風のいたずら
周りの木がざわめき、落ち葉はくるくる回り、踊り狂う。どこで発生したのかも分からない風が強く私の体に打ちつけてくる。予報通り、今日の風は一味違った。
私はそんな天候でも構わず公園のベンチに座っている。この日が暮れ始めオレンジ色に染まる景色を見るのが好きだった。
それにしても強風の日には何かが起きる。何かは分からない。とにかく何かが起きるのだ。
いつも通り人気のない殺風景な公園を眺めていると隣のベンチに小太りのサラリーマンらしき人が座った。そのサラリーマンは横に置いた鞄から出した新聞紙を目の前に広げた。腕につけた高級そうな腕時計がキラキラ輝いてる。その光は私の顔に届き、なぜか上下に動きだした。彼は足を組み貧乏揺すりをしていたのだ。規則的に私の目を照らすその光が私の気分を害す。
どこかから女子の笑い声がした。二人組の短いスカートを履いた女子高生で今、サラリーマンの目の前を歩いていて私の方に近づいてくる。
その時、今日一番とも言える突風が周りの木々をざわつかせた。まずキャーという声がした。女子たちは前のスカートをつかむのに必死だが後ろの防備はガラ空きだった。見えてしまうのも時間の問題だと思われた。
しかしギリギリのところで私の視界で黒い物体が通り過ぎた。私は若い女の子のそれを見るよりもドンドン飛んでいく謎の黒い物体に目がいった。モジャモジャしていて細かい触手が生えているようにも見える。
なんだろうと思っていると、横からものすごいスピードでサラリーマンの男が走りだした。その男から発されたキラキラした光が私の顔面に直撃する。目を凝らして見るとそれは先ほどの高級そうな腕時計ではなく、ツルツルした肌色の頭の光沢だった。
風が止むと「めっちゃ風強いね」と女子2人が驚いていた。その様子を見ていると私はそのうちの1人と目があってしまった。私はすぐ目を逸らした。睨まれてる気がしたのだ。
「おじさん、見たでしょ」
女子高生2人がすごい形相で睨んでくる。
強風の時は何かが起きる。
「絶対たこ焼きがいい」
「焼きそばのほうがいいに決まってる」
私のクラスは文化祭でやる屋台を何にするか議論している。私はたこ焼きグループの後ろの方でいがみ合いを見ていた。
しかし両者譲らず議論が開始してから1時間以上が経った。誰もが怠くなり帰りたいムードが漂う。その証拠にリーダー格、2、3人以外はほとんど椅子に座り雑談している。顔を伏せて寝る人までいた。
あれを使うしかない。
そう思い、私は目立つ場所まで歩き、そして涙を目に溜めた。準備は満タン。私はうぅ、うぅとうめいて見せた。喚いていたリーダーたち含め全員が私に注目する。私はここぞとばかりに目を瞑り、溜めていた涙を流した。
「どうしたの真壁さん?」
近くにいる男子が心配そうに席を立った。
「こんなの嫌。私みんなの険悪な姿なんか見たくない」
私は手の甲で涙を拭きながら叫んだ。
周りがざわめき出す。近くにいる人たちが私に近づき「ごめん」とか「大丈夫」とか次々に慰めの言葉を発する。
いつも愛されてキャラの私はこうやって生きてきた。
きっかけは幼い時、母とおもちゃ屋さんに行っていた。しかし母は買ってくれなかった。駄々をこねても、何をしても。帰る時、私と同じぐらいの歳の男の子が泣き叫んでるを見た。その子に「はいはい、買ってあげますから」と母親らしき人が言ってるのを見て私は確信した。泣いてしまえば、なんでも許してくれるのだと。
それは学生になっても変わらず、涙さえ見せれば、怖いと定番の先生にだって効果抜群。
私はまた感情のない涙を流す。
言葉だけではわからない
だから難しい
こんなに君のことを想っているのに
いつもそうやって嘘をつく
仮面を身につけて本当のことは言わない
そういう生き物
誰よりも繊細な君は今でも僕のことを気にしているのだろう
考えすぎると良くないと言ってるのに
頑固で泣き虫で傷つきやすいのに
誰だって自分を見失ってる
でも僕だってわからない
だからそっとしておこう
私は毎日ひとつ、いつもとは違うことをするようにしている。
ほんの小さいこと。
歯ブラシを逆手で磨いたり、興味のない本を読んでみたり。
私は今日ある挑戦をしようとしている。
それはおやつに回転寿司で寿司一貫だけ食うという奇行だ。
回転寿司の強みは何より安いことだ。
100円程度で普通の寿司なら2貫食える。
100円の中で食べれるどの菓子パンやクッキーより寿司が一番高級なのだ。
いつもなら遠慮してあまり食べない大トロもお菓子感覚で一貫食べるだけならなんの罪悪感もない。
なんならおいつもは菓子を食べてるところで寿司を食べてるのだからお得だろう。
おやつで大トロを食べれる、いや、おやつでしか大トロは食べられない。
私はまた新しい未到の地へ一歩踏み出してしまった。
あの夢の続きを
起きた時、ぼやけている頭に映像が残っている。
友達や家族、思い出の場所、出来事、それぞれが混ざり合う
セリフは覚えているほいが少ない
どんな時も夜が来る
目を瞑るとそこには僕の映画が広がる