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差し伸べた一筋の光、一振りの剣。
それは、もろくも風に乗って消えた。
おそらく、自身の空想が足りないのだろうと思った。
まだ足りないのだ。
空想も、創造力も、安定性も、出力も足りない。
それは、鋼で出来ていて、打つたびに紅く火を発した。
それは、金で出来ていて、抜く事に煌めきの光刃を描いた。
でも、それは多分俺には手の届かないものだったのだろう。
悲しくも、日常生活に忙殺される俺にとって、それは身に余る栄光だったのだろう。
とにかく、光は掴んだと思ったところで夢に消え、また、夏休みのラジオ体操のスタンプカードのように、ぽつと空白が空いたので、悔しくなってやめてしまった。
困難なものだったのだ。今にして思えば、それは飛べない円柱のように、毎日の学習のように、七段の跳び箱のように、俺には叶わぬ夢だった。
そう思っていると、手があった。
白い手だった。
目の前にぶら下げられている。
立ち上がる。
そうすると彼女は、遠く忘れていた笑顔で笑った。
「悲しいことに、くずおれる者は、頭を垂れる後悔を述べるでしょう。でも、あなたはそれをしなかった。それは、勇敢なことですが、切ないことです」
そう言って彼女は、内緒にしててくださいね、と口にした。

11/6/2023, 9:06:00 AM