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11/9/2023, 9:56:01 PM

脳裏によぎるのは、単細胞の夢。
キャタピラー状の足を動かす、微生物。
緑色の葉緑素を持った、悲しみのバクテリア。
ぼうふらは、その中にわらわらと浮かぶ。古生代の夢は、単細胞から多細胞生物に進化する、そんな泡沫の記憶。
なんで、こんなに悩むことがあろうか。
ひとつの細胞同士が、シナプスの電気信号によって繋がり、腸内には幾億もの腸内細菌がいて、私たちは生かされている。
ああ、単細胞生物になれればいいのに!
バクテリアの暮らしはさぞかし優雅であろう。
魚に食べられ、藻に付着し、浮かんでは沈み、浮かんでは沈み。

11/8/2023, 10:19:08 AM

意味深でいて、意味の無い言葉。漬物石で蓋をした、糠床の中の干からびた大根みたい。
紅白饅頭の、おめでたさを知っている世代の悲しみは、脈々と続く歴史の悲しみだ。
幸福を幸福と思えない、私のあり方は、多分人から見れば、不幸そのものかもしれない。
幸福論は、私を幸せにしなかった。ハイデガーもフロイトも、私を幸せにはしなかった。
涙を流す目の前の友人に、手を伸ばせなかったのは、私。
ごめんなさいって、言えなかったのも私。
せめて、もっとマシなことを言えばよかったって思ってる。
言葉に乗せて、言葉になりきれない気持ちが、噴出するように、書きたい。
積み重なる、打算の数ほど意味の無いものはなくて、損得勘定だけで、動く私に、呆れを通り越して、矛盾を感じる。
スランプの一字で片付けられない、不安定な心。
せめて、今日一日はと、蓋をして見ないようにして書く。
動いても贖いはなく、罪深い私だけが貯まっていく。
さようなら、意味の無い言の葉。
さようなら、昨日の書けない自分。
せめて、道化のようにつれない友達と、喧嘩別れにならない方法を考えればよかった。
意味のないこと。

11/6/2023, 9:06:00 AM

差し伸べた一筋の光、一振りの剣。
それは、もろくも風に乗って消えた。
おそらく、自身の空想が足りないのだろうと思った。
まだ足りないのだ。
空想も、創造力も、安定性も、出力も足りない。
それは、鋼で出来ていて、打つたびに紅く火を発した。
それは、金で出来ていて、抜く事に煌めきの光刃を描いた。
でも、それは多分俺には手の届かないものだったのだろう。
悲しくも、日常生活に忙殺される俺にとって、それは身に余る栄光だったのだろう。
とにかく、光は掴んだと思ったところで夢に消え、また、夏休みのラジオ体操のスタンプカードのように、ぽつと空白が空いたので、悔しくなってやめてしまった。
困難なものだったのだ。今にして思えば、それは飛べない円柱のように、毎日の学習のように、七段の跳び箱のように、俺には叶わぬ夢だった。
そう思っていると、手があった。
白い手だった。
目の前にぶら下げられている。
立ち上がる。
そうすると彼女は、遠く忘れていた笑顔で笑った。
「悲しいことに、くずおれる者は、頭を垂れる後悔を述べるでしょう。でも、あなたはそれをしなかった。それは、勇敢なことですが、切ないことです」
そう言って彼女は、内緒にしててくださいね、と口にした。

11/2/2023, 10:21:21 AM

苦しまず眠る方法はあるだろうか?
布団の中で寝返りを打つ時、彼女は常夜灯の明かりに照らされて、足を投げ出す。
睡魔のこない、毎夜毎晩。
悲しみを知るのはそのときだ。
苦しい、苦しい、苦しい。
もう4時だ。眠れないのが辛い。
眠る前に飲む睡眠薬が、効かないのだ。
薫る花の香り、睡魔の夢、酩酊の興奮。尋常ならざる薫陶、夜の夢こそまことと言ったのは、誰だったっけ。おごれる者の、確かな腕の感覚と、寝散らかした寝癖の着いた髪の毛の、アンニュイな空腹の果て。
起き出して、冷蔵庫を漁る。
食パンと、冷凍食品ぐらいしかない中身。
眠れるようなものが食べたい。でも、食べたら腸が活動し出す。
だから食べてはいけないのだけど、やっぱり食べてしまう。
牛乳を注ぐ。レンジでチン。
蜂蜜を入れてホットミルクにして飲めば、少し睡魔が訪れる。
しつこい不眠症は、治らない心の病である。

10/31/2023, 10:14:41 AM

ユートピア、夢の都、夜は海に沈み、朝は白玉の壁に、揺れる陽光。
壁際に立っている女性がいる。
彼女は、道具屋をしているのだが、床に広げてある、品々が売れないため、こうして立っているのである。
名前は、ルーナという。
ルーナは小さい女の子で、最初は名前を持たない女の子だった。
少し大きくなった頃、人がやって来てこう言った。
「きみ、このパンをあげよう」
ルーナはお腹が空いていたので、かすめ取るようにしてそれを受け取った。
「名前は?」
「ないの」
「それじゃあ、君は今日からルーナだ」
それから、彼女はルーナという名前である。
羅針盤を見ている客がいたので、
「そいつは、宙に浮かべるものだよ。いまから、二百年ぐらい前のものさ。とある、偉い学者が考えたものでね、それはさぞかし、立派な学者だったそうだ」
と、ルーナは言った。
興味がなさそうに客は帰って行った。
「ちぇっ」
と、ルーナは呟いた。
今日もあっちの店では、客が喜ぶ声が聞こえてくる。大盛況のわけを、ルーナは聞きたかった。

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