怖いくらいに、彼女の顔は整っている。
大きく澄んだ瞳、綺麗な平行二重、細い鼻筋、小さな小鼻、薄く厚すぎない艶のある唇、シュッとした顔。
全てにおいて完璧とまで言える程、彼女の顔は綺麗だ。顔だけでなく人に優しく、誰にでも平等、彼女が歩く道全てがまるでランウェイのように華やか。男女問わず人気な彼女。そんな彼女が私に告白をしてきた。私は彼女と正反対で、一重の目、つぶらな瞳、団子鼻、丸い顔。
そんな私に彼女は告白をしてきた。何かの罰ゲームなのか、本気なのか分からない。でも、私は彼女の告白に「はい。」と返事をした。別に好きではない、寧ろ嫌いなまである。でも私はそう返事した。彼女は酷く赤面をし、私に「よろしくね。」と言った。
その日から彼女と私は性格の殆どを一緒に過ごすようになった。
ある日彼女に頼み事をされた。「写真を撮ってほしい。」私はそんな事くらい私じゃなくとも出来るじゃないかと思いながらもその頼みを受け入れた。
すると彼女は急に服を脱ぎ始めた。その行動に理解が出来ずにいた私に、「驚いた?」と聞いてくる彼女。続けて彼女の口から出たのは「ヌード写真を撮って欲しいの。」だった。
彼女の白肌は柔らかく滑らかで、キュッと引き締まった身体はとても綺麗で美しかった。私は彼女の裸体をカメラに写し、シャッターを切った。
その瞬間。私は彼女の弱みを握る。
後日の朝早く学校の黒板に、彼女の「写真」を一つ一つ貼る。
これで彼女は私のモノ。
2024.1.17 「美しい」
風が肌寒く感じる季節、私は彼女を思い出します。
彼女に出会ったのは新学期で、話しかけたのは私でした。私はクラスに馴染めず、数ヶ月程一人で日々を過ごしていました。
別に人と接するのが苦手な訳ではないのですが、私はどちらかと言うと誰かと一緒にいるよりも、独りでいるのが好きなだけで、全く気にはしていませんでした。ただ、少し寂しさを感じる日もないわけではなかったのです。
そんな時、彼女を見つけたのです。
彼女の名前は夢乃と言い、私はゆめと呼んでいました。容姿端麗で髪は長く艶のある黒髪、細い首に細長い胴と足。なのに頭が悪く、勉強が出来ない。話しもろくに出来ず、間抜け。ですが彼女は書き物が得意で、その表現力は人一倍高く、同じ人が書いたものとは思えない程でした。私はそんなゆめに惹かれました。
ゆめと初めて話した時の事も鮮明に覚えています。
「私、名前、夢乃。」
ゆめの話し方はまるで、言語を知らない幼児のようで、書き物は得意なのに何故は話すのが苦手なのか。私は不思議で仕方ありませんでした。私は彼女と親しくなるために毎日話しかけたり、遊びに誘ったり、一緒に行動をするようになり、徐々に仲を深めていきました。ゆめと一緒に過ごす日々は幼い子供と過ごしているように感じ、私はいつしかゆめとの関係を「友達ではない関係」と思うようになっていました。友達でも親友でも恋人でもない何か。言葉では言い表せない曖昧な関係。ゆめは私の事をどう思っていたのでしょう。この気持ちがゆめと同じだったら…などと思いながら、悶々とした気持ちのままゆめと一緒に過ごしていました。
出会ってから四ヶ月程経ち、特に変わったことも無い普通の日。いつものようにゆめに話しかけに行く途中。私はある噂話を耳にしました。
私は運命なんて信じない。
人々は運命の赤い糸という物を信じる人がいる。私はその運命の赤い糸とやらを自分の手で引きちぎった。
私の家はシングルマザーで家計はかなり貧しく、学費が払えないため大学を諦めるよう言われていた。私は美術大学に行くためだけに頑張っていた。どうしても大学に行きたかった。
ある日、母が大手企業の社長令息との縁談を持ってきた。私にとってその縁談が正直良いものなのか悪いものなのかは分からなかった。この縁談が上手く行けば大学にも行けるし母の生活費も負担してもらえる。
だが私には2歳年下の彼女がいる。金か恋愛か。自分には到底判断するのが難しいものだった。
私は彼女に相談をすることを躊躇って縁談の話を彼女に出すことができずに令息との縁談は思っていた以上良好に進んで行った。進んでいく度、不安と罪悪感が募っていく。
結婚の話が度々出る中、私は決断をすることが出来ずにいた。あわよくば、何も考えずに一人で生きたいと思う時もあった。でも今日で何もかも終わり。
私は金を選び彼女には別れ話を切り出し交際を終えた。
これで私は幸せになれるの。たとえ好きでは無い人とでも。愛のない結婚でも。
2023/6/30
家の中はいつも騒がしかった。学校から帰れば両親の言い合いが僕の耳を劈く。五月蝿い。
誰かが僕を見つけてくれるまでずっと一人だ。
学校の帰り道、一人でのろのろと歩いていると一台の車が真横に止まった。すると車窓からスーツを着た人が話しかけてきた。
「君一人?今から星を見に行くんだけど一緒に来ない?」
僕は唖然とした。なぜなら今はまだ真昼間、星なんて見れるはずがないのだ。
「まだ真昼ですよ?星なんて見れないです。」
するとその人は強引に「いいからおいで、楽しいよ。」と僕の手を引いた。呆れた僕は助っ席に乗り、シートベルトをつけた。僕は警戒心と不安でいっぱいだった。だが、誰かに話しかけられたのが久しぶりで嬉しくてつい着いていくことにしてしまった。後悔はしていない。気にかけて貰えることもほとんどない僕をその人は気にかけてくれた。どうせ両親にも見放されている身だから心配もされないだろう。
しばらくの間無言の間が続いた。数分経った後急に「ねえ、歌を歌ってもいい?」と意味不明なことを言ってきた。「別にいいですよ。僕にはお構いなく。」
それから約一時間程。その人は気分良さそうに歌を歌いながら運転をしていた。
僕はその人の歌を聴きながら車窓から淡々と過ぎていく景色をぼうっと眺めていた。
「着いた。」急な声に驚きながらも、周りの景色を見渡した。そこは何の変哲もないただの家が立っていた。
「星なんて見れるんですか?まだ昼間ですよ。」僕は呆れた顔でその人に言い放った。
「とりあえず、家上がって。」僕はその人に言われるまま、靴を脱ぎ家に上がった。
家の中はごく一般的な家具が置いてあり、特に嫌な感じはしなかった。
「おいで。部屋に行こう。」どうやら星はその人の部屋で見れるらしい。
その人に案内されながら部屋に入る。部屋の中は最初に見たごく一般的ではなく、アンティークで少し薬品のような香りがする不思議な部屋だった。
「ここは僕の部屋だよ。面白い部屋でしょ?」その人はそう言うと、棚の中から少し大きい箱を出してきた。「これを使えば星が見れるんですか?」僕は警戒心剥き出しでその人に質問した。
「逆にこれがなきゃ昼間から星なんてみれないよ。」
その人は微笑しながら箱から機械を取り出した。
プラネタリウムだ。僕は思わず吹き出してしまった。するとその人は「どうしたの?」と僕に質問した。
「確かにそれがないと昼間から星なんて見れないね。」
それから僕とその人はお菓子や飲み物を口にしながら星を眺めた。
この少しの時間もこの場所も、僕にとって些細な幸せになった。
「またここに来てもいいですか?」
2023/6/27
「君はとても素敵な人だね。」
そんなことを僕に言ったのは君が初めてだった。
僕は運動も勉強も出来、友達も沢山いる。秀才とまで呼ばれている。僕は誰からも尊敬されている。
けど何かが足りない。僕は満たされない何かをいつしか考えるようになっていた。
やけに潮騒の音が五月蝿い夜。僕は眠れないままベッドの上で窓の外を眺めていた。すると浜辺に人影を見つけた。「こんな時間に何をしているんだろ。」
ちょっとした好奇心から静かにドアを開け外に出た。するとまた人影を見つけた。
こっそり近くに駆け寄ってみると、少し髪の長い同い年くらいの少年だった。少年は耽美な顔をしているが服は酷く汚れていて、裸足で一人浜辺を歩いていた。
服の隙間から微かに見える傷が僕の好奇心を刺激する。
「何をしているの?」僕が声をかけると少年は少し驚いた顔をして「君こそ何をしているの?」と質問を返してきた。
「僕はこんな時間に人影を見掛けたから気になって外に出てみたんだ。君は何をしているんだい?」
「僕は海で遊びに来たんだよ。眠れなくてね。」
それから僕達は浜辺を歩きながら話をした。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。少年との会話はどれも興味深く、何故か少年の話は僕の満たされない何かを満たしてくれるような気がした。そして少年に不思議な魅力を感じた。彼なら、彼と一緒にい僕の満たされない何かを全て満たしてくれるのかもしれない。
「僕そろそろ帰らなきゃ。」少年はぽつりと呟いた。そう言うと少年は海の中へと歩き出した。
「何をしているんだい?」僕は焦って少年を引き止めようとした。でもその数十秒後、引き止めるのをやめた。何故やめたのか自分にも分からない。少年は一言、「君はとても素敵な人だね」と言葉を残して暗い海の中へと帰って行った。僕は少年を追いかけることも引き止める事も出来なかった。少年の言った「素敵な人」とはどんな人なのだろうか。
数日後、少年の遺体が見つかった。
2023/6/26