村人ABCが世界を救うまで

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3/11/2026, 8:47:13 AM

身体中に回復の緑の光が宿る。
「オレはお前が抵抗するなんて思わなかった。なんで阻害したヤツを守ろうとするんだよ」
紫の悪魔が髪を乱して吠えている。
「耳を貸すな」
隣でギールスが剣を抜いている。
なんでそういう話になるんだよ。
「あの村には子どもがいっぱいいる、壊したらいけなかったんだ」
「それがなんだ!」
「子供は未来なんだよ、なんでヴィルが分からないんだ」
ずっとヴィルの後ろに隠れて、ミレーヌに守ってもらっていたカノンが初めて大声を出した。
「子供?」
怪訝な顔でヴィルは嘲笑う。魔力が増幅され突風との刃となって飛んできた。また傷が増えるけど、それ以上に、ヴィル達親子が歩んできた背景が覗き見えて胸を抉るようだった。
「子供だからなんなんだ。芽は潰すべきだろ」
「確かにヴィルは酷い目に遭ったかもしれないよ。でも子供が残酷な事をさせるのも大人のせいだって、なんで自分で思わないの…」
カノンがただの気弱な少年に戻った。
憎しみが考えることを拒絶している。暴走が俯瞰する目を防いでいるのだ。
空気が揺れる。
長い遠雷がこの世界にまた嵐を呼んでいた。



愛と平和

3/10/2026, 5:38:03 AM

よく笑う元気な娘だった。嫉妬深いけど分かりやすく喜怒哀楽を示してくれるから、面倒くさいこともない。
母の知り合いの娘だって言うから、話を合わせるつもりで付き合っていたけど、大学も同じ年齢も一緒じゃ、どうしたって同じ時間を過ごすことになる。

免許取り立ての先輩と一緒に夜の高速に乗ったり朝までカラオケしたりファミレスでだらだらしたり。色んな知り合いができていくから忙しないけど退屈しない時間だったな。


春の風がビルを吹き上げてくる。遠くに複雑な路線の半地下の駅が見えた。
今彼女は新しい彼氏と電車に乗ったところだ。
元気そうじゃん。
「そうだね」
「えっ」
「ん」
和樹も七海も、今は2人とも現代人のような格好をしている。紺と黒のジャケットに、スニーカー。ラフな休日パンツスタイルだ。身体にはまだ生々しい跡があるが痛みはほとんどない。
「今おれ口に出して言いましたっけ?」
「言ってたよ」
隣に座る女性が同じように春風に吹かれながら、大学生のままの彼女を見下ろしている。

時間が経ちすぎたように思う。
人混みに流れていく大学生の彼女と自分たちは違うのだ。

なんでか今の自分のリーダー…つまり社長?と仲がいいのが微妙っちゃ微妙なんですけどね。う。胃が痛い。

過ぎ去った日々

3/9/2026, 8:23:05 AM

空は白く烟り、空気は濁り、カード型の測定機は見たこともない数値を叩き出している。

空想した未来都市は愕然とする薄汚さだった。遠くで機械がこすれ合っている音がする。換気扇のような音も。初めてなのになんだか既視感がある。不快な音がずっと地面から響いてくるのだ。

身体の表面をほんの数ミリで守る見えない防護スーツは常に危険信号。
「空気やばいですね…」
「分かるか」
分かりますよ…。激マズです。顔をくしゃりとやると、隣の女性の主は何が面白かったのか子供のようににんまりした。


世界にも時間にも環境にも見放された、文化科学の最果てのこの世界は、住む人も動物も、もうまともではない。
空は富裕層のために覆われ、太陽の光はすき間からしか届かない。
まるで地下のような地面。ここでは地表と呼ばれているが… 大昔の大地震などの大災害のあとはなんの手も付けてもらえなかった跡がある。
大地には雑草が茂り下水が垂れ流し。病原菌を持った動物や虫がうようよとしている。

「ま。私もそんなに居たくはないんだけどね」
「なんかここに用事ですか」
「そ」
瓦礫をひょいと飛び越え、地下の建物に入っていく。手すりは埃や煤だらけで触りたくもない。
崩れそうな地下に、その店はあった。明かりはランプ2つ。壁に1つ。周囲には雑然と小道具や鉄くずが積まれている。触ったら一斉に落ちてきそうだ。
「来たが」
店主がいた。色黒の年寄りが迎えてくれた。
「調子はどう」
「だめだね」
「またまた」
主が突然、馴染みのように饒舌に話し出す。
自分には老人の言葉はなまりがあるなと思った。耳と脳の間にある変換器が妙にずれる。


それにしても、主の人の変わったような笑顔はどうだ。まるで女子高生のようじゃないか。にこにことして、なんだか面白くない。
「そが男はなんだね」
「相棒だよ」
「それの分も作るってぇ話か」
「ああ、それは大丈夫。私の分だけ頼むよ。お代は弾む」
「惜しまねぇなおめは」
「当たり前だ」
最高品質な獲物のためならばいくらでも払う。彼女は、性能的な物への投資に糸目はつけないのだ。

「私の子達の命に比べたら安いものさ」

注文した青銀色のナタを水平に上げて、彼女は愛しげに囁いた。
子って…?と、思わず彼女を探すと目が合った。ふわりと妖艶に笑っている。



お金より大事なもの

3/7/2026, 11:48:50 PM

遠くで獣の遠吠えが聞こえる。
それまで薄雲が空を覆い、陰鬱な夜の世界だったのに。ごうと上空の風が一際強く吹くと一気に雲が開いた。辺りが白銀色に染め上がっていく。

魔力の高まる夜の世界と誰が言ったんだろう。昼も夜も関係ない。
衣服は破れ、髪も乱れ、ただ1人空に手を伸ばす小さな魔族は、この世界の均衡を正そうと生命を削っている。風が吹いてまた夜が明るくなる。

街の子供は寝ただろうか。このように明るくて、人々は不気味に思うかもしれない。

私だけは綺麗だと思った。あの人の背中は必死に鍛えた跡があるけど、まだ小さくていじらしい。守ることが出来ないだろうか。そう思った瞬間、仲間の声を振り切り、私は石畳をはしりだした。
電流のような抵抗を感じながら、彼に近づく。風に揺らぐ身体を抱きとめて、覚悟を決めた。
「一緒に背負うから」
たぶん気配に気付いていたんだろう。優しい面差しはゆるりと振り返る。
何を怖がっていたんだろう、小さな頃と何も変わらない。私があなたを守ってあげなきゃいけない。だってあなたの2個お姉さんなんだからね。


月夜

3/7/2026, 2:45:28 AM

背中に生えた羽はまるでコウモリのようで、人間ではないけど、神に創造された生物にも見えない。6対の不思議な生き物…。

まだ少年の身体に、不釣り合いなほどに大きい魔族の翼だった。羽ばたく度に嫌な空気を周囲に巻いている。これが瘴気なのか邪気なのか魔力なのかは分からない。
だが隣に立つギールスには明らかな焦りが見えた。
「なんで…」
カノンはそれだけ声に出し、後の気持ちはぐっと抑え込む。荒々しい魔界の風と荒れ果てた大地は世界の終わりのようでもあった。
「ずっと一緒だったよな」
ヴィルが変声期を終えないいつも通りの掠れた声で言う。
「おれたち生まれたときから。なんでお前ばっかりなんだろうな」
嫉妬の目だった。赤く染まっている。来る…そう思った時には、彼の右手は振り下ろされていた。
「離れろ!」
ギールスに促されたまま後ろに無様に飛ぶと、岩場が飛び散り破片が飛んできた。
石が頭を掠め皮膚を裂いていく。

守るものがいない。それは逆にカノン自身も強くなれたし、暴走するきっかけにもなった。
魔法がほとんどないカノンのために何年も掛けてしつらえた短剣を取り出す。
「そんなんでどーする気?俺と戦えるの?」
ヴィルはにこにこ嘲ってくる。
「戦うんじゃない、戦うために来たんじゃない」
「おきれいなこって」
次から次へと衝撃波が飛んでくる。刀と小さな魔力で受けて流していく。
(傷つける物を持つときは傷つけられる覚悟を。持つものは、持たざるものを守るべし)
港町の銀細工師はそう言って鞘ごと持たせてくれた。
あれ、ちょっと待った。この剣…最終的に誰が持ってきた?

(ヴィルだ)

小さな蒼く光る刀身を見て青ざめる。
(まさか)
カンッと硬いものが落ちる音がする。

遠くで避けながらギールスが怒っている。
「正気か!すぐに拾え、童心などもう捨てろ、やつはそれで揺さぶるのがうまいのがなぜわからん!」
強い気流をギールスが太刀を浴びかせて打ち消す。
「こい」
「いいね。まずは邪魔なのを消そうか」
意気消沈したカノンの前に黒髪の剣士が立ちはだかる。ギールスはにやりとまだ余裕の笑みだ。彫り深い顔に冷たい面差しだが、それが嫌みに見えないから、本来は人の醜美のうちでは美形な顔…に当たるのだろう。
本人にその気はないだろうが。
「俺の実力を知らんのか?」
「知ってる。おっかねぇの。だから距離を取ってる」

いくつもの衝撃波を生みながら、ヴィルの背後にはスパークした赤黒いエネルギーが蓄積されていく。


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