名無しの夜

Open App

リーンリン、と可愛らしく鳴る機器だった


ブラウンゴールドの、綺麗な色合いの
カード型ポケベル

……ポケベルは、スマホの
SMS通知機能だけ、というようなもの


私が買ったのは、
十文字ぐらいのメッセージが表示できるタイプ


確か、新聞の広告で見て
バイトのお給料で購入契約をした
——親の同意が必要だったかどうか、覚えていない


親の事情で、遠くに引っ越す友達に
私のポケベルの番号を伝えた

これでいつでも連絡とれるから、と言葉を重ねたら
涙目のまま、それでも力強く頷いてくれた


何度鳴ったかな、あの頃


大事な、友達だった


私は親の転勤で交友関係がよく途切れたから
ずっと変わらない繋がりでありたくて、
伝えたはずのポケベルの番号


だけど

届く、数文字だけのメッセージは
いつも悲壮的で

……境遇とか年齢とかで
誰もが少なからずあるものだけれど


当時はそれが本当に重くなってしまって


だって私も似て非なる気持ちやら問題やらを
抱えていたから


もう無理だ、と

ある夜、ポケベルの電源を落とした



自ら断ってしまった罪悪感、申し訳なさ

それがまた、自らの心を蝕んだ



どうすれば良かったのか、なんて

わからない


うんと年を経た今だから、
どうしようもなかったんだよと

すきま風のように思って
日常の雑事で埋めて紛らわす



どうか忘れていてほしい

ただあなたに
幸せがたくさんたくさんありますように


祈りは自らの禊かもしれない

でも本心からそう願っているよ

今も昔も、それだけは本当なんだ

12/20/2023, 12:40:45 PM