりする気持ちを押し込んであやしにいく。私は今日ほとんど寝てなかった。

「おい、早く泣き止ませろ」

夫が偉そうに言う。私の心の中の何かにひびが入った気がした。

「朝から鬱陶しくてしょうがねえよ」

軽く舌打ちするのが聞こえた。

「わかったような口聞かないで!」

完全に私の心は真っ二つに割れてしまった。私の突然の罵声に驚いた夫はキョトンとしている。溜めてた鬱憤を晴らすように私は言葉を続けた。

「あなたには感謝してるわよ。働いてお金を稼いでくれてるしあなたのおかげで私たちは暮らせてる。でも私だって、子育てと家事を両立してる。私だって一杯一杯なの。それなのになんなのあなたは。元々性格はいい方じゃないと思ってたけど子育てぐらい手伝ってくれると思ってた。なのにあなたは帰ったら酒を飲んで会社の愚痴を散々言うわ、朝も文句ばかり言うわで嫌になる。私だって私だって……」

これ以上は言えなかった。私の言葉でどんどん小さくなっていった夫は今ではミニチュアサイズに見える。

「それで言うなら…」

「何よ?」

怒り気味に私は言った。

「ごめん、悪かった。この頃、君はもちろん子供の世話が大変な思いをしてると思う。一日中側から離れずずっと見守ってるんだ。そりゃ並大抵の精神力じゃ無理だろう。だからこそ僕も協力しなきゃならなかったんだな。すまない」 

本当に反省している顔だ。

「それだけじゃないでしょ」

私は最初の夫の言葉が気になってた。夫は俯いたままだ。

「こんな時に言いにくいんだけど、ご飯もっと愛を込めて作ってくれないかな、なんて。忙しいのはわかるけど最近ひどいと言うか手抜きと言うか」

私の顔を覗き込むように夫が見てくる。それに関しては反論できなかった。確かに最近、ご飯は冷凍食品とかデリバリーを頼んでいる。
 しかし腹が立つ。きれいにカウンターを食らって何にも変えられない悔しさが込み上げてくる。なにか反論の余地はないかと探すがさっき一斉に言ったので何も出てこない。
 
「ごめんなさい。次からはちゃんと作るよにする」

「僕も手伝うようにするよ」

私の割れたハートは着々ト修復していってる気がした。





2/4/2025, 3:04:45 PM

永遠の約束

全力で走った。他の人のことなど考えられなかった。頭にあるのは膨れ上がる不安と焦燥する気持ちだけだ。目当ての番号の名札を探す。右奥にそれがあることがわかり急いで駆けた。両足の踵がジンジンする。突然の連絡だった。電話の奥の父は冷静だったがいつもより声が細かった。仕事場をすぐさま抜け出して病院に向かった。行ったことがなく調べるところからだった。電車では遠いことがわかりタクシーに乗った。
 ドアを開けると寝ている母の周りで父と妹が今にも泣きそうな顔でいた。

「お姉ちゃん……」

妹は涙が止まらないようで何度も手で拭っている。隣で父が母の手を握って祈るように目を瞑っている。今更ながらに私は死を実感した。

2/3/2025, 3:16:25 PM

優しくしないで

外では雨が槍と化して地面に打ちつけてる。どんよりとした空気が部屋まで充満していた。その部屋で彼は黙々と指輪を探している。それは彼が私にくれた大事な指輪だった。長袖の腕をまくった彼はソファの下を覗いてみたり、机の散らかってる書類を漁ったりしていた。それを見ている私は彼に苛ついていた。
 一通り探し終わったのか、彼はソファに持たれかけ脱力した。

「全然見つかんないな」

「うん」

「ほんとどこ行ったんだろ?」

「うん」

「まあ、俺が買った大したことない物だし気に病むことないよ」

こうやっていつも私を優しさで包んでくる。

「……そんなことない」

私はボソッと言った。

「え?」

「そんなことないよ。ケイくんが買ってくれた大事なものじゃん。なんで怒んないの?なんで平気な顔してるの?おかしいよ」

言いたかったこと全部吐き出しても気持ちは晴れなかった。彼は驚いたようにこっちを見てる。少し胸が痛んだ。
 私はズボンのポケットの中にある指輪を取り出した。

「え、それ……」

彼は目を見張ってそれを見ている。

「試すようなことしてごめん、ほんとはずっと持ってたの。でもケイくんは優しすぎるよ。もっと怒っていいんだよ。不満があったらなんでも言ってほしい」

彼は一瞬、凍りついたがしばらくすると笑いだした。訳がわからないし、なぜか悔しい。

「よかったー。指輪あって、ほんとに良かったよ」

ゲラゲラ笑う彼に腹が立ってきた。

「ねえさっきの言葉聞いてた?」

「聞いてたよ。でもさ、ぶっちゃけ俺不満なんてないし、カナが悲しむのは嫌だけどさそんなちっちゃなことで怒んないから」

彼の純粋な瞳は嘘をついてるようには見えなかった。彼はこういう人なのだ。心配になるほど寛大で、不安になるほど優しい。それとも私の器が小さいだけなのだろうか。





1/31/2025, 2:47:59 PM

旅の途中

光を追いかけている。手をかざしても見えない顔を背けたくなるほどの眩しい光。手を伸ばしても、ジャンプしても、走っても届かないその光は遥か遠くにあるように思える。見えたと思ったらまた消える。違う形になっていたりもする。道筋はたくさんある。道であっても、真っ直ぐであったり円を描くように遠回りしていたりクネクネしていたり。階段でも行けるだろう。エスカレーター、エレベーターでも行ける。それぞれ違う光を目指しているし道筋も違う。でも共通点はある。それは満たされないということだ。どれだけ汗をかいて足掻いて頑張って辿り着いたとしても、次の光が見えてくる。一生満たされない。そんな辿り着くかもわからない光を目指し歩んでいくしかない。

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