世界はきっとまた均衡の取れた状態になる。
冷えた身体を温めるために飲んだホットワイン。鍋で煮出したハーブの影響だろうか。頭がぼんやりして、身体が熱い。アルコールは余り残っていないと思うんだけど。
カノンは、いつもミレーヌと距離を取ろうとしてた。
ミレーヌもそれはよくわかっていて、彼がいつも淋しげに、だけど村の復興に惜しみない努力をしているのを見ていた。
野良仕事を手伝い、土壌を改善し、水質調査、水源確保、防風林や堀の設置、地盤の補強。地の精霊たちの加護といったいどうやって組み込んでいるのか分からないけれど、本来魔法はこういう使い方をするものなんだと心底感じた。
魔法は少なくとも、兵器でもないし、他国を脅かすものでもない、見せしめのために1つの村を潰すようなものでもないはずなのだ。
「傷だらけだよ…」
ミレーヌがカノンのほほに触れる。牧場作業のときの傷だろう。
少し言霊を唱えてふわりと傷を直す。ミレーヌの回復魔法は下手なのでは無かった。
掛ける相手が悪かったのだ。魔族に魔王の子、妖精にエルフ。まともに人間が居なかったのだから。
ベッドでカノンが下になり、ミレーヌがまたがっている。疲労困憊で身体は冷えているが、男からは今まで素振りをしてた熱気が残っている
「ミレーヌ、頼む離れて…」
「離れない。離れたくない…」
ミレーヌが身体を前のめりにし、ついにカノンは押し倒された形になった。
若い男の中ではいまだ活力がみなぎっている。それこそ眼の前の少女に無体をすることだって。
いやだ、そんな目でミレーヌと旅をしてきたわけじゃないんだ。ただ幼馴染で、ずっと一緒だっただけで。心配で。
「キスしよ…」
「えっ…」
「神聖な物の前での接吻は、契約なんだって。神様が見てる…」
契約ってなんの契約なんだ…。
外では土砂災害で唯一残った巨木が真冬の風に揺れている。
彼の濡れていた髪は乾きかけて治った肌は滑らかだ。その感触を感じながら、ミレーヌはそっと唇を寄せた。
柔らかい冷たい唇だった。
あまくぶどうのような香りもする。
みずみずしくて、急激に水を求める旅人のような気持ちになってカノンも彼女の唇を塞ぐ。唐突だったようで。
「んっ…」
くぐもった戸惑いの声が唇の先から聞こえる。
鼻にかかった乞われる様な声に、男の中の何かが耐えきれなくなってきた。
「ミレーヌ、警告はしたよ、それに応じなかった。いいね」
唇を離したら彼女の頬は真っ赤だった。
カノンの促しで顎をあけられ、深く優しくキスが始まる。ちゅっと吸い上げると、ミレーヌは浮かされたように恍惚とした。息が荒くなっていく。
「私と家族になって…」
「今だって家族みたいじゃん、同じ村で同じ家だし」
こういうこと、だよ。と、ミレーヌが男の手を持って自分のむねに触れさせた。
震えて、目は真っ赤になり今にも泣きそうだ。
カノンの指の感覚はやたらはっきりしていて、柔らかい乳房を否が応でも感じる。
体の奥に強いエネルギーが爆発的に増えてくる。知ってるこれ。男友達のヴィルと話した時、家族持ちのおっちゃん、酒場のおっちゃんが言ってたやつ。
「あっ…ん」
少し掴むと、弾力が返ってくる。
そうだ、ミレーヌはいつも野良作業や家事の邪魔になるからと、いつもサラシをまいていたのに、今日はどうしてこんなにふんわりと…
その意味を知って、カノンは一気に体を入れ替えた。
「きゃ」
小さな悲鳴が上がった。とっくに衣服ははだけていて、柔らかい肌が覗いている。吸い寄せられるように重ねる。
「とめれ、ないよ」
「うん、いいよ。来て、ください…」
消え失せるような優しい声に引き寄せられてまたキスをする。
触れてみたかった素肌に恐る恐る触れて、あまりの心地の良さに沸騰する思いだった。本能に突き動かされるように、身体のあちこちに口づけていく。
「ずっと、一緒にいて…。…あっ…」
「うん、ずっと一緒だ」
小さな頃水遊びしていた時は真っ平らだったのに。いつの間にか育った優しい双丘にいじらしいような愛が溢れていた。夢中で、でも壊さないように指先のすべてで包む。温かい。
流石に両膝の奥へ支配を進めると、ものすごい抵抗が感じられた。
「こわい?」
「だい、じょうぶ…」
いつの間にか涙がこぼれていた。それにカノンは怖気づかない。
柔らかい脚にキスをして、よく締まった尻を撫でる。どうしてこんなに彼女の緊張を解す手順を知っているのか。自分でも説明がつかない。
「ミレーヌ、かわいい。綺麗だ」
「えっ、だって…」
戦闘の傷跡や野良仕事の傷を気にしているのか。丸みを帯びた身体のラインが本当に神々しくて愛くるしい。好きなだけしゃぶり尽くして溶かしたいような、このまま飾って毎日眺めたいような気持ちになる。
いたわるようにそのすべてにキスをしていく。これが証明になるのならいくらでも。
「やぁ…」
ため息交じりの甘い声をもっと聞きたい。
初心者同士の2人は長い長い時間をかけてやっと1つになった。カノンも汗だくで、ミレーヌはあまりの異物感に震えている。
それでもやめると言わない…
「カノ…」
白い手が夜の世界を泳いでいた。
繋がったまま身をかがめると
「ひとりじゃないよ」
意味はわからないけど頷く。
小さく動くとまた、苦しげな声がした。
なんて温かい。ぎゅうと包まれる優しさにこれまでの世界が一転した。
膨張した熱をどうしたらいいか分かっていながら、未知が恐ろしい。それでもミレーヌの温かい心地よさは堪らないものだった。
春爛漫
4/10/2026, 11:38:23 PM