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ユートピア、夢の都、夜は海に沈み、朝は白玉の壁に、揺れる陽光。
壁際に立っている女性がいる。
彼女は、道具屋をしているのだが、床に広げてある、品々が売れないため、こうして立っているのである。
名前は、ルーナという。
ルーナは小さい女の子で、最初は名前を持たない女の子だった。
少し大きくなった頃、人がやって来てこう言った。
「きみ、このパンをあげよう」
ルーナはお腹が空いていたので、かすめ取るようにしてそれを受け取った。
「名前は?」
「ないの」
「それじゃあ、君は今日からルーナだ」
それから、彼女はルーナという名前である。
羅針盤を見ている客がいたので、
「そいつは、宙に浮かべるものだよ。いまから、二百年ぐらい前のものさ。とある、偉い学者が考えたものでね、それはさぞかし、立派な学者だったそうだ」
と、ルーナは言った。
興味がなさそうに客は帰って行った。
「ちぇっ」
と、ルーナは呟いた。
今日もあっちの店では、客が喜ぶ声が聞こえてくる。大盛況のわけを、ルーナは聞きたかった。

10/31/2023, 10:14:41 AM