『半袖』
夏は来る。
冬が来る前に、夏が来る。
でもそれって当たり前。
夏が暑くて冬は寒い。
でもそれって当たり前?
日本がそうなだけで、きっと外国だと夏でも寒かったり、逆に冬で暑かったりするかも。
けど、外国と日本同じものがある。
それは……暑い時に薄い服を着て、寒い時に厚い服を着るんだ。
暑い時って半袖。
寒い時って長袖。
だって暑いのに長袖なんて無理だし、寒いのに半袖なんて無理だ。
ある日、あの子に私、こう聞かれたんだ。
「お前、長袖しか着ねーよな、暑くねーの?」
暑いけど、まぁ別に耐えれるし、日焼けだなんて私したくない。
それに、君には言われたくないかな。
「君も半袖しか着ないでしょ、寒くないの?」
するとあの子は、
「え? 別そんなでもなくない?」
……人間でも、やはり感覚は違うらしい。
私は冬、めちゃくちゃ寒いのに。
あの子にとって冬は余裕らしい。
まぁでも、逆も然り。
私にとって夏はめちゃくちゃ余裕だし。
あの子は夏、めちゃくちゃ暑いだろう。
そうして、いつも世間話を話してたんだ。
夏に強く冬に弱い長袖の私。
冬に強く夏に弱い半袖のあの子。
「なぁ、たまには着るもの交換してみようぜ!」
そうやってあの子が言うから、まぁ仕方ないなと思っていつか着るよと言ってしまった。
あの子は冬に、ちゃんと長袖を着るようになった。
本人曰く、人間らしさ的にはこっちだろ、らしい。
まぁ私は半袖なんて着ないけど。
そう思って、意地で着なくて。
時間は過ぎていって。
ああ、本当、私バカだな。
あの子がいる時しっかり来てあげればよかった。
墓の前に立って言う。
「ねえ、私、半袖着たよ」
あんなに着ないとしょうもなく意地張っていた私が、今ちゃんと来てるんだよ。
ねぇ、私ね。
__君と一緒に長袖を着た冬のように
君と一緒に半袖を着て夏を過ごしたかったな__
『天国と地獄』
天国というものを、考えたことがあるだろうか。
地獄というものを、考えたことがあるだろうか。
私はふとした時に、あることを思ってしまう。
天国と地獄、どちらがいいのだろうと。
君はもし、死んだとして、どっちに行きたいのかな。
「なぁ、天国と地獄、行くならどっちがいい?」
私はあの子にそう聞かれた。
何度も、何度も……。
私は即答でいつも、「天国」と言った。
だって、地獄って犯罪者とか、悪い人達が行く場所だと思うから。
そう思っていたからこそ、あの子の意見に驚いた。
「そうなのか? 俺はどっちでもいいけどな!」
ニカッと笑うあの子に、驚いた。
けれど、同時に思った。
君には無理だろうな、と。
「だって、天国っていいことしか言ってないし、 地獄は悪いことしか言ってないじゃん?」
というあの子は、さらにこう付け足した。
「もしかしたら地獄の方がいい、なんてことがあるかもしれない!」
そうキラキラした目で笑うあの子は、私からするととても眩しかった。
ああ、でも……そう考えると、私には無理だな。
天国ではきっとこんな輝かしい笑顔が沢山あるんだろう?
それが一年中となると、私からしたら、地獄のようなものだ。
必ずあの子は天国に行くだろう。
そして、必ず私は地獄に落ちる。
なんたって、私に天国は似合わない。
なんたって、あの子に地獄はありえない。
私たちはそうだ、昔から反対で、でも……いや、だからこそずっと一緒にいたんだ。
私とあの子は何もかも違う。
けど、それでいい。
ひねくれた私には本当に地獄がお似合いだ。
真っ直ぐなあの子には、天国以外ありえないんだ。
まさか、こんなことに気付かされるなんて。
「あはは! 急に反応なくなってどうしたんだよ、腹でも痛めたか?」
「なんでもない」
そう、なーんでもないんだ。
あの子が気にすることは何もない。
でも……。
「君がいない世の中じゃつまらないよ」
墓のところで1人、呟いた。
昔いたあそこはきっと、私にとっての天国で__
__今いるここは間違いなく、私にとっての地獄。
『月に願いを』
月に、願いを。
月に願いを告げ始めて、どれくらい経っただろう。
1秒だろうか、1分だろうか、1時間だろうか、1日だろうか、それとも……1年か。
どれだけ願いを込めたかわからない。
けれど、私は月に願う。
意味はあるの?
わからない。
それで答えが見つかるの?
わからない。
君が本当に願うことは無いの?
……わからない。
全て、わからないことだらけ。
でも、それでいいの。
私は、それで。
だって、願いを込めるのは、あの子の代わりだから。
「ん? ああ、これな、オレの願いか叶うよう月に願ってるんだ、お前もやってみないか?」
あの子の、太陽のようなあの子の代わりなんだ。
月に願って、本当に叶うと信じているあの子の。
だから、私の願いなんてない。
願っちゃいけない。
私は、月に願って叶うと思うことなんてできないから。
ああ、でも、そうだね。
もしも私がひとつ、月に願うのなら___
「月が綺麗だな!」
あの太陽みたいに光り輝いたあの子の笑顔を、また見たいな。