小さな勇気
肩が触れ合い身動きが取れない。後ろの人が背負ってるバッグと目の前に立つ中年のサラリーマンに僕は挟まれていた。電車に乗ってる人の顔はみんな不機嫌で車内の空気はどんよりしている。
電車は大きく揺れ僕は隣の女子高生にぶつかってしまった。慌てて僕は「すいません」とボソッと言ったが聞こえたかは分からない。彼女の顔はなんとなく見れなかった。きっと嫌な思いをするだけだ。
ようやく電車が止まるものの、降りる人はほとんどおらず、それどころか2、3人新たに加わり車内はより窮屈になった。ドアが閉まり電車が動き出した時には、隣の女子高生と肩が触れ合っていた。僕はできるだけぶつからないように頑張ったが、後ろにいたはずのバッグを背負ってる人が少し移動し僕のすぐ横にバッグがある状態になっていた。なので僕は今、バッグと女子高生に挟まれている。朝から気持ちが落ち着かない。
ようやく人も減り始めた頃、目の前の席が2つ空いた。僕は周りを気にして、しばらく立っていたが車内に人が入り逆に立ってる方が邪魔だと想ったので遠慮なく座ることにした。隣の女子高生も僕と同じことを考えたのか二つ空いたもう一つの席に座った。
久しぶりに座る心地は想像以上に気持ちよくてさっきまでの疲労を一気に払ってくれた。あまりの極楽に身を浸していると、目の前に腰を90度に曲げたおばあちゃんがやってきた。おばあちゃんは吊り革を持たずに杖でバランスを取ろうとしている。このまま電車が動けばおばあちゃんが転ぶのは目に見えている。
しかし僕はそこから立ち上がることができなかった。知らないふりをし、寝てるふりをした。その時、「どうぞ」と隣の女子高生が立ち上がり、おばあちゃんに席を譲った。おばあちゃんは柔らかい笑顔を作り「ありがとう」と優しく微笑んだ。それを見て女子高生も少し微笑んだ気がした。
そんな幸せなシーンを薄目で見ながら、腕を組み、熟睡してる振りをしていることがとてつもなく恥ずかしくなった。
1/27/2025, 3:21:00 PM