NoName

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言葉はいらない、ただ……、微笑みがあればいいだけ。
その、毛玉に包まれた猫のような、愛されて然るべきだという感情を、彼女はもちあわせていた。
それだからこそ、彼女は現金であったといえる。
その微笑みは、彼女を愛す者の上にのみ注がれていた。
それは、決して、同僚の男たちではない。
こぞって、彼女を愛すのはとりたてて幼い少年や少女たちだった。
「せんせー!」
「まりあせんせー! 今日はトランプしよっ!」 「はいはい、みんな、仲良くしましょうねー。拓哉くんも、姫知ちゃんも、ルビィちゃんも、先生とお手手繋いで遊びーましょ」
そう、今日も彼女の笑顔は最高に輝いていた。
と、同僚の僕は思っている。
彼女は、子供たちに愛されてはいたが、一人だけ彼女にいたずらを、しかける子供がいた。
彰くんである。
その子にも彼女は優しかった。
慈母の笑み。そう、そうして、力強い、腕力のある体。
今日も保育士さんは、常に忙しい。

8/29/2023, 10:21:23 AM