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突然君が現れた!!
君は攻撃を仕掛けてきた!!
「積年の恨み!」
痛みに顎がかけた。
いや、かけるほどの、衝撃があった。
後ろで、ビッグブリッヂの死闘がかかっている、ような気がする、麗らかなこの日。
この時、僕は君と再開を果たしたのだった。
君は、真剣な瞳をしてこう言った。
「ここ出会ったが百年目、八艘飛びの義経が、弁慶のむこうずねしょっぴいて、引きずり下ろした、この五条大橋で、相まみえたが、承知しねぇぞ」
「ところでさ、弁慶義経のくだりは別にどうでも良いんだけどさ、哲学の道でそんなこと言われても困るんだけど……」
哲学の道というのは、京都における桜の名跡が一つに数えられる、銀閣寺と南禅寺をまたぐ、散歩道である。
「ところでさ、なんか最近めっきり、蒸し暑くなっちゃって、君もこんなところにいないで、どっか本屋でも入らない?」
「い、いや……いいんだけど、さ。チョロい女だと、思わないで欲しいのさ」
「じゃあ、善行堂にでも入ろうか」
僕たちは本屋に入り、涼みがてら良本を得た。
それは、森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』であった。
僕が、子供が出来たらぜひ読ませたいと思っていた、名著である。
きっと君は、カフェのお姉さんの謎には頭を悩ませることだろうな。
僕たちは、店を出ると、銀閣寺まで歩いた。
朗らかな、光のどけき日和見二人の、春の昼下がりのことである。

8/28/2023, 10:26:24 AM