村人ABCが世界を救うまで

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3/5/2026, 4:36:15 AM

父親の髪色に、母親である私のくせ毛がふわりとついた小さな男の子はとにかく元気で、毎日村中を走り回っている。よく働き、よく笑う。今日もホビットや魔族の子供達と一緒に畑で泥だらけになって手伝っていた。
遠くからでもよくわかる。彼の周りで妖精の通った帯がきらきらと光っているのだ。彼のそばには妖精がずっとそばにいるのね。


私も昔は小さなお母さんと笑われたこともあったけど、温かい村の人々のおかげでなんとかやっている。
産んだ時、何歳だっけ。18歳…?
時が経つのは早いもので、今では仲間のティーエと元気に喧々囂々。家の中にまで丸聞こえなんだけど。

たまには

3/4/2026, 1:44:12 AM

赤ん坊が動ける年齢になれば、畑仕事を手伝い、やがて家や冬の間の内職をやり、年下の子守をする。そして年頃になれば出稼ぎにいく。家庭を半ば強制的に作らされ、半年に一度帰ることで縛り付けるんだ。

それが娘だった場合。女余りだった場合。
彼女達が村に帰ってくることは稀だった。
つまりそういうことだ。

ひなまつり

3/2/2026, 10:49:43 PM

ヴィルは手先が器用で、耳が良くて。よく村にくる動物や魔物の襲撃を事前に察知していた。
途中で出会った冒険者が「俺の職はまぁ盗賊みてえぇなもんだ」と言うものだから、なぜか影響されて盗賊なんて自らを名乗ったり…。
たぶんあの人はトレジャーハンターとか斥候とか罠掛け師とか、そういう類なんだと思うんだけどな。
「ヴィルも馬鹿な奴だ」
小さなゴブリンをいとも容易く打ち捨てて、刃が劣化するのを防ぐよう浄化の精霊を呼んでいる。正直ここまで色々と(人間的に)不器用なのに、地と水という最悪な相性の精霊を使いこなす森の民というのは聞いたことがない。
カノンの目には、嬉しそうに飛び回る精霊たちが最後に笑い合って空気に溶けていった。子供の高い声で耳につくけど、きっと自分たちも数年前はこんな感じだったんだろうな。

「残り香を使い、追いかけてくるように誘っているぞ。正気とは思えん」
「やめてくれよ…。そんな器用なやつじゃない」
小さな声で抗議する。
「なぜだ。お前たちは窮地に陥っても奴の肩を持つ。吐き気がするな。それが人間なのだとでもか言うつもりなのか」
「そういうのじゃなくて…」
カノンも両手に魔力を込め始める。二重三重になった障壁がずいぶん遠くまで飛ぶ。森のいくつかの地点でカチリと生命反応があった。


たった一つの希望

3/2/2026, 12:23:41 AM

ベッドの中は温かい。優しい身体の曲線を辿る度に、幸福感に包まれる。乱れた髪を撫でつけて耳にかけてやると、彼女の疲れた顔がにこりと笑った。僕のずっと知ってる顔でほっとする。
「鳥が、鳴いてるね」
ムードもそこそこに、外で家畜が朝を告げる。
「今日はずっとこうしていたいな」
そしてふふっと笑った吐息が僕の前髪を揺らす。
「僕は…」
深刻な声音をすぐに察して彼女が改めて見てくる。
「なぁに。言って」
ああ、敵わない。
「ずっとこの村に居たいよ。君とずっと、子供に、孫に、辺境だけど恵まれた豊かなこの地で暮らしてほしい」
「まるで貴方が居なくなるみたい」
ばれてる?と顔で聞くと、バレてますと見つめられる。
「どうかここで暮らしていてほしい。必ず帰るから」
「出稼ぎに行く男の半分は帰ってこないのよ」
うっと言葉に詰まる。
うそよ、って笑ってるけど目が真剣。
「大丈夫。あなたは…カノンは嘘つかない。冗談だって言えない。知ってる」
彼女の包み込むような優しさに触れて、思わず柔らかい裸体をだきこむ。猫のような声がする。

生きて行きたい、君と。力がこもって苦しげな切ない喉の音を聞いた。

でもその前に世界を救わなきゃいけないんだ。


欲望

2/28/2026, 11:18:17 AM

遥か昔から交通の要所であったダンツィヒ。山間の街で3つの街道を城壁要塞でまとめ上げる。古くからの豪商が組織を立ち上げ今やどの国も手が出せない山岳の自由都市ダンツィヒと名高い。
たくさんの種族と民族が、他国の貴重な品々の売買のために集う。
「あそこまでいけばお別れだね」
同行人の狩人の女性が囁くように呟いた。
子供達3人と、偶然出会った2人旅の冒険者の合計5人は、草木の生えない小高い丘でほんの小休止をしていた。
「君たちだけを残すのも忍びないんだけど、こちらも用事があってね」
「いえ、そんな!」
「ゼアルも心配でしょ」
ミレーヌが胸の前でぶんぶんと手を振るけど、狩人の2人は会話を続ける。
「一刻も早く、土地の有力者…。そうだな、まずはあの街の人間に頼めばうまくいくかもしれん」
「そうよね。ここの地域のことは、季節の明けに、夏の嵐、秋の実りに積雪量。すべて把握していると思うし…君たちの村の惨事も商人たちによって伝わっていると思うわ」
「私たち…その。何もないのに。辺境の村人が取り次いでもらえるんでしょうか」
改めてミレーヌが戸惑いを見せた。2人の大人もおやおやと見守ってくれる。
「緊急時に、なにももないよ」
よく、頑張ったね。
ミレーヌはうつむいて、涙を今更ながらこぼし出した。側に居たヴィルは、泣き虫とからかってからいつものように肩を寄せて、カノンは誰のマネなのかよしよしと頭を撫でる。憔悴しきっていた。でもそんなことは考えていられない。
自分たちは運が良かっただけ。これからは自分たちの足で立ち上がらければならないんだ。


遠くの街へ

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