sairo

Open App
3/24/2025, 2:23:38 PM

この学校には、不可思議な校則がある。
例えば、他者に対する悪意の言葉を吐かない事。
本人が目の前にいようといまいと関係ない。それが『いなくなってしまえ』といった曖昧な言葉でさえ、処罰の対象となる。
そして、不確定な未来に確定した言葉を介して約束をしない事。
どうやら、絶対や必ずといった言葉を約束に使うな、という事らしい。『絶対に遅刻しないで』と約束をした一年生が、入学早々に一週間の停学処分にあった話は記憶に新しい。
漏れ出る欠伸を噛み殺し、窓の外を見る。薄紅色に色づいた花の蕾は、あと数日もすれば美しく咲き誇り、見る者全てを魅了するのだろう。
もうすぐ年度が替わる。自分は一つ学年が上がり、期待に目を輝かせた入学生達がやってくるのだろう。そして校則を知って口々に変だ、と言うのだろう。

「どうしたんだい?考え事かな」

低く穏やかな声。声の主である男を一瞥して、再び視線を外へと向ける。

「勝手に入ってきて、いいのか?」

男の問いには答えずに、問い返す。

「先生方に君の迎えに来たと伝えてね。こうして通してもらったんだよ」

苦笑交じりの答えに、僅かに眉を寄せた。
この学校は例外を除き、例え保護者であろうと、学校内へと通したりなどはしない。それがこうして簡単に通されたという事は、男がその例外だと学校が判断した事を意味している。
唯一の例外。生徒の式や管だと判断されたのだ。

「俺、まだあんたと契約してなかったはずだけど」
「周りはそう思っていないようだね。当主殿も望んでいる事だよ」
「だから俺はっ」

管などいらない、と。男に視線を向け吐き出そうとした言葉は、男の慈しむ微笑みに勢いをなくす。
その笑みは駄目だ。母がいた暖かな過去を、そして失った寂しさを思い出してしまう。
唇を噛みしめて視線を逸らす。これ以上男と共にはいられないと、急いで帰る仕度を調えて立ち上がった。

「――もう帰る」

教室を出るために歩き出そうとして。だがそれは男に手を掴まれた事で、蹈鞴を踏んだ。

「ちょっと、何して」
「詞葉《ことは》」

肩が跳ねる。
強制はない。ただ名を呼ばれただけ。それを理解しながらも、視線は促されるかのように男に向いてしまう。
男の細められた目と視線が合う。そこに浮かぶ感情は、母と同じものだ。
耐えられず、一筋涙が流れ落ちた。

「泣き虫だね。困った子だ」
「うるさいっ!あんたのせいだろ。あんたがいつまでも」
「そうだね。僕が悪い。だからお詫びに一緒に帰ろうか」

ずるい。口には出さずに呟いた。
この男は、いつもそうだ。穏やかな笑みを湛えながら、逃げ道を簡単に塞いでいく。
昔、母の管だった男は母がいなくなった今、こうして自分に主になれと言う。失うのが怖くて、その契約から逃げ出しているのも、もう限界だろう。
そう考えて、ふとこの学校の校則を思い出した。
意味のない校則は、この学校には存在しない。現に他者に対する悪意の言葉を禁じているのは、それがここでは呪になってしまうからだ。
言葉は力を持つ。一番最初に教えられる事だ。言葉の扱いを誤れば、それは途端に周囲に禍を撒きかねない故に、まず校則で縛り、授業で幾度となく教え込まれる。
確定した言葉を介した約束を禁ずるのもまた、同じ事だ。
絶対の言葉で遅刻を禁じられた相手は、嵐の中大怪我を負いながらも、時間通りに約束した場所に現れたのだという。言葉で縛った生徒は停学後も学校に来る事はなく退学し、相手も怪我を理由に退学した。
それほどまでに力を持つ言葉を、もしも男に対して言えたのならば。

「――あの、さ。もしも…もしも、俺が」

――絶対に管を持ちたくないと言ったなら。

「……いや、何でもない。忘れて」

緩く首を振る。続く言葉は出なかった。
もう二度と失いたくないが故の臆病者の言葉が、力を持つとは思えなかった。

「いい子だね」

手を引かれ、抱き留められる。頭を撫でられながら、男に褒められて、複雑な気持ちで男を見上げた。

「子供扱いは止めてくれる?」
「いい子は褒めるものだよ。絶対的な否定の言葉は、後になって己の首を絞めかねないからね」
「なっ!?」
「でも、そうだね。いつまでも不安にさせるのは僕としても本意ではないから、一つ約束をしようか」

頭を撫でていた手を目の前に出し。小指を立てて、男は笑う。

「これから先も、僕は君と共に在るよ。君の大切な者をもう二度と君の前で失わせたりしない。――約束するよ」

優しく、けれど強い意志を湛えた目で見据えられ、息を呑む。信じてもいいのかと迷い彷徨う目を、逸らす事は許さないと顔を近づけて。

「――本当に。信じても、いいの?」
「信じてほしい。僕が嘘を言った事があるかい?」
「ない。けど」

男は嘘は言わない。信じても良いはずだ。
だから約束をしても大丈夫だと。恐る恐る男の小指に小指を近づけた。
大丈夫。不安に思う事は何一つない。
それに約束とは、一種の契約のようなものだ。契約は一度成されてしまえば違える事は許されない。
さらに手を伸ばし、男の小指に僅かに触れて動きを止めた。
何かが引っかかる。このまま約束を交わしてもいいのだろうか。
目を瞬く。今一度約束の内容を思い返し。約束の意味を考えて。

慌てて手を引いて、男と距離を取った。

「っぶね。勝手に契約しようとすんな!」
「おや、残念。気づかれてしまったか」

肩を竦めて笑いながら、男は手を下ろす。
危なく男と契約をする危機を脱した事に、胸中で安堵の息を吐いて、強く男を睨み付けた。

「そんなに怒らないで。大丈夫だよ。次からはこんな回りくどい事はしないから」
「うるさい。馬鹿」
「ごめんね。もうだまし討ちはしないよ、本当だ…だから、帰ろう?」

男に手を差し出され、警戒しながらもその手を取る。
これ以上遅くなる訳にはいかないと、自分自身に言い訳をしながら、男に手を引かれ歩き出した。



「本当に、もう騙すような事するなよ」
「しないよ。する必要はなさそうだからね」

夕闇に染まる家路を辿りつつ。
男に念を押せば、苦笑した答えが返る。

「必要ないって…何で」

訝しげに男の横顔を見上げ。どこか上機嫌にも見えるその表情はあまり見た事がない。
嫌な予感がする。さりげなく繋いだままの手を離そうとすれど、強く繋がれた手は少しも離れない。

「不安を取り除いてあげられれば、嫌ではないようだからね。これからは一層甘やかして、信を得る事にするよ」

ふふ、と男は声を上げて笑い。離そうとしていた手を引いて、抱き上げられる。

「なっ、ちょっと!」
「懐かしいね。昔は泣く度にこうして抱き上げてあげれば、すぐに泣き止んでくれたっけ」
「今、泣いてないだろ!」

早く下ろせと暴れるものの、男が気にする様子はない。
恥ずかしさと、誤魔化しようもない安心感に落ち着かない。下りたいけれど、このままでいたいという矛盾した気持ちで本当に泣きそうだ。

「そうだね。では、僕と契約してくれたのならば、下ろしてあげようか」
「ずるい!」

そう言われてしまえば、下りれない。仕方がないと抵抗を止めて男に凭れ、溜息を吐く。
懐かしい温もりに、鼻の奥がツンとする。見上げた空の朱を、意味もなく睨み付けた。

「最初からこうしていればよかったね。これからは君の大丈夫の言葉を信じすぎないようにしようか」
「――馬鹿」

呟いて、目を閉じる。意地を張った所で、意味はないのだろう。

結局の所、どうやっても男には敵わないのだ。



20250324 『もう二度と』

3/23/2025, 2:35:34 PM

空を覆い尽くそうと迫る灰色の雲を背後に、駆け抜ける。
人間達の合間をすり抜け、木々や家々を飛び越え。目的地を目指し無心で駆ける。
背後で上がる人間の悲鳴が煩わしい。木々の騒めきや窓が軋む音を、気にかけてなどいられない。
早くしなければ。急がなければ、間に合わなくなってしまう。
これまで何度間に合わず、口惜しい気持ちを抱いた事か。今回こそはと、駆ける足にも力が入る。
もう少しだ。時間は十分にある。
後は運に任せるのみだ、と。駆ける勢いのままに、道の角を曲がった。





――『私は不用意に風を起こし、人間達に迷惑をかけました』

そんな文言の書かれた看板を首からかけた女性と、その前に仁王立ちしている幼子。
戸を開けた瞬間に視界に入る光景に、情報が処理しきれない。
静かに戸を閉める。一つ呼吸をして、少しばかり冷静になった思考で考える。

「――よくある事か」

姉である女性を弟である幼子が叱る。この屋敷に世話になってから、よく見てきた光景だった。
ならば気にする必要はないはずだ。小さく息を吐いてから、もう一度戸を開いた。

「あ、ごめん。おどろかせた。ねっちゃのせいで」
「だからごめんなさいってば。皆を喜ばせたかったんだって。少しは見逃してっ!」
「だめ。許すとねっちゃ、すぐ調子のる。今日はずっと、そのままね」
「酷いっ」

入って良いものか、悩む。

「どうしました」

不意に背後からかけられた声に振り返る。急須や湯飲みを乗せた盆を手にした青年が、己を見て訝しげに眉を寄せた。
室内から聞こえてくる声に、大方の状況を察したのだろう。青年は呆れたように嘆息し、失礼、と声をかけ己の横をすり抜けて、部屋へと入る。

「いい加減になさい。彼女が困っているではないですか」
「っ!?ご、ごめんね。入っていいからね!」

ぱたぱたとこちらに掛け寄り、幼子が己の手を引く。ゆったりとした足取りで室内に招き入れられ、青年の前に共に座った。

「ごめんね。大丈夫?立ってるのつらいね。ごめん」
「いや。もう大丈夫だ。傷はすべて癒えているし、歩く事にも大分慣れてきている」

落ち込む幼子の頭を撫でる。
片翼を折り、飛べずに傷ばかり作っていた己を保護してくれた幼子は、傷が癒えた今もこうして過保護に心配する。大丈夫だと何度伝えても、何かと世話を焼いてくれるのは、己が頼りないからだろうか。

「歩く事に慣れてきたようですが、無理はなさらないで下さいね。僕達…と言いますか、そこの馬鹿姉が全ての元凶なのですから、遠慮などなさらないで下さい」
「にっちゃの言うとおり。ねっちゃがぜんぶ悪いから、がまんしないでね」
「――遠慮も我慢も、してないが」

二人の優しさには、未だに慣れない。
二人は己が飛べなくなった原因を、彼らの姉だと言う。だからこうして保護される事も、世話をされる事も、当然の権利なのだと。
話を聞く限り、確かに羽が折れた原因は彼らの姉にあるようだ。酒の席で酔い、風を起こして己の羽を折った。
しかしその前から、うまく飛べなくなっていた。羽を折られずとも、いずれは飛べなくなっていたはずだ。
だがそれを伝えても、彼らは――彼らの姉でさえ、悪いのは羽を折った姉だと認識を譲らない。そしてさらに過保護に世話を焼こうとする、そのやりとりを繰り返し。気づけば、季節が一つ過ぎてしまっていた。
困惑に眉を下げ、視線を彷徨わせる。気まずさに室内を一瞥し、未だ正座をしている女性と目が合った。

「――理由は分からないが、そろそろ許してあげてはどうだろうか」

縋るような目に耐えきれず、そう言葉にすれば、不服そうな幼子が彼女に視線を向けて、きつく睨み付けた。ひっと短く上がるか細い声に、駄目だろうかと改めて問えば、幼子は己を見、彼の兄を見て、深く溜息を吐いた。

「次、ないからね」
「分かってる!」

不本意だと言わんばかりの幼子の呟きに、女性の喜色を滲ませた声が上がる。正座を崩して呻き、這うようにこちらに近づき、己に抱きついた。

「ありがとう!助かった」
「ねっちゃ、離れて」
「今回は、何が原因なんだ」

そう問えば、女性ははっとした表情になる。懐に手を入れて包みを出すと、皆の前に包みを解いて中を開けてみせた。

「これ!お気に入りの和菓子屋のぼたもち。一日五十個ずつしか作らなくて、すぐに売り切れるの」

黒や茶などの餡に包まれたもちのような菓子をみせ、女性は自慢げに説明する。その隣にいる幼子の顔は呆れを隠そうともせず、目の前の青年は大きく嘆息した。

「定番の粒あんでしょ。それから、胡麻と、こっちは胡桃。あと、一番人気のずんだもあるよ!今日は雨を呼びそうな曇りになろうとしてたから、いつもより人間が少なくて幸運だったの」
「そのために、風おこして、まわりに迷惑かける。だめ、ぜったい」
「まったくです。本当にこんなのが、僕達の姉だとは嘆かわしい」
「ちょっと、そこまで言わなくても。皆がよろこんでくれるかなって、頑張ったのに」
「――これは、餅、か」

小さく呟いた声は、だが賑やかな三人にしっかりと聞こえたようだ。揃ったように沈黙し、己に視線が向けられる。

「ぼたもち。もしかして知らないの?食べた事ない?」
「餅は、一度だけあるが」

恐る恐る尋ねる女性に答えれば、何故か三人とも傷ついたようにそれぞれ顔を歪ませた。
また何か間違えたのか。ぼたもち、とやらは、餅とはまた異なる菓子のようだ。
今まで飛ぶ事しか考えていなかった己は現世に疎く、それが三人にとって耐えられない事らしい。

「と、取りあえず、食べてみて!何にする。まずは定番の粒あんなんかどうかな?」
「え?あぁ、ありが、とう?」

いつの間にか用意されていた小皿にぼたもち、とやらを乗せて差し出される。それを受け取って、困惑しながら黒文字を差し、一口囓る。

「――おいしい」

餡子の控えめな甘さと、米粒の残る柔らかなもちが口の中に広がっていく。以前食べた餅とは異なる食感に、気づけばすぐに平らげてしまった。
新しく注がれた緑茶を一口飲んで、気恥ずかしさに少し俯く。大して味わいもせずに食べてしまった事が悔やまれる。

「ねっちゃ」
「な、なに?」
「よくやった」
「あ、うん」

隣でひそひそと話し合う幼子と女性が気になったが、その前に青年が新しくぼたもち小皿に乗せて差し出してくる。思わずそれを受け取って、今度は少しずつ味わうように食べ始めた。

「馬鹿姉には、このまま現世の菓子を買いに行く許可を出しましょうか」
「ん…でも、まわりにめいわく、だめだから」
「分かってます。気をつけるようにするって」

ちまちまとぼたもちを食べている間に、三人も和解できたようだ。
密かに安堵して、笑みが浮かぶ。ぼたもちの甘さと穏やかさに、三人から与えられる優しさを素直に受け入れられる気がした。

「おいしい?よかったね」
「ありがとう。こんなにおいしい菓子は初めて食べる」

二個目も全て平らげて、緑茶を啜る。
腹が満たされて微睡み始めた意識で、現世の空を想った。
このぼたもちを買いに行った際に、雨を呼ぶ雲が近かったと言っていた。今は雨が降っているのだろうか。
そして雨が止んで、曇りの空に光が差し込んで。その合間から、あの澄み切った青が覗くのだ。

「ここに来てから、初めての事ばかりだ」

今は遠くなってしまった空を焦がれる気持ちは、この三人といる事で、一人でいた時よりも大分穏やかだ。この先、歩く事に慣れた時にはもしかすればなくなってしまうのかもしれない。

「眠いの?じゃあ、一緒にお部屋、戻ろうか」

幼子に促され、手を引かれて立ち上がる。ふらつきはするものの、足が竦む事も倒れる事ももうない。

この手が繋がれている限り、地に足をつけて歩く事に恐れはないのだから。



20250323 『雲り』

3/23/2025, 11:16:49 AM

立ち上る白の煙。青空に解けていくその一筋を見上げ、目を細めた。

「ありがとう」

見えない彼女に向けて、感謝の言葉を紡ぐ。
返る言葉はない。もしかしたら、もうここにはいないのかもしれない。
そもそも、彼女が本当に存在していたのかもはっきりとしなかった。
夢うつつに見えた影。長い黒髪を揺らし、燃えるような赤い目をさらに赤くして泣いていた彼女。彼女の姿が掻き消えると同時に聞こえた、叫び。
夢だったのかもしれない。

「貴女がいてくれてよかった。おかげで、さよならを言う時間ができた」

例えそうだとしても構わなかった。
叫ぶ声を聞いて、翌日集まった皆と互いに語り合う事が出来たのだから。叫ぶ声が聞こえた事を皆それぞれに不思議がりながら、それでも楽しい一時を過ごす事が出来た。
何かの予感にさようならと笑い、手を離した。こんなにも穏やかに別れる事が出来たのは、あの叫ぶ声があったからだろう。

「本当にありがとう」

呟いて、視線を下ろす。
そろそろ行かなければ。踵を返し、煙に背を向け歩き出す。

「Why…」

不意に声が聞こえた。困惑した、何故を問う声。
立ち止まり辺りを見渡せど、姿はない。

「アナタ、とても、strange。不思議、変。ワタシ、叫んだ。死、呼んだ。なのに、感謝。とても、とてもstrange」

声は頻りに不思議だと繰り返す。
あの赤い目が戸惑い揺れている様を想像して、隠し切れなかった笑みが零れ落ちる。
声は自分を不思議だと言うが、それはお互い様だろうと内心で思う。叫ぶ事で死を呼ぶなど、それではまるで、異国の伝説にあるマンドレイクのようではないか。

「この国、strange。言葉、とてもstrange。人間、神秘、共存してる。言葉、強い力、ある。strange」
「そんなに変かな」

どうやら声は異国から来たらしい。不思議で仕方がないと、感情を宿す声に、苦笑して言葉を返す
自分では分からない。
言葉には力が宿るから、くれぐれも気をつけなさい。
そう言われた事はある。幼い頃に、よく両親や祖父母から聞かされた事だ。成長し、身をもってその意味を知ったが、それは他の国でも変わらないのではないだろうか。

「言葉が力を持つのは、他の国でも同じだと思っていたけれど。貴女の国では違うの?」
「言葉、力ある。変わらない。But、でも、この国、言葉、とても強い。とてもとても…神秘、作り上げる」
「神秘?」

どういう意味だろうか。聞き返せば、声は言葉に詰まる。
ややあって。たぶんと前置きされながら、声は迷うように言葉を探しつつ話し出した。

「人間、想像、形なる。言葉、伝える。本物成る」
「――そういえば、前に呼んだ小説に、そんな事が書いてたような」

妖、だっただろうか。人の想像が形を持った、人に寄り添う存在。時には人を助け、時には人を害す。人が望み、妖が応える。その共存関係の始まりは、確かに人の言葉だ。

「けど、貴女も妖ではないの?」

ふとした疑問に、けれども声ははっきりと否を答えた。

「No。ワタシ、違う。ワタシ以外、アヤカシ、maybe、いる。But、ワタシ、違う」

それならば、とさらに問いかけようとして止める。
声が誰であろうと、それは些細な事だ。どこか哀愁を帯びた声に、興味本位で踏み入れるものではないと意識を切り替えた。


「――そろそろ行かないと」

もう一度辺りを一瞥する。やはり彼女の姿が見えない事に微かに寂しさを覚えながらも、前に向き直る。

「行くの」

小さな呟く声に、笑って頷く。心残りがないと言えば嘘になるが、だからといって立ち止まっている訳にはいかない。先に進まなければ。
そう伝えれば、どことなく不満げな声がすぐ近くから聞こえた。

「この国、judgment、審判、ある、聞いた…シジュウクニチ」
「よく知ってるね」

四十九日。中陰《ちゅういん》と呼ばれるその期間は、七日毎に審判が行われ、その判決で来世が変わるのだという。

「そうだね。苦海に沈む身であれば、その判決を待つべきだと思うけれど…わたしには迎えがあるからね」

苦笑して、指を差す。その先にいる見慣れた顔ぶれに、手を振り歩み寄る。

「よっ。先日ぶり」
「あなたが最後ですよ」
「相変わらず、時間にルーズね。最後くらいはきっちりしたら?」
「急には変えられないよ。それにようやく終わったんだから」

振り返り、空を見上げて煙が見えなくなった事を認め、視線を戻す。変わらない彼らに、肩を竦めて溜息を吐いてみせた。

「やっぱり皆、駄目だったんだね」
「そうね。あの事故の生存者はゼロだったようよ」
「ま、五体満足で体が戻れた分、ありがたいわな。未だ戻れてない奴らがほとんどらしい」
「これも、あの夜聞いた叫び声のおかげかもしれませんね」
「ちげぇねぇ。会えたなら、礼を言いたいくらいだ」

からからと笑い合う彼らを横目に、自身の影に視線を落とす。揺らぐ影から彼女の動揺を感じ取りつつも、手を差し伸べた。

「だ、そうだよ。そろそろ姿を見せてくれたらうれしいな」
「どうしました?誰かおられるのでしょうか」

全員の視線が影に向く。それにさらに動揺したのか大きく揺らいで沈黙した後、ゆっくりと影から灰色のフードを被った少女が現れた。
戸惑うように視線を彷徨わせ、怖ず怖ずと差し出した手を取る。その手を引いて影から出して、皆の方へと背を押した。

「もしかして、あの叫び声の方は」
「そうみたいだ。優しくしてあげてほしい」
「へぇ。可愛い子じゃない。凄い叫び声だったから、もっとゴツい子を想像してたわ」
「ありがとうな。教えてくれてよ。おかげで周りと別れを言えるわ、こうして集まる事も出来た訳だ。感謝してる」
「そうね。ありがと。大切な人にちゃんとバイバイできたのは、とっても幸せだもの。感謝してもしきれないわ」
「ありがとうございます。貴女が教えて下さったので、悔いなく還れそうです」
「Why、Why…?」

戸惑う彼女に皆それぞれ優しく声をかけていく。混乱し、泣きそうな彼女に笑いかけ、もう一度手を差し出した。

「よければ、常世まで皆で一緒に行かない?人の死を予知し、それを悲しむ優しい魔女さん」
「ワタシ、ワタシ、は…」

他の皆もそれぞれに手を差し出す。それに、彼女は顔をくしゃりと歪めた。赤い目が揺らいで滴を溢し、両の手が縋るものを求めるように宙を彷徨う。
その手を皆で取れば、彼女は声を上げて泣き出した。

「悲しい。痛い。だから、叫ぶ。そして、人間、死ぬ…ずっと、ずっと、ワタシ、殺した、思って…!」
「そんな事ねぇだろ。死神なら、もっとばっさりやるもんだ。あんたは、これから死ぬ人を予知して、それを伝えてんだろ」
「そうよ。だからもう、そんなに泣かないの。可愛い顔が、台無しだわ」
「皆の言う通りです。ですからもう気に病まないで下さい」

手を繋ぎ、背を撫でる。彼らの言葉と手の温もりで、涙が止められなくなってしまった彼女と彼らを見守りながら、振り返る。
遠く、こちらを待つ影に会釈をする。
常世の迎えが来た。審判などはない。刹那を生きて、死んだのだから、そこに他者の判決などはいらない。
全力で生きた自分達は、やはり苦海に沈んでいる訳ではなさそうだ。

「そろそろ行こうか。迎えが来ているよ」

彼らに声をかけ、迎えの元へ歩き出す。
彼らと手を繋ぎ、支えられる彼女もまた、彼らと共に歩き出した。

「貴女も眠れるといいね。聞いてみようか」

優しい彼女にも、眠りは必要だ。一人きりで、死を知らせて叫ぶ声も枯れ果てている頃だろう。

きっと受け入れてもらえる。そう根拠のない確信を抱きながら、迎えの元へと駆け出した。



20250322 『bye bye...』

3/21/2025, 2:08:14 PM

白のワンピースに、淡いピンクのニット。
鏡の前でくるり、と一回りして、笑顔を作ってみせる。

「――やっぱり変、かな」

笑顔を作ったはずだった。けれど鏡の向こう側の私は、今にも泣いてしまいそうだ。
まるで今の空模様みたいだと、窓の外を見る。重苦しい雲から今にも大粒の雨が降ってきそうで、小さく息を吐いた。
相変わらずだ。少し前の私なら、またかと落ち込んで閉じこもっていただろう。それ以前に、こんな服を着て外に出ようなどとは考えもしなかったはずだ。
苦笑しつつ、ポーチに付けたストラップに触れる。ちりめんの、可愛らしいてるてる坊主。ちりん、と金の鈴が、涼やかな音を立てた。

「どうかな?可愛いって言ってもらえると思う?」

君の制作者さんに。
期待と不安を滲ませて、てるてる坊主に問いかける。答えはないけれど、軽やかな鈴の音が大丈夫だと伝えてくれているみたいに思えて。
ありがとう、と呟いて、てるてる坊主の頭を指先で一撫でした。





空は、昨日から変わらずの曇り。
忙しない人の波をすり抜けて、約束した場所まで急ぐ。
約束の時間までまだ余裕はあるけれど、彼の性格を考えるとゆっくりはしていられない。もしかしたら既に来ているのかもしれないという予感に、自然と足が速くなる。
急いでいるだけが原因ではない、心臓の高鳴りに笑みが浮かぶ。早く逢いたいという気持ちが、さらに足を速めさせる。
初めてだ。こんなにも心が弾むのは。誰かとの待ち合わせがとても嬉しいものだなんて、今まで知る事はなかった。
視界の先、待ち合わせの場所に見慣れた姿を認め、駆け出した。大きな背を丸めて、落ち着きなく辺りを見渡している彼の姿に、笑みが浮かぶ。
学校の外でも、彼は変わらないらしい。それに安心して、手を振り彼を呼んだ。

「日和《ひより》くんっ!」

呼ばれて、彼がこちらを向く。柔らかな表情は、けれども私の姿を見て、驚いたように固まってしまった。

「ごめんね。待った?」
「い、いえ。俺も、今来た所でっ」

何かに焦っているのか、彼は私を見ようとしない。
やはり変だっただろうか。自分の姿を見下ろして、僅かに眉が下がる。
友人達が、私のために選んでくれた服。
雨を呼びやすい私が、卒業旅行を楽しめるようにと彼が作ってくれたてるてる坊主。そのお礼がしたいと友人達に相談して、それならば、と彼とお出かけが出来る様にいろいろと動いてくれた。
この服もそうだ。私に一番似合うらしい服を選んでくれた。
彼に似合っていると褒めてもらうために。彼へのお礼のつもりのお出かけから大分離れている気もするけれど、皆はそれでいいのだと言っていた。それに背を押されて、彼の作ったてるてる坊主に勇気をもらって、着てみたのだけれど。

「あの、その。な、なんていうか、えっと…に、似合って、ます」
「――え?」

密かに落ち込んで俯けば、彼が慌てたように声をかける。
意外な言葉に、顔を上げて目を瞬く。赤い顔をした彼が意味もなく両手を動かしながら、声を上げた。

「すごく、可愛い、です。あ、いえ。先輩は元々可愛らしいですけれど。今日の服、凄く似合ってて、いつも以上に、可愛いし、それから」
「も、もういいから!少し、落ち着こう!?」

堰を切ったように早口で話す彼を、必死に止める。
顔が熱い。このまま聞いていれば、きっと恥ずかしさで逃げ出していたはずだ。

「あ、すみません!煩かった、ですよね」
「そうじゃなくて…えと、煩い、じゃなくて。なんていうか…恥ずかしくて…」

止められた事で落ち込む彼に、違うのだと伝え。耳まで真っ赤になった彼を見て、益々顔が熱くなった。
このままでは、駄目だ。きっと、いつまでもここから移動する事が出来ない。
そっとポーチにつけたてるてる坊主に触れる。ちりん、と微かな音に勇気をもらい、彼の手に触れた。

「せ、先輩っ!?」
「そろそろ行こう?このてるてる坊主のお礼をさせてよ」
「え。お礼なんてっ。俺が、好きで作っただけで。あ、その、気にしなくても」

しどろもどろになりながらも、彼は手を離そうとはしなかった。それに少しだけ希望を持って、歩き出す。

「どこ行きたい?」
「いえ、俺は、その。先輩が」

彼の慌てた声を聞きながら、彼の手を引く。私よりもよっぽど大きな手を、出来るだけ意識しないようにしながら、人混みを避けて歩いて行く。
ふと、空を見上げた。分厚い雲の合間から光が漏れ出てきて、その美しさに思わず立ち止まる。

「ああ、光芒ですね。正しくは薄明光線って言うらしいですけれど。いろいろな呼び名があるんですよ。天使の梯子とか、天使の階段とか…ある作家は、光でできたパイプオルガンって表現しています」
「どれも素敵な名前。日和くんって物知りだね」
「いえ。そんな事ないです」

否定する彼に、笑う。
もっと自信を持ってもいいのに。そう思って、それは私も一緒だと気づいて、不謹慎ではあるけれど嬉しくなった。
彼と同じものが一つでもあるだけで、こんなにも嬉しい。友人達が言っていた〝恋〟の言葉が、甘く胸を締め付ける。

「天笠《あまかさ》先輩」

彼に呼ばれ、視線を向ける。
てるてる坊主をもらったあの放課後の、二人で虹を見ていた時と同じような穏やかな微笑みに、鼓動が跳ねた。

「先輩が行きたい所でいいですよ。俺、先輩と見る景色が、とても好きですから」

たとえそれが、土砂降りの雨であっても。
そう言って笑う彼がとても輝いて見えて、その眩しさから逃げ出すように空を見上げた。
心臓が落ち着かない。胸が苦しくて仕方がないのに、それが嫌なものでない事が、さらに落ち着かなくさせる。

「わ、たしも…日和くんと一緒なら、どこでもいい、かな。日和くんと一緒だと、綺麗な光景が見れるから」

虹も。光芒も。
彼と見る景色は、初めて見た時のように輝いている。彼の言ったように、きっと雨でも輝いて見えるのだろう。

「と、取りあえず。カフェにでも入りますか?」
「そう、だね。テラス席があれば、そこがいいな」

彼の提案に答えて、視線を下ろす。横目で覗う彼の表情は、変わらず穏やかで優しくて。
当分は彼を真っ直ぐに見られそうもない。

「じゃ、じゃあ、行きましょうか」

頷いて歩き出す。手は繋いだまま。
彼の顔が見れなくて、俯き加減でいた視界に、繋いだ手が写ってしまった。
大きな手。彼の手と、私の手が一緒に。
はっきりと意識して、鼓動が煩いくらいに騒ぎ出す。

ああ、彼が好きなんだと。
初めての恋に、心が高らかに歌い出したような気がした。



20250321 『君と見た景色』

3/20/2025, 2:23:32 PM

遠く、手を繋いで寄り添い歩く少年と少女の姿を認めた

表情が見えなくとも、互いに微笑み合っている様子が手に取るように分かる。幸せそうな二人がとても微笑ましく、妬ましく思えて自嘲した。
なんて愚かで惨めなのだろう。ただ与えられたものを受け入れた結果の婚姻であったはずなのに。
目の前に手をかざし、去って行った二人を思い描く。
二人を自分を彼の姿に置き換え。彼と手を繋ぐ、もしもを想像して。

――本当に、惨めだ。

叶わぬ空想を掻き消して、目を伏せた。


彼と夫婦になり、いくつか変わるものはあれど、彼との関係が変わる事はなかった。
否。ここ最近、彼は屋敷に戻ってはいない。以前は彼と共に祓い屋として方々を駆け回っていたが、今はそれもない。
大事にされているのか。それとも飽きてしまったのか。
結納を済ませた後から、彼は自分を屋敷から出そうとはしなかった。
小さく息を吐く。一人でいるからか、今日はやけに気が滅入る。
そろそろ戻るべきだろうか。屋敷のモノらに辟易して屋敷から抜け出してきたが、こうして悪い事ばかりを考えてしまうのなら、彼らに世話を焼かれている方がよほどいい。
顔を上げ、もう一度だけ二人の去って行った方へと視線を向ける。込み上げる寂しさから逃げるように踵を返し。
背後にいた誰かと、ぶつかった。

「――ぁ。すみません。気づかなくて」
「そうだよな。いつ気づくか待ってたが、結局気づかないままだったな」

揶揄うような低い声に、思わず身を縮ませた。

「な、んで」
「仕事が終わったからな。帰るのは当然だろう?」

離れようとする体を、許さないとばかりに強く抱き留められる。彼の表情が見えない事が不安で、怖くて。これ以上機嫌を損ねるのを恐れて、抵抗する事が出来ない。

「っ、ごめんなさい。屋敷を抜け出して。少し外の空気が吸いたくなって」

言い訳にしか聞こえないと分かっていても、それでも逃げたと思われたくなくて、必死に言葉を紡ぐ。自分の態度一つで、今まで続いていた人と彼の契約が切れてしまうのだけは、避けなければならなかった。

「もう勝手に屋敷から出ないから。だから」
「いい。一人にさせてたオレが悪い」

静かな彼の声からは、怒りの感情は感じられない。それに密かに安堵して、彼の顔を見ようと身じろいだ。

「これからは人間共に振り回されずに済むからな。思う存分一緒にいてやれるぜ」
「……それって」

嫌な予感に動きが止まる。彼の言葉の意味を知りたくないのに、体はその言葉の真意を問うため、視線を上げて彼を見た。

「ああ。別にオマエがどうこうって訳じゃない。ただ爺が死んだ。契約者が死んだから、契約も終わったってだけだ」

爺の子に継ぎたかったみたいだがな、と彼は笑う。楽しげなその笑みに何と返したら良いのか分からず、無言で彼を見続けた。

「赤子だったオマエを対価に、オレを従える人間との契約は、契約者だった人間の死によって終わった。これでオマエも自由になったって訳だ」
「じ、ゆう」

自由。それはつまり、彼と共にいる理由が一つなくなったという事だ。これで自分には夫婦という曖昧な関係しか残されていない。契約よりも遙かに簡単に、それこそ彼の気分一つでなくなるだろう関係。
もしかすれば、それすらもすぐになくなるのかもしれない。彼が人に従っていたのは、自分という暇つぶしの玩具があったからだ。差し出された対価を気に入り、玩具に飽きるまではと、暇つぶしに契約をした。それを契約者の死で終わらせ、新たに契約を結ばなかったのならば、それは自分に飽いてしまったのだろう。
そこまで考えて、ふと彼と離れたくないと強く思っている自分がいる事に気づく。
今まで受け入れるだけだった、受け入れるしかないと、そう思っていたというのに。
贄として彼に捧げられた事も。彼の側にいる事も。彼と夫婦になった事も。

「さて、オマエはこれからどうしたい?オレのご機嫌取りをする必要はなくなったんだ。オマエの意思で、何がしたいか言ってみろ。妻の望みになら何だって応えてやるよ」

顔を近づけて、彼は囁く。彼の言った妻の言葉に、微かに胸の苦しさを覚えた。
まだ妻と、彼と夫婦でいられるのだろうか。彼の隣にいても許されるのか。
それならば、と。ぼんやりと先ほどの二人の姿を思い浮かべる。
幸せそうな二人。手を繋いで、寄り添って歩いて――。
望んでもいいのだろうか。

「手を…」

言葉が続けられず、口籠もる。
言える訳がない。言葉にしてしまうには、それはあまりにも烏滸がましい。

「いいぜ、言え。言葉にしろ」

俯きそうになるが、彼はそれを許さない。目を合わせて、言え、と促される。
望め、と。それを許しているのだと。
傲慢なほどに気高く、美しい狸の主に促されれば、黙するままでいる事など出来ようがない。
無意識に掴んでいた彼の服の裾を、さらに強く握り締める。笑いながらも真剣な彼の目に写る、不安そうな自分を見ながら、静かに口を開いた。

「――手を、繋ぎたい。です」

あの二人のように。
形だけでない、本当の夫婦になりたい。

そう思いを込めて伝えれば、彼は僅かに目を見開き。そして優しく目を細めて微笑んだ。
彼のこんな穏やかな表情を、初めて見る。

「もっと我が儘になればいいのにな。本当にオマエは、純粋で、無垢で」

少しだけ体を離されて、彼の服を握り締めていた手を解かれる。両手で包み込むように目の前まで上げられて、指を絡めて繋がれた。

「そんな可愛いオマエを、オレは一等愛しているよ」

繋いだ手を引いて、彼は唇を触れさせる。
それを間近で見て赤くなる自分を揶揄うでもなく。彼はさらに手を引き、倒れ込む体を抱き上げて歩き出した。
帰るのだろう。彼と自分の屋敷に。

ふと、頬に冷たい一滴が触れた気がして、顔を上げる。
済んだ青の空の下。ぽつり、ぽつり、と雨が降ってきていた。

「天気雨…?」
「案外、狸でも雨を降らせる事が出来るもんだな」

初めて知った、と。楽しそうに、眩しそうに空を見上げる彼の横顔を見ながら。
本当に彼と夫婦になれたのだと、いっそ声を上げて泣いてしまいたかった。

「永遠に大切にさせてもらうぜ?オマエさん」
「はい…私も、愛しています」

いつかの言葉に、今度はしっかりと言葉にして返す。
驚いたようにこちらを見つめる彼に微笑んで、彼に擦り寄った。



20250320 『手を繋いで』

Next