行かないでなんて言葉じゃ、ダメだったんだ。
そう思った時、この空に響くほどの大声でミレーヌは叫んだ。
「カノン、貴方が…好き!!!」
ぎょっとしたのは言われた方で、観客にさせられたヴィルとギールスは引いている。
「私は、貴方が好きなの!!カノン!!お返事は!?」
頬を染めながら怒鳴り告白する女性なんて今まで居ただろうか。
カノンはたじたじになりながら、無理やり両手を絡め取られた。握りしめられる。
「えっ…な、なんで…」
あんなこともこんなこともしたのに、今更、なんで…っ。
「お返事は!」
「ぼ、僕も好きです!」
弾かれたように答えてしまった自分を呪いたい!
ひゅーと悪友は軽口を叩き、年上のギールスは額に手を当ててやれやれと呆れている。
「だったらわかるよね。お話し合い。しますよ」
彼女の「しますよ」は、しないとぶつよ、みたいな意味だ。
「あなた達が争ってるのはおかしいの!説明なさいっ」
「は、はい」「あい」「…」
三者三様のお返事が決まる。
と、そこでミレーヌの身体が傾いだ。
いち早く気づいたのはギールスで、ミレーヌの頭が地面にぶつかる前に抱きとめることに成功した。
「ミレーヌ!」
「ここの瘴気に当てられているからな…息をするのも本来なら苦しいだろう」
帰ろう…。あの村に。ここではダメだ。
少し落ち着いた頃に、やかましい妖精の声が反響しながら飛んできた。どうやら水鏡の向こうからの話しているようだ。
「あのねー。今言うか迷ったんだけどね。ミレーヌ、妊娠してるわよ。町のお医者さんにも診てもらったよ」
妖精のティーエがとんでもないことを言いう。
「えっ…」
「まじか」
幼馴染組みが男性特有の「どうリアクションしていいかわからない…」という情けない反応になる。
ギールスとしては、やはり。という顔だ。
「まだ、小さいな。心臓は動いている。」
ミレーヌのまだ平らな腹に、ガントレットの手を当てて生命反応を確かめていた。
「えっ…子供って。…えと、だ、誰の…」
と、カノンが呟いた瞬間に、バチーン!とツッコミの拳が入った。
「いってぇ」
「馬鹿野郎!!ミレーヌの前でそれ言ってみろ、はったおされっぞ!」
幼馴染のヴィルが烈火のごとく顔を歪ませている。
「おまっ!やることやったんだろうがよっ!」
「あ…その、しまし、た」
「しっかりしっぽりしたんだろーが!」
「う、ん…」
どうにもカノンの歯切れが悪い。
「人間は性行しないと受胎しないのであろう?」
そしてエルフの男がとんでもないことを言う。
人間の生殖過程を知っている…。彼女の入れ知恵だろうか。
「ばっ!!!」「お前そーゆうの言う!!?」
思春期真っ盛りの男子達が沸き立った。もうめちゃくちゃである。
「あのねー。ミレーヌ苦しそうなんだけどあんたらさぁ…」
妖精の呆れた声も続く。
作戦は失敗だ。急いで荷物を拾い、ミレーヌを抱きかかえて来た道を戻る。
途中ヴィルだけが歩みを止めた。
「そうか…お前らやっとかよ…くっそヤキモキしたぜ」
待たせすぎだよ。
嬉しかった。そして悲しい。ヴィルは顔を拭い、ひとまず後ろについて行った。
「遠くの空へ」
私は最後の戦いに共に行くと宣言した。
黒髪の剣士、王宮の見習い騎手、そしてカノンと。
だってずっと旅をしてきた。
だってほんの小さな頃から一緒だった。
固執しているのは私だけだったのか。
肝心な所で私は置いてけぼりを食らってしまったのだ。
「すまなかったとは思っているのですよ、彼も」
ティーエと共に私を支えていてくれるのは、お姉さん役のシーナ。美しいプラチナの髪の女性だ。
人の機微など分からん!と言い張る恋人のフォローをいつもしている。彼女だって別種族のことなど分からないだろうに。
「どうして、連れて行ってくれなかったんだろう…カノン」
私は国境近くの宿で目を覚ました。全てが終わった後だった。
「それよりご飯たべよ、ミレーヌ。 あの捻くれてエルフ、魔法加減を知らないのよ、2日間も寝込ますことなかったのに!」
妖精のティーエがそっと肩に乗ってくる。キラキラとした羽根の鱗片が舞う。その捻くれエルフの恋人はくすくすと笑っている。
少しだけ心が軽くなって、直後妙な胃の重さを感じた。
私は、彼の重荷にしかならなかったのかな。
お腹の奥がちくんと痛くて気分も悪い。とても食べられる気がしない。涙だけが落ちていく。
私、何のためにここまできたのかな。
言葉にできない
世界はきっとまた均衡の取れた状態になる。
冷えた身体を温めるために飲んだホットワイン。鍋で煮出したハーブの影響だろうか。頭がぼんやりして、身体が熱い。アルコールは余り残っていないと思うんだけど。
カノンは、いつもミレーヌと距離を取ろうとしてた。
ミレーヌもそれはよくわかっていて、彼がいつも淋しげに、だけど村の復興に惜しみない努力をしているのを見ていた。
野良仕事を手伝い、土壌を改善し、水質調査、水源確保、防風林や堀の設置、地盤の補強。地の精霊たちの加護といったいどうやって組み込んでいるのか分からないけれど、本来魔法はこういう使い方をするものなんだと心底感じた。
魔法は少なくとも、兵器でもないし、他国を脅かすものでもない、見せしめのために1つの村を潰すようなものでもないはずなのだ。
「傷だらけだよ…」
ミレーヌがカノンのほほに触れる。牧場作業のときの傷だろう。
少し言霊を唱えてふわりと傷を直す。ミレーヌの回復魔法は下手なのでは無かった。
掛ける相手が悪かったのだ。魔族に魔王の子、妖精にエルフ。まともに人間が居なかったのだから。
ベッドでカノンが下になり、ミレーヌがまたがっている。疲労困憊で身体は冷えているが、男からは今まで素振りをしてた熱気が残っている
「ミレーヌ、頼む離れて…」
「離れない。離れたくない…」
ミレーヌが身体を前のめりにし、ついにカノンは押し倒された形になった。
若い男の中ではいまだ活力がみなぎっている。それこそ眼の前の少女に無体をすることだって。
いやだ、そんな目でミレーヌと旅をしてきたわけじゃないんだ。ただ幼馴染で、ずっと一緒だっただけで。心配で。
「キスしよ…」
「えっ…」
「神聖な物の前での接吻は、契約なんだって。神様が見てる…」
契約ってなんの契約なんだ…。
外では土砂災害で唯一残った巨木が真冬の風に揺れている。
彼の濡れていた髪は乾きかけて治った肌は滑らかだ。その感触を感じながら、ミレーヌはそっと唇を寄せた。
柔らかい冷たい唇だった。
あまくぶどうのような香りもする。
みずみずしくて、急激に水を求める旅人のような気持ちになってカノンも彼女の唇を塞ぐ。唐突だったようで。
「んっ…」
くぐもった戸惑いの声が唇の先から聞こえる。
鼻にかかった乞われる様な声に、男の中の何かが耐えきれなくなってきた。
「ミレーヌ、警告はしたよ、それに応じなかった。いいね」
唇を離したら彼女の頬は真っ赤だった。
カノンの促しで顎をあけられ、深く優しくキスが始まる。ちゅっと吸い上げると、ミレーヌは浮かされたように恍惚とした。息が荒くなっていく。
「私と家族になって…」
「今だって家族みたいじゃん、同じ村で同じ家だし」
こういうこと、だよ。と、ミレーヌが男の手を持って自分のむねに触れさせた。
震えて、目は真っ赤になり今にも泣きそうだ。
カノンの指の感覚はやたらはっきりしていて、柔らかい乳房を否が応でも感じる。
体の奥に強いエネルギーが爆発的に増えてくる。知ってるこれ。男友達のヴィルと話した時、家族持ちのおっちゃん、酒場のおっちゃんが言ってたやつ。
「あっ…ん」
少し掴むと、弾力が返ってくる。
そうだ、ミレーヌはいつも野良作業や家事の邪魔になるからと、いつもサラシをまいていたのに、今日はどうしてこんなにふんわりと…
その意味を知って、カノンは一気に体を入れ替えた。
「きゃ」
小さな悲鳴が上がった。とっくに衣服ははだけていて、柔らかい肌が覗いている。吸い寄せられるように重ねる。
「とめれ、ないよ」
「うん、いいよ。来て、ください…」
消え失せるような優しい声に引き寄せられてまたキスをする。
触れてみたかった素肌に恐る恐る触れて、あまりの心地の良さに沸騰する思いだった。本能に突き動かされるように、身体のあちこちに口づけていく。
「ずっと、一緒にいて…。…あっ…」
「うん、ずっと一緒だ」
小さな頃水遊びしていた時は真っ平らだったのに。いつの間にか育った優しい双丘にいじらしいような愛が溢れていた。夢中で、でも壊さないように指先のすべてで包む。温かい。
流石に両膝の奥へ支配を進めると、ものすごい抵抗が感じられた。
「こわい?」
「だい、じょうぶ…」
いつの間にか涙がこぼれていた。それにカノンは怖気づかない。
柔らかい脚にキスをして、よく締まった尻を撫でる。どうしてこんなに彼女の緊張を解す手順を知っているのか。自分でも説明がつかない。
「ミレーヌ、かわいい。綺麗だ」
「えっ、だって…」
戦闘の傷跡や野良仕事の傷を気にしているのか。丸みを帯びた身体のラインが本当に神々しくて愛くるしい。好きなだけしゃぶり尽くして溶かしたいような、このまま飾って毎日眺めたいような気持ちになる。
いたわるようにそのすべてにキスをしていく。これが証明になるのならいくらでも。
「やぁ…」
ため息交じりの甘い声をもっと聞きたい。
初心者同士の2人は長い長い時間をかけてやっと1つになった。カノンも汗だくで、ミレーヌはあまりの異物感に震えている。
それでもやめると言わない…
「カノ…」
白い手が夜の世界を泳いでいた。
繋がったまま身をかがめると
「ひとりじゃないよ」
意味はわからないけど頷く。
小さく動くとまた、苦しげな声がした。
なんて温かい。ぎゅうと包まれる優しさにこれまでの世界が一転した。
膨張した熱をどうしたらいいか分かっていながら、未知が恐ろしい。それでもミレーヌの温かい心地よさは堪らないものだった。
春爛漫
世界はきっとまた均衡の取れた状態になる。
私達が戦えば。血塗れになりながら、この道の彷徨う影を撃ち落としていけば。
「和樹!!こい!」
「はい!」
短い命令で一気に周囲の音が変わる。
キンと高い音。薄い氷が砕けるような繊細な音。2つが混ざる。
「2人は空で待機、後方射撃用意。騎兵前へ」
大地から馬の下半身と、立派な体躯のケンタウルスのような男が現れる。
「来たよ」
敵の闇の群生がこちらに気付き、早いものから跳んでくる。
「騎兵、行け」
男たちが走り出す。同時に少女も薙刀を持って駆け出した。
いっきに乱戦になる。
「和樹!」
「はい!」
2重の領域が張られた瞬間、全員の位置を把握した。障壁を作ったあとに空から電撃が落ちていく。
近くに来た大型の影を撃ち落とす。
影に潜んでいた小型の影は和樹が仕留める。
「ほんと、頼りになるよ」
「伏せて、来ます」
「分かってる」
熱波が襲ってくる。予測していたので全員の防御壁はすんでの所で張り直せた。
「2人、打て!」
空で撹乱していた2人に光弾の合図を出す。
「うまいね、なんで私の動き分かるの」
「ずっと側にいましたからね!」
彼の刃が後ろの巨体を貫いた。
「誰よりもずっと」
胸糞悪いお下品系↓
手首に付いた枷がじゃらりと鳴る。
華奢なチェーンだが、余計な力を込めると電流が流れる仕組みだ。
高級ホテルの一室に閉じ込められて一ヶ月が経った。
たまに来る世話係は、知性は感じられるがまるで言葉が通じない。助けを乞うような目線を送っても、その青年給仕はドリンクボトルと果実を届けただけで、礼をして去っていった。
「これ、外して」
少女は怯えを噛み殺して、せめてと両手の自由を願った。
だが少女を閉じ込めた男は、入れ墨のある頬をピクリとさせるだけ。
「口の利き方がなってない。外して下さい、だ」
「は、外して…下さい」
その途端、男があはははは!!と突然豪快に笑うから、少女は驚いて体に力が入ってしまった。軽い電流が走る。
「だぁーーーめ」
耳元に大きな手が沈み込む。にやりと笑って、あろうことがもう片方の手の平は、少女の腹を撫で始める。薄い服しか許されていない。直接感じる手の平は熱い。
「わかってないな。お前はずっとここで僕と暮らすんだよ」
「暮らすって言わないでしょこれ…ひっ」
悲鳴を堪えきれなかった。
布を掻い潜って男の手が下着に触れる。柔らかい身体の部分をそっと撫でた。
いい表情だ。と男がまた笑う。
頬を撫で、顎を通り過ぎ、そして首筋をそっと掴む。今すぐにでも絞め殺せるとでも言うように。
下の方の指が、両膝を硬く閉じても有無を言わさず進入してくる。
「や、だ…」
「僕の子を産んでくれよ。君に似た小さくて元気な子がいいな」
恐怖で奥歯が鳴る。これは現実なんだ。
洗いたてのリネンの奥で、蠢く男の欲は何を言っても通じない。酷く無力感に襲われた時、両膝が力任せに破られた。
男の重みでベッドが軋む。忙しく素肌を撫で回して、熱い獣のような吐息を聞いた。ゴツゴツとした指で布はまた破かれて、奥へ奥へと追い詰めてくる。
「調べた所、生娘じゃぁないようだね。なら楽だ。ね。欲しいよね」
さぁ言いなと、首筋の動脈に当てた指に力が籠もったような気がした。
「これからもずっと」