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家の中はいつも騒がしかった。学校から帰れば両親の言い合いが僕の耳を劈く。五月蝿い。
誰かが僕を見つけてくれるまでずっと一人だ。
学校の帰り道、一人でのろのろと歩いていると一台の車が真横に止まった。すると車窓からスーツを着た人が話しかけてきた。
「君一人?今から星を見に行くんだけど一緒に来ない?」
僕は唖然とした。なぜなら今はまだ真昼間、星なんて見れるはずがないのだ。
「まだ真昼ですよ?星なんて見れないです。」
するとその人は強引に「いいからおいで、楽しいよ。」と僕の手を引いた。呆れた僕は助っ席に乗り、シートベルトをつけた。僕は警戒心と不安でいっぱいだった。だが、誰かに話しかけられたのが久しぶりで嬉しくてつい着いていくことにしてしまった。後悔はしていない。気にかけて貰えることもほとんどない僕をその人は気にかけてくれた。どうせ両親にも見放されている身だから心配もされないだろう。
しばらくの間無言の間が続いた。数分経った後急に「ねえ、歌を歌ってもいい?」と意味不明なことを言ってきた。「別にいいですよ。僕にはお構いなく。」
それから約一時間程。その人は気分良さそうに歌を歌いながら運転をしていた。
僕はその人の歌を聴きながら車窓から淡々と過ぎていく景色をぼうっと眺めていた。
「着いた。」急な声に驚きながらも、周りの景色を見渡した。そこは何の変哲もないただの家が立っていた。
「星なんて見れるんですか?まだ昼間ですよ。」僕は呆れた顔でその人に言い放った。
「とりあえず、家上がって。」僕はその人に言われるまま、靴を脱ぎ家に上がった。
家の中はごく一般的な家具が置いてあり、特に嫌な感じはしなかった。
「おいで。部屋に行こう。」どうやら星はその人の部屋で見れるらしい。
その人に案内されながら部屋に入る。部屋の中は最初に見たごく一般的ではなく、アンティークで少し薬品のような香りがする不思議な部屋だった。
「ここは僕の部屋だよ。面白い部屋でしょ?」その人はそう言うと、棚の中から少し大きい箱を出してきた。「これを使えば‪星が見れるんですか?」僕は警戒心剥き出しでその人に質問した。
「逆にこれがなきゃ昼間から星なんてみれないよ。」
その人は微笑しながら箱から機械を取り出した。
プラネタリウムだ。僕は思わず吹き出してしまった。するとその人は「どうしたの?」と僕に質問した。
「確かにそれがないと昼間から星なんて見れないね。」
それから僕とその人はお菓子や飲み物を口にしながら星を眺めた。
この少しの時間もこの場所も、僕にとって些細な幸せになった。

「またここに来てもいいですか?」

2023/6/27

6/27/2023, 2:00:02 PM