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9/2/2023, 11:54:26 AM

心に灯火を置こう。
暗い夜の中で、眠気まなこでいる君。
ずっとパソコンに向かっている君。
無我夢中になにかに取り組んでいるあなた。
晴れない夜霧の中を行く、ゴロゴロ走る車みたいに、小さなライトは、遠くを照らせない。
サーチライトを。
黒い闇を照らす、探照灯を。
何度も何度も何かを探すための灯火を。
この先に、なにか待っている?
そう、この先に待っているのは、幸せの火だ。
苦難の夜。
涙が止まらない夜明け。
省みても省みても答えの見つからぬ問い。
答えを探しに出かけよう。
君の手は、僕が握るから。
ライトに照らされながら、夜を駆ける。
東京タワーの下、流れる車のライトに目を光らせながら、迷い犬が行くよ。
暗い夜道は怖いかい?
きっと、見つかるさ。
それでは、皆さん。
一足先の明日でまた会いましょう。

9/1/2023, 11:12:31 AM

開けないLINEがある。
同僚だった人から、送られてきた、メッセージ。
未読スルーにしているのは、うっとおしかったからじゃない。
それは、着信音と共に始まった。
「ねぇ、なんで読んでくれないの?」
思わず
(出なければよかった)
と、思った。
着信音の相手は、不機嫌そうだ。
雑踏の中を歩いている、こみごみとしだ音が、後ろから聞こえる。
「御社では、取り扱い出来ない案件です……」
声が震えた。
今では、違う部署にいる。
昔、付き合っていた。
この距離感。この違和感。この無力感。
こう言ってしまえれば、スカッとするのに。
『ほんとに、私情と仕事を取り違えてるんじゃねぇよ!!』
結局、謝り通しでLINE通話は切られた。
悲しみと無力感にとらわれている。
堪忍袋の緒が切れるのは、時間の問題かもしれない。

8/31/2023, 10:09:33 AM

ミッドナイトラジオ。
深夜二時すぎのFMラジオから流れるパーソナリティーのギャグは、都会の雑踏の一側面を形作っていると言っていいかもしれない。
不完全な僕は、その片隅で、事故物件の一階に暮らしている。
極端に日当たりの少ないこの部屋は、多分健康的な都会人には暮らしぶりに不向きで、僕のような夜型人間には、願ったり叶ったりの安物件である。
仕事は、プロゲーマーをやっている。
最近では、YouTubeの配信の広告収入が、主な収入源だ。
僕は動画の編集をしながら、FMラジオを聞いている。
お便りのコーナー。
『私は夜型人間です。このラジオがいないとやっていけません』
と、放送スレスレの、猥雑な内容に、僕は苦い笑いを回した。
この夜は、今日もどこかで誰かの夜と繋がってる。
窓の外、摩天楼の明かりが、誰かの生きている証だ。

8/29/2023, 10:21:23 AM

言葉はいらない、ただ……、微笑みがあればいいだけ。
その、毛玉に包まれた猫のような、愛されて然るべきだという感情を、彼女はもちあわせていた。
それだからこそ、彼女は現金であったといえる。
その微笑みは、彼女を愛す者の上にのみ注がれていた。
それは、決して、同僚の男たちではない。
こぞって、彼女を愛すのはとりたてて幼い少年や少女たちだった。
「せんせー!」
「まりあせんせー! 今日はトランプしよっ!」 「はいはい、みんな、仲良くしましょうねー。拓哉くんも、姫知ちゃんも、ルビィちゃんも、先生とお手手繋いで遊びーましょ」
そう、今日も彼女の笑顔は最高に輝いていた。
と、同僚の僕は思っている。
彼女は、子供たちに愛されてはいたが、一人だけ彼女にいたずらを、しかける子供がいた。
彰くんである。
その子にも彼女は優しかった。
慈母の笑み。そう、そうして、力強い、腕力のある体。
今日も保育士さんは、常に忙しい。

8/28/2023, 10:26:24 AM

突然君が現れた!!
君は攻撃を仕掛けてきた!!
「積年の恨み!」
痛みに顎がかけた。
いや、かけるほどの、衝撃があった。
後ろで、ビッグブリッヂの死闘がかかっている、ような気がする、麗らかなこの日。
この時、僕は君と再開を果たしたのだった。
君は、真剣な瞳をしてこう言った。
「ここ出会ったが百年目、八艘飛びの義経が、弁慶のむこうずねしょっぴいて、引きずり下ろした、この五条大橋で、相まみえたが、承知しねぇぞ」
「ところでさ、弁慶義経のくだりは別にどうでも良いんだけどさ、哲学の道でそんなこと言われても困るんだけど……」
哲学の道というのは、京都における桜の名跡が一つに数えられる、銀閣寺と南禅寺をまたぐ、散歩道である。
「ところでさ、なんか最近めっきり、蒸し暑くなっちゃって、君もこんなところにいないで、どっか本屋でも入らない?」
「い、いや……いいんだけど、さ。チョロい女だと、思わないで欲しいのさ」
「じゃあ、善行堂にでも入ろうか」
僕たちは本屋に入り、涼みがてら良本を得た。
それは、森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』であった。
僕が、子供が出来たらぜひ読ませたいと思っていた、名著である。
きっと君は、カフェのお姉さんの謎には頭を悩ませることだろうな。
僕たちは、店を出ると、銀閣寺まで歩いた。
朗らかな、光のどけき日和見二人の、春の昼下がりのことである。

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