優しくしないで
外では雨が槍と化して地面に打ちつけてる。どんよりとした空気が部屋まで充満していた。その部屋で彼は黙々と指輪を探している。それは彼が私にくれた大事な指輪だった。長袖の腕をまくった彼はソファの下を覗いてみたり、机の散らかってる書類を漁ったりしていた。それを見ている私は彼に苛ついていた。
一通り探し終わったのか、彼はソファに持たれかけ脱力した。
「全然見つかんないな」
「うん」
「ほんとどこ行ったんだろ?」
「うん」
「まあ、俺が買った大したことない物だし気に病むことないよ」
こうやっていつも私を優しさで包んでくる。
「……そんなことない」
私はボソッと言った。
「え?」
「そんなことないよ。ケイくんが買ってくれた大事なものじゃん。なんで怒んないの?なんで平気な顔してるの?おかしいよ」
言いたかったこと全部吐き出しても気持ちは晴れなかった。彼は驚いたようにこっちを見てる。少し胸が痛んだ。
私はズボンのポケットの中にある指輪を取り出した。
「え、それ……」
彼は目を見張ってそれを見ている。
「試すようなことしてごめん、ほんとはずっと持ってたの。でもケイくんは優しすぎるよ。もっと怒っていいんだよ。不満があったらなんでも言ってほしい」
彼は一瞬、凍りついたがしばらくすると笑いだした。訳がわからないし、なぜか悔しい。
「よかったー。指輪あって、ほんとに良かったよ」
ゲラゲラ笑う彼に腹が立ってきた。
「ねえさっきの言葉聞いてた?」
「聞いてたよ。でもさ、ぶっちゃけ俺不満なんてないし、カナが悲しむのは嫌だけどさそんなちっちゃなことで怒んないから」
彼の純粋な瞳は嘘をついてるようには見えなかった。彼はこういう人なのだ。心配になるほど寛大で、不安になるほど優しい。それとも私の器が小さいだけなのだろうか。
2/3/2025, 3:16:25 PM