『失恋』
「なぁ、一人でなにやってんだ?」
私はあの時、あの瞬間、君に恋をした。
陰キャな私に声をかけてくれた、君に。
「ハハハッ、バッカじゃねーの」
君と過ごす日々、っていうのは楽しくて楽しくて。
毎日毎日、前はめちゃくちゃ長いと感じていた日々が、君といるととても短く感じる。
私、君のことが好きだよ。
でも、だから思う。
「あ、幼馴染見っけたからちょい行ってくるわ~」
……この恋は、この感情は、隠しておかないと。
隠して、隠して、鍵を何重も掛けなきゃいけない。
君が君の幼馴染と話していると、私は幸せと不幸せ、同時に感じる。
君が笑っているのは私も幸せになる。
けれど、君の幼馴染と話して笑うっていうのは、とても嫉妬して、不幸せ。
ああ、私の恋は届かない。
初恋は実らないって、どこかで聞いたことがあるけどさ。
「俺、あいつのこと好きになっちゃってさ」
どうすりゃいいかな、なんて君は言うけれど。
私の方こそ、どうすればいいのかなって考えてる。
好きな人から、遠回しに断られるなんて。
気付いてないくせに、さ。
ねぇ、
「……女の子は、ああいうのが好きだと思うよ」
素直に好きだって言えない私だからダメなの?
わからないけど。
__きっとこれが、
私にとって最初の失恋__
とある日。
「髪、切ってください」
……ロングの私は、ショートまで切る事にした。
私の初恋は失恋で終わった。
__貴方の初恋は失恋しませんように。
『正直』
君は、‘嘘’を吐いたことがあるだろうか。
「貴方は元気? 私は元気!」
……元気じゃないよ、別に。
「貴方が笑顔になるなら、私も嬉しいなっ!」
……別に、君が泣いても私はどうでもいいけどね。
今日も、ずっと。
私は、嘘を吐く。
だってそれが当たり前だから。
そうじゃないと、それは私じゃないでしょう?
元気じゃない私は、
優しくない私は、
……私、じゃない。
「あれ貴方、見たことないんだけど、転校生? ……なら、私が案内してあげるっ!」
今日も元気に、嘘をつけ。
私は私だから。
そんな、時だった。
「オマエ、きっしょ」
……え。
案内すると言った私の目を10秒見つめて、そういった君。
……う、そは……バレてない、よね?
ダメだよ、私って優等生でいないとなんだから。
嘘吐きだってバレたら、今までの苦労が水の泡。
「……聞こえなかったの? 無理して笑ってんの気持ち悪ぃつってんの」
君は、正直だ。
グサッと、何かが刺さったような気がする。
……ダメだ、自分の感情は放ってないと。
また、お母さんにすぐに癇癪起こすのは子供だって、そう言われたから。
癇癪起こさないよう、嘘を吐き続けなきゃいけない。
「オマエもうちょっと素直になれば? 気色悪ぃよそれ」
素直、す、なお……。
『素直』って、なんだっけ。
「オレが、嘘吐きを素直吐きにしてやるよ」
素直吐きってなんだよ、ばっかじゃないの、と笑った。
そしたら、
「その調子」
と君はニコニコ言うんだ。
私は、
__素直になるのかな?
『天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、』
僕はいつも、君と話す。
「今日天気いいよね」
とか、
「今日は雨だって、面倒臭いなぁ」
だとか、そんな、そんな世間話を君とする。
そんな僕の生活。
今日も、君と話す口実として。
「ねぇ、梅雨入りだって! 梅雨ってジメジメしててダルいよねぇ」
今日も僕は天気の話をしてるんだ。
本当は、聞いて欲しいことなんていっぱいある。
世間話なんかそんなじゃなくって。
僕の愚痴とか沢山、たっくさん君に聞いて欲しい。
君に、知って欲しい。僕、を。
そんな泣きたい僕と合わせてくれたのか、はたまた偶然か。
ポツポツ、と少し降っていただけの雨がザーザーとめちゃくちゃ降ってきた。
……ああ、そういえば今日傘持ってきてないなぁ。
「なにしてんの、マジで。傘ささないなんて小6までにしとけよ」
そう言って君は僕に傘をさしだした。
「い、いいって、」
「大丈夫遠慮すんな俺は折り畳み傘を持っている」
ニカッと君が笑うとき、ドキッと胸がなるんだ。
やめてよ、僕は性格が男の子よりなんだから。
一人称だって僕だから。
そんな、僕を乙女思考にさせないでよ、なんて……。
どうせ君は、僕がどう思ってるか知らないだろうけど。
「ほらー、受け取れ~?」
ぐいぐい、と出してくる君にやはり戸惑ってしまう。
「んー……。今日は大雨だね」
「……っへ?」
今更普通のことを言い出してきた君に、僕は戸惑う。
いきなりなんだよ、いつも天気のこと興味無さそうだったくせにさぁ、もう。
「や、今回は俺が前提話してやろうかなって。ほら、次はお前の番」
いつもの話……方……。
そういえば、僕が話しかけて、いつの間にか君が実体験とかを話してるんだっけ。
「あ、天気の話以外な」
話す気ないよ、君が話しちゃったもん。
でも、きっとこれを僕は待ち続けた。
僕の話を、聞いてくれる人を。
__天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、__
「聞いてよ、僕の話」
一人称が僕で、男よりの性格をした女の話を、さ。
『ただ、必死に走る私。何かから逃げるように』
嫌だ、嫌だ、嫌だ……来ないで。
なんで、なんで……?
だって、
「よっ!」
君は、あの時に……死んだじゃん。
嫌だ、嫌だ、来ないで!
なんで、嫌だよ、嫌だよ私。
お願い、来ないで。
なんでもする、なんでもするから……ねぇ、来ないでよ。
「俺と鬼ごっこしよ!」
君はあの笑顔でそう言ったんだ。
ただ、ただ……必死に走った。
ここの学校ではとある噂がある。
それは……何かから逃げるように走る人がいるという噂。
それは、小説化もされた。
題名は……
___ただ、必死に走る私。何かから逃げるように___
『ごめんね』
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね……。
謝って、
謝って、
謝って……。
私はそれしか話す術を知らないから。
今日も、ずっと謝るの。
「んななんもねーんに謝んなって! 」
君はそう言ったね。
そうしてこうも言ったよね。
「ありがとうの方が嬉しいっつーの!」
んははっ、なんて笑う君は、とても綺麗で。
私には真似出来ないものだった。
「あー、ねっみ、俺と授業サボんねぇ?」
ダリー、なんて。
君ってホントマイペースだよね。
確かに、君みたいに図太ければ謝罪言うこと、少ないかもだけど。
「あ、それ取ってくんね?」
あ、ごめんね。これだよね、はい。
「あっまた謝った~」
あ、っごめんね。
「謝んなっつってんだろ~?」
……そう言われても、癖だし。
まぁでも、ごめんね。
ごめんね。
ごめん……ごめんね。
けど私は‘簡単に謝るな’と君が言った言葉の意味が、わかった。
君と離れてから、いじめを受けるようになって。
ああ、
ごめんね、
ごめんね、
ごめんね__
__私はずっと、謝ることでしか生きる術を知らないから。
「ごめんね」
__今日も、ずっと謝るの__