名無しの夜

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7/2/2024, 9:04:11 AM

本の世界に没頭して

ふと目を開けて
窓の外の空を見入る

このシーンの空は、こんなだっただろうか


本の世界と現実が入り混じり

はたと我に返る

昔からの癖だ


昔、本から目を離して見入った空は
どんなだったかな

過去の自分もよみがえる


そして多分

未来にもまた同じことを思うのだろうなと

うっすらと笑みがこぼれた

7/1/2024, 3:52:36 AM

「もう少しはさ、一緒に過ごせる時間も欲しいなーって」

ああそうなの、とベッドでゴロゴロしたまま相槌を打つ。

「だから最近、部屋とかちょっと見てるんだけどさ」

言いながら息子がパクついているのは、お土産と彼自身が持参したレモンケーキだ。

はたして彼が帰るまでにレモンケーキは何個残るのだろうか。

そもそも、食べられるのかな。
一つぐらいは食べたいな。

半開きのアコーディオンカーテンの向こう側たるリビングを眺める。

彼は真剣に小さなスマホ画面を見ている。


……そーゆーとこ、お父ちゃんにそっくりだねぇ、なんて思ってしまう。


息子が「もう少し一緒に過ごせる時間が欲しい」と言っている相手は、彼女さんだ。

お付き合いは二年だか三年だか、だったかな。

息子と同職系で日本各地を走り回っているパワフルなお嬢さんだ。


「それ、彼女さんに話したの? 一緒に住みたいって」
「いや? まだ俺だって真剣に考えてるわけじゃないし——」


……ハイハイ。
真剣には考えてないけど、情報見ているうちに『これ良くね?』となって、行動を起こしてから相手に言うんだよね。

聞かされた方は『何の話? 何で、どういう展開!?』と度肝を抜かされるやつ。
……あんまり、嬉しくない方向で。

君のパパはそうだったしね、昔から君もそういうところ多々あったからね。

今回ばかりは違うとは到底、思えんのよ。


「あのさ——調べる前に、ちゃんと話しなよ。一緒に過ごせる時間を増やしたいという気持ちからさ」
「うん?」
「一緒に住みたいとか、話したことあるの?」
「かるーく?」
「じゃあ、その話をちゃんとしてから情報集めしなよ。まずは会話、意思伝達が先。そういうの、大事だよ」

ベッドでゴロゴロしたまま言う私に、息子はむーと眉根を寄せて膨れっ面をした。

子供の頃の、ように。


図体ばかり大きくなって変わらないなーと思わされつつ。

それでも、一緒の時を増やしたいと思える人が出来たんだなぁ、もう本当に子供ではないのだなぁと感慨深くなった。


赤い糸、か。


息子と彼女さんの間に、赤い糸があるかないかは、わからないけれど。


繋がる未来を、息子が望むなら。


月にでも流れ星にでも、祈ってみるよ。

6/25/2024, 7:00:59 AM

……なんか同じお題じゃない?
と見直してみたら

先週あたりのお題がそうだった

『一年前』だったけど


何なの、対なお題なの



そうだなぁ
何してるかな、一年後


そんなに変わりない日々を
過ごしていそうだけれど

むしろそうであってほしいと願ってみたり


年を重ねるごとに月日の流れは加速化して
一年が過ぎるのはあっという間


顧みれば早くとも

自分の終わりの時まで
一気に時間が進むような気配はないのだから

やはり感覚的な事象なのだろう

不思議なものだ



少なくとも一年後も同じ心持ちであるよう

心身適度に動かして暮らしていこう

6/24/2024, 6:50:35 AM

子供の頃は

どんな毎日でしたか?

どんな夢を、描いていましたか?


昔のことは
あまり仔細には思い出さない

ふわりふわりと上空へ昇っていく
シャボン玉の中に映る情景、

それぐらいの距離感でいたいかな


辛かったこと悲しかったこと
楽しかったこと幸せだったこと


夢見ていたことは、何だったかな


望むままの形ではないけれど

それなりに叶っているかも


スマホでいつでもどこでも
何でも調べられて
世界の動向も何となく知れたり

ベッドで明かりがなくても本が読めたり

お絵かきすら

『こんなイメージで描いて』と指示すれば
形にしてくれる


子供の頃、ぼんやりイメージしていた
『こうなったらいいのにな』は
大抵あるような気がする


もちろん、ないことも
よろしくないことも、たくさんあるけれど



今を生きる子たちは
どんなことを望むのかな


色々あるけれど

よろしくないことが減って

良い方向のことだけが

たくさん叶っていますように

6/23/2024, 7:10:47 AM

 違和感に気付いたのは、当日からだ。

 スマホのアラームで目覚め。
 リビングに行けば、いつも通り妻がすでに朝食を用意してくれていた。

 バターが乗ったトースト、目玉焼きにハム、レタスとブロッコリー、それにコーンポタージュ。

 何の変哲もない、朝の食事のメニューだ。

 だが私は思わず眉根を寄せていた。

「どうかした? 食欲、ないの?」

 妻の声に、慌てて首を横に振った。

「い、いや。何でもないよ——いただきます」

 テーブルについて、トーストを齧った。


 妻は、料理上手だ。

 毎日の、代わり映えしないありきたりなメニューで『美味しい』を日々実感できるのは、大した腕ではないかと思う。

 味は、いつも通り美味しい。

 だがこのメニューは、昨日も同じではなかったか……?

 ある程度のローテーションとはいえ、前日と同じメニューの食事を出されたことはなかったように思う。

 ——記憶違いだろうか……?

 疑念にとらわれていたせいで、食事のペースが落ち、珍しく妻に「時間大丈夫なの?」と聞かれてしまった。


 その違和感は、昼時に弁当を広げて決定的なものになった。


 妻が持たせてくれた弁当の中身は、ノリ弁。

 おかずは、大葉で包んだ鶏の胸肉の竜田揚げ、辛味風味のひじき、ニンジンとピーマンの辛味噌炒め。

 美味しい。

 しかしやはりこれは、昨日の弁当と同じメニューだ。

「どーしました?」

 箸を手にしたまま固まっていると、隣のデスクでカレーパンを頬張っていた同僚に声をかけられた。

「い、いや……。同じ、メニューだなと……」

 チラッと私の弁当を見て、同僚は肩を竦めた。

「ぜーたくッスね」

 作っておいてもらって、の響きを感じて私も首を竦めた。

 そう言われると思ったから、濁したのだが。

 そういえば、同僚の彼のお昼はいつもカレーパンだ。

「飽きないかい、そのパン」

「カレーパンは完全食ッスからねぇ」

 答えになっていないような返答に、私は曖昧に頷く。

 ふと。斜め向かいの席の、別の同僚の食事が目に入った。

 彼女が口にしているのは、タマゴサンドイッチだ。

 眉間に皺を寄せたまま小さく齧っているのは、彼女のデスクに広げられた仕様書がややこしいものだからだろう。

 そういえば彼女がいつも食している物も、タマゴサンドイッチだった気がする。

 ……そんな、ものか。

 一日ぐらい、弁当の中身が同じであったところで大したことではないと気付いて、私は食事を再開した。


 一時間ほど残業して帰宅する。

 風呂を済ますと、すでに夕食は用意されていた。

「おつかれさま」

 缶ビールを分けっこしてグラスに注ぎ、乾杯する。

 豚しゃぶサラダに、ほうれん草と鮭のクリームパスタ、オクラの煮浸しのとろろ添え。

「ん、美味し」

 妻がニッコリ笑い、つられて笑むが——

 多少、ひきつる。


 ……こんなこと、あるか?

 夕飯まで、昨日と同じだ。


 何か悪い夢を見ているようで、私はただ黙って咀嚼を繰り返した。



 そう——悪い夢。

 目が覚めたら、この繰り返しが終わっているのではないかと。


 あれから、毎日のように。

 祈るように、思っている。


 目が覚めて、リビングに行けば——

 いつもと同じ、妻が作ってくれた朝食が並んでいる。

 もういつからかは覚えていない、ずっと変わらない朝食のメニュー。


 昼の弁当も同じ、ノリ弁。

 隣の席の同僚はカレーパンを頬張り、斜め前の同僚はタマゴサンドイッチを口にしている。

 そして夜も、やはり——


 一体、いつから。

 どうしてこうなってしまったのか、まるで見当がつかない。

 私は、いつの間にか。

 毎日同じメニューの食事を繰り返す世界軸に紛れ込んでしまったらしい。


 いつも通り。
 定時より一時間の残業で、急ぎも含めたすべてのタスクを終えて帰宅する道すがら。

 私はぼんやり夜空を見上げて、声もなく涙を流していた。



『——夫くん、あれからどう?』

 イヤホンから聞こえる友人の問いに、妻はほうれん草と鮭のクリームソースをパスタにかけながら、相手に見えるわけでもないのに首を横に振った。

「ぜ〜んぜんっ、ダメ! もう一ヶ月半も同じメニュー出しているのに、なーんにも言わないのよ。信じられない!」

『そこまでいくと、逆に凄いわね。本当に食事に興味ないヒトっているのねぇ……』

 落胆がこもった友人の声に、妻は同意の相槌を重ねた。

「何作っても美味しいと言ってくれるのが、最初は嬉しかったのよ。
 だけど毎度、何食べたいか聞いても何でもいい、だもん。
 それがこんなに寂しいことだとは思わなかったわ。

 ……でもいいの、もう諦めた。
 あの人に作る料理はこれだけと決めたら、楽になったし」

『せっかくの料理の腕が、もったいないわね——うちに来て、作ってもらいたいわ』

 友人のボヤキに、妻は手を打った。

「あら、いいわね。迷惑じゃなかったら作りに行くわよ!」

『えっ、本当に? 凄い助かるわ……!』


 電話口で妻は楽しそうに、バリキャリの友人のためのメニューを考えながらお喋りを続けるのだった。

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