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「君はとても素敵な人だね。」
そんなことを僕に言ったのは君が初めてだった。
僕は運動も勉強も出来、友達も沢山いる。秀才とまで呼ばれている。僕は誰からも尊敬されている。
けど何かが足りない。僕は満たされない何かをいつしか考えるようになっていた。
やけに潮騒の音が五月蝿い夜。僕は眠れないままベッドの上で窓の外を眺めていた。すると浜辺に人影を見つけた。「こんな時間に何をしているんだろ。」
ちょっとした好奇心から静かにドアを開け外に出た。するとまた人影を見つけた。
こっそり近くに駆け寄ってみると、少し髪の長い同い年くらいの少年だった。少年は耽美な顔をしているが服は酷く汚れていて、裸足で一人浜辺を歩いていた。
服の隙間から微かに見える傷が僕の好奇心を刺激する。
「何をしているの?」僕が声をかけると少年は少し驚いた顔をして「君こそ何をしているの?」と質問を返してきた。
「僕はこんな時間に人影を見掛けたから気になって外に出てみたんだ。君は何をしているんだい?」
「僕は海で遊びに来たんだよ。眠れなくてね。」
それから僕達は浜辺を歩きながら話をした。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。少年との会話はどれも興味深く、何故か少年の話は僕の満たされない何かを満たしてくれるような気がした。そして少年に不思議な魅力を感じた。彼なら、彼と一緒にい僕の満たされない何かを全て満たしてくれるのかもしれない。
「僕そろそろ帰らなきゃ。」少年はぽつりと呟いた。そう言うと少年は海の中へと歩き出した。
「何をしているんだい?」僕は焦って少年を引き止めようとした。でもその数十秒後、引き止めるのをやめた。何故やめたのか自分にも分からない。少年は一言、「君はとても素敵な人だね」と言葉を残して暗い海の中へと帰って行った。僕は少年を追いかけることも引き止める事も出来なかった。少年の言った「素敵な人」とはどんな人なのだろうか。

数日後、少年の遺体が見つかった。

2023/6/26

6/26/2023, 11:25:19 AM