ウキウキ、ワクワク
プレゼント
サンタさんにお願い届いたかな
今頃トナカイさんのソリは
お空のどの辺を駆けているのかな
子供の頃のサンタさんへのおねだりは——
叶えられたことが、ない
冒険小説が欲しかったのに、図鑑だったり
「プレゼント届いていた?」
と満面の笑顔で訊く両親に、
いたしかたなく小躍りつきの喜色を演じた
考えたら、これもまたプレゼントだ
……少し切ないけれど
喜んでもらえるプレゼントは、何かな
そう考える時間も
楽しいプレゼントをもらった気分だったな
色んなお願いあったなあ
『アンパンマン』の時は、パパが
「パン屋に売ってるな」とボソリと呟き、
ホントに買ってくるなよと釘さしたっけ
『ドラ○もん』と書いてあった時には
こっちが欲しいわ! とツッコんだ
段々とゲンキンなお品物になり、
しまいにはギフト券がいいとかね……
可愛げが——もとい、
立派になったもんだ〜
ついこないだ、冗談めかして
『P○5欲しいなー、新型の』
と言われましたよ
まったく呆れちゃう
銀だこ持って様子見に来たのはそのためか
というかキミは幾つになったんだい?
むしろお母さんに買ってくれ!
パソコン買い替えしたから我慢したんだぞ!
……現状、是が非でも遊びたいソフトは
ないけれど(もう少ししたら、出る!)
いま、本当に欲しいもの
それは——
柔らかくて温かい、老猫ちゃんたちとの時間
加齢によるネコ科がほぼ発症する病気で
どんどん食欲が落ちて
子猫時代の体重に戻りつつあるけれど
ずっと変わらず可愛くて優しい子たち
指先に乗せたチュールを
目を細めて舐めてくれる日が
一緒にお外を眺めようと誘ってくれる日が、
どうか少しでも長く続きますように
……そんな、みんなの願い
ちょっとずつでも叶ったら、いいな
サンタさんに、今度こそ届きますように——
ゆずの香り、かぁ。
やっぱりゆず湯の印象強いなー。
自分達をパパママと呼び合ってた頃。
我が家でも、ゆず湯やりました。
パパが、
「ばーちゃんから貰った。『おっこってた物だけど』って」
と持ってきた、どでかいゆずで。
……ゆずはゴルフボールくらいだと私は思っていたけれど、テニスボール大の大きさが一般的なのか、そういえば考えたことなかったわ。
『落ちてた』に引っかかりを感じつつも、収穫するものじゃないし、の言葉になるほど? と首を傾げつつ。
よーく洗って、なぜだかキッチン排水口用のネット(新品です使ってません)に入れてお風呂に浮かべた。
——何でこの時、ネットに入れたのかな。
多分、第六感。
記憶は、あった。
祖父母宅の近くにあった銭湯で、ゆず湯やっているから行っておいでと、祖父とともに行った時。
お風呂にプカプカ浮いているゆずが可愛くて、いつもより長湯しちゃったなあ。
祖父は広い脱衣所で近所の人と囲碁しながら待っててくれた。
番頭のおばあちゃんが、「お孫さん出てきたよ」と声をかけてくれて一緒に帰った。
「ゆず、可愛かったね」
と祖父に言ったら、
「そうかー。こっちはネットに入ってたからなあ。風情も何もねぇわ」
とボヤいていた。
「え、そうなの? なんで?」
「知らん」
……別に、これを思い出した訳じゃないのだけれど。
何でネットに入れたのかなー。
ちょうど息子も帰ってきて。
(パパは出張帰り、早目帰還だからパパ祖母宅に寄ってきていた)
二人で一緒にお風呂入ってきちゃいなよ、と声かけた。
小学生高学年の息子は最初こそ渋ってたけれど。
今日はみんな揃ってご飯にするから、さっさとお風呂済ませた方が早くご飯食べられるよ、と言ったら即座にバスルームへ向かってくれた。
さて、こちらはご飯の準備だ。忙しい。
頂いた白菜なんかも下処理しないと、と玄関口へ赴く。
バスルームから、父子の笑い声含んだ会話がうっすら聞こえて、なんか微笑んじゃう。
「ぐあー! 俺、五秒!」
「ワッハッハ、まだ甘いな! オラァ!!」
「ぶはっ! 秒じゃん!!」
背筋にゾワッと悪寒が走り、一瞬ですべてが繋がりました。
私はスリッパ放り出す勢いでバスルームへ駆け込み、扉を開け放って怒鳴った。
「潰してんじゃねええええ!!
誰が掃除すると思ってんだあああ!!!」
……本当にフザケンナでありますよ。
何で潰すのでしょうねえ、あの脳筋族は。
ほのかに香るゆず湯は良いけれど、ゆず果汁風呂に入りたい人っています?
私はゴメンです、えぇ絶対!
そんな日々も遠い昔。
自分のために、たまにはゆず湯、しましょうかね。
あ——ゆずも、買わなきゃいけないのか。
ふむ。
あひる隊長で、いっか!
大空に向かって両手を大きく広げる。
空を抱きしめるように。
あるいは、そうして空と同化するように。
……多分、同じ年代の時に同じことをやったと思うのだけれど。
両手を広げて空を仰いでいた『彼』は唐突に、
「グルグル〜〜!」
と叫んでその場でタケ○プターよろしくグルグル回り始めて、私は額を抑えた。
その歌を初めて聴いたのはやっぱり小学生の頃、音楽の授業でだ。
歌詞に感動したのも、多分その歌が最初だったと思う。
——あの頃、うちの両親はしょっちゅう喧嘩をしていた。
私は真夜中、自分の部屋でこっそり泣いていた。
一度、喧嘩を止めようと口出ししたら、ひどく怒られた上、とばっちりで成績だの習い事の進み度合いの遅さなどを責められた。
だから、その歌にとても心打たれたのだと思う。
公園前の車止めに軽く腰かけ、待つこと数分。
パンツスーツを格好良く着こなした上背のある女性がヒールを鳴らしながら小走りにやってくる。
女性は私を見て、さっと顔色を変えた。
機微を悟るとはこんな感じかな、などと思いながら。
私は公園小路でグルグル回る『彼』こと我が愚息を呼びつけた。
身長も体重も標準枠な私より、小学四年生にして縦横サイズを上回る息子を見て、パンツスーツの女性はどこかホッとしたような表情に戻った。
私も立ち上がり、会釈した。
互いに名乗り、『この度は申し訳ありませんでした』と、どちらともなく頭を下げる。
子供同士の喧嘩——というかくだらない言い合いというか。
小突きあって、運悪く二人して縁石に足を取られて転んで、脛やら腕やら軽く擦りむいた、というのが事の次第。
「○○先生から連絡が来て、本当にどうしようかと」
パンツスーツの女性がハンカチで目元を抑えて言う。
……お気持ち凄くわかります、と私も何度も頷く。
子供同士のちょっとした喧嘩やら遊びやらでも、体格差があると大事になってしまうこともある。
どれだけ口厳しく指導しようとも子供なのだ、完全な制御は難しい。
「うちの子は、ご覧の通りご心配いりません。○○くんこそ大丈夫ですか?」
「はい、電話で確認しただけですけれど——保健医から聞きましたので問題ないようです」
「良かったですね。こういっては何ですけれど、お互い……」
同体格同士の子で、と暗に含めるとパンツスーツの女性も本当に、と苦笑を見せた。
「いつも、絶対に手を出してはいけないと言っているのですけれど……」
「うちもですよ。でも同じくらいの体格ですし——それに、原因はうちの子の発言みたいですし」
「原因は、何だったのでしょう?」
「歌、だそうです」
ご存知でしょう、と一節を読む。
「空に悲しみはあるかないか、で言い合いになったようです」
「え……」
「うちでは最近、あの子の曾祖母が亡くなりまして。
本人の言い分を綺麗に解釈すれば——煙とともに天に昇り、煙は消えたのだから悲しみはないと。
葬儀の際、祖父にあんまり泣き続けていると曾祖母が悲しむ、と言われたせいかもしれませんが」
「そうでしたか……。うちは」
パンツスーツの女性宅では、直近で飼い犬を亡くされていた。
彼女の息子○○くんの中では、まだ悲しみが渦巻いているのだろう。
だから空には悲しみがある、と。
なんとも言えない表情になったパンツスーツの女性に、私は溜息まじりで言葉を続けた。
「……ですが、小突き合いになった決定打は」
「はい」
「その時、足元に落ちていたアイスの棒が弾みで排水口に落ちてしまったから、だそうです」
「……え」
「当たってたかもしれないのに、と」
「——妙に悔しそうだったのは、それでしたか……」
私より更に盛大な溜息をつき。
互いに顔を見合わせ、やはり合わせたように苦笑いが出る。
「アイス買って、帰ります」
「そうしましょ」
——突拍子のなさに目眩どころか
目が飛んでいく思いは幾重とあったよ。
翼があったら、多分。
私は、何度も逃げ出していただろうなと
思うのです——
リーンリン、と可愛らしく鳴る機器だった
ブラウンゴールドの、綺麗な色合いの
カード型ポケベル
……ポケベルは、スマホの
SMS通知機能だけ、というようなもの
私が買ったのは、
十文字ぐらいのメッセージが表示できるタイプ
確か、新聞の広告で見て
バイトのお給料で購入契約をした
——親の同意が必要だったかどうか、覚えていない
親の事情で、遠くに引っ越す友達に
私のポケベルの番号を伝えた
これでいつでも連絡とれるから、と言葉を重ねたら
涙目のまま、それでも力強く頷いてくれた
何度鳴ったかな、あの頃
大事な、友達だった
私は親の転勤で交友関係がよく途切れたから
ずっと変わらない繋がりでありたくて、
伝えたはずのポケベルの番号
だけど
届く、数文字だけのメッセージは
いつも悲壮的で
……境遇とか年齢とかで
誰もが少なからずあるものだけれど
当時はそれが本当に重くなってしまって
だって私も似て非なる気持ちやら問題やらを
抱えていたから
もう無理だ、と
ある夜、ポケベルの電源を落とした
自ら断ってしまった罪悪感、申し訳なさ
それがまた、自らの心を蝕んだ
どうすれば良かったのか、なんて
わからない
うんと年を経た今だから、
どうしようもなかったんだよと
すきま風のように思って
日常の雑事で埋めて紛らわす
どうか忘れていてほしい
ただあなたに
幸せがたくさんたくさんありますように
祈りは自らの禊かもしれない
でも本心からそう願っているよ
今も昔も、それだけは本当なんだ
じゃあね、と手を降る君
うんまたね、と見送る僕
扉が閉まった電車の窓越しに
互いにずっと手を振り合った
互いの姿が、見えなくなるまで
一人残られた駅のホームは夕陽が眩しい
だから瞼を落として、風に耳を貸す
約束があるから、
寂しさを感じる必要なんかないのに
やっぱり傍らが少し薄寒いような
愛おしさがあるからだよ、なんて
どこかで聞いたような言葉を心でなぞって
君が向かった方角とは正反対の道を
ゆっくりと歩き出す
このフレーズを伝えたら
君は、何と返してくるかな
そんな想像で、寂しさを誤魔化した