「愛してる、そんなたった五文字の言葉すら貴方は言えないのね」
そう言って呆れたのは君のはずだったのに、一番呆れたのは自分だなんてどういうことだ。
今更、君ことを思い出したのは現実逃避だろうか。
好きとは言えた。けれど、愛してるはどうしても言えなかった。
それは、愛していなかったから、だなんて単純なものではなくて。
一度口にしてしまえば、君が満足してしまうのでないか。
いつか君が私のことを捨てるとき、その言葉が呪いになるのでは。
そんなことばかりが頭を過ぎっては、唇が微かに震えて声は喉に引っ掛かって君に上手く伝えられなかった。
その理由は、明白だったのだ。
結局のところ、君に向けていた気持ちすべてに、ただ一つの同じ感情が絡んでいただけの話。
それは決して綺麗なものではなく、どちらかといえばきっと汚かった。
それをなんていうか、今更君に伝える手段はもうないけれど、一つだけ答えるとするならば今こそちゃんと言おう。
君に素直にたった五文字の言葉を紡げなかった理由は、
" 欲望 "
好きです、これからも変わらず。
貴方を想い、涙することもこの胸が高鳴ることももうないけれど、それでも私は貴方をこれから先もずっと愛しています。
そう隣で穏やかに眠る貴方に誓ってそっと口付けた。
きっと二人で幸せになれる。
貴方はまだ少し知らないだけだから。
その細く長い指に光る指輪はガラクタで、これがホンモノ。
貴方に嫌われるのならば、地獄まで。
いつだか読んだ小説にあった一文を今思い出すなんて。
ああ、そうか。
嫌われるなんて、と嫌気が差したあの小説に自分を重ねたのか。
だから、結末が気に食わなかった。
こんなにも同じなのに。
さて、ならば私の話ももうおしまいが近いのだろう。
温かいスープを飲んでくれる貴方でよかった。
こんなところまで足を運んでくれる貴方でよかった。
最後まで、貴方にとって都合のいい女で居られてよかった。
サヨナラ、また来世でお会い致しましょう。
" 愛する、それ故に "
立ち上る黒煙に君の影を見た気がして胸を締め付けられた。
きっと長くは続かない、そう確信はしていた。
ただそっと、君と交わす言葉が、君と共に過ごす時間が少しでも多ければいいと望んだだけだった。
きっとそれが、すべての始まりだったのだろうけれど。
いつからか後ろ指を指される様になった。
トイレへと呼び出されては閉じ込められることも増えた。
靴がなくなることなんていつものことだった。
教科書やノートは使えなくなるからやめてほしかったけれど、それが終わらないこともまた、いつものことだった。
それでも二人で一緒に居られるならば、それは間違いなく幸せだったのに。
君は僕を置いて逝ってしまった。
黒い服を着て、何事もなかったかのように列に参加してはまだ背中へと感じる視線。
そんなものを向けられたところで、もう意味はないというのに。
何も知らないであろう君の母親が潤んだ瞳を下げてそっと会釈する様に何故だか吐き気を催して。
こんなはずじゃなかった。
こんなつもりじゃなかった。
こんな……。
いくら言葉を紡いでも、もう何も意味を成さない。
ここに君が居ないことがすべての答えなのだから。
あれから三回年を超えて、見慣れた景色でさえ少し形を変えた。
君が知っている僕はきっともうどこにも居ないのだろう。
まだ、君の墓には一度も行けていない。
あれから少しして、誰も僕に触れなくなった。
まるでそこに居ないかのように平穏な日々が巡った。
君が居なくなっただけで、世界が変わるのだから不思議な話だろ。
そう問い掛けても、やっぱり返事はない。
もう三年。あっという間に過ぎた時間を僕はまだ動かせずにいる。
それでももう、終わりにしなきゃいけない。
だからこうして足を運んだ、でもまさか君の母親に会うとは思わなかった。
立ち竦む僕を見て、口元を少し震わせて喉を震わせて出てきた言葉は僕をその場から逃げ出させるには十分だった。
まさか知られているだなんて思わなかった。君と、僕の関係を。
たった一夏、君が僕を置いて逝くまでの一夏のことなど、今更知られる訳がないと高を括っていたのだ。
遠くから息を切らした声が僕を必死に呼び止める。
どうしてそこまでするのかわからない、聞きたくもない、それでも自然と足はゆっくりになっていく。
まるで君が、話を聞いてくれと言っているようで。
肩を上下させる僕に追いついたおばさんは、もっと息を切らせていて、それなのに少し焦ったような手つきでポケットを探ってはそのまま一枚の封筒を僕へと差し出した。
そのまま受け取ってみれば、宛先に書かれている自分の名前を誰が書いたのかは一目瞭然で。
その瞬間、目尻が熱くなる気がして同じくらい嫌気が差した。
僕を勝手に置いて逝った癖に。
死んでも尚、僕の心を掴んで離さないのか。
君は本当に身勝手だ。
言いたい言葉も伝えたいこともたくさんあったのに、あるのに。
言えないまま、伝えられないまま苦しむこの胸を自分は一人抱えて生きていかなければいけないというのに。
それでも君の望み通りになってしまうのだろう。
僕は君をこれからも思い出し続けるのだろう。
君が震える指先で紙に記した呪いに呪われ続けるのだろう。
この先も君のことをずっと、
" きっと忘れない "
口元に血が滲んだ横顔。
痛そうに腫れ上がった頬。
記憶の中の君はいつだってズタボロだ。
君と出会ったのはそう、こんな雨の日だった。
公園の軒下で雨宿りをしていたところにずぶ濡れの君が歩いてきて。最初は随分と警戒もしたし、不審者かとすら思った。だって濡れてるのに走りもしないんだもの。
それでも近づいてくる君が隣のクラスのちょっとした有名人だと知って、肩の力を抜いたよ。だって君のことはよく知らないし、自分が知らないということは君もまた知らないのは同じなのだから。
ただ少しの時間、同じ軒下で雨宿りをするだけ。
たったそれだけの時間だった。
そんなことが数回あったとき、その日はあまりにも君がズタボロで。制服はところどころ破けているし、口元からは出血、目や頬は腫れ上がって、骨が折れてるんじゃないかと少しだけ心配もした。
自分たちはそれからの付き合いだね。
あれからいろんなことがあって、共に過ごした時間を振り返るには時間が足りなくて、だから今日はこの言葉を君に送ります。
君があの瞬間、あの日々を生きていてくれてよかった。
今日こうして、沢山の人たちが君の晴れ姿をお祝いしていることを、何故だが自分まで嬉しく思っています。
君が辛くても苦しくてもしんどくても、ただ、ただなんとなく生きてきただけの時間でも、その時間は今に生きていて、あのときの君も今を生きていると思うから、あのときの君にお礼を言わせてください。ありがとう。
そして、この瞬間にこうして立ち会えていることを誇りに思います。
本当に、心からおめでとう。
今までの君が、これからの君が、幸せ溢れる時間を、瞬間を過ごせることを祈って、この言葉で締め括りたいと思います。
末永くお幸せに、
" big love! "
朝、君と言葉をかわす。
それだけで、少し胸が高鳴ってる。
なんてことは、君も他の友達もしらない。
君が何気なく触れてきた瞬間、嬉しいけど少しだけ恥ずかしくて。
他の子と触れ合っているのをみると、少しだけ嫉妬する。
なんてことは、やっぱり君も他の友達もしらない。
ある日、君が嬉しそうに報告してきた。
「彼女できた」
あのとき、私は笑えていただろうか。
おめでとう、口から咄嗟に出た言葉は震えていなかっただろうか。
君が彼女と手を繋いで帰っていく。
おそろいなんだと嬉しそうに見せてきたキーホルダーが揺れている。
君に彼女ができても、私たちは変わらない。
でも、でもね。
君の隣にいるのが男の子だったらよかったのに、なんて思っちゃうんだよ。そしたら、諦められたのにって。
これは私だけが知っている、
" 誰も知らない秘密 "