静かなる森へ 未来への船 です。
静かなる森へ
静かなる森へ足を踏み入れると、そこは幻想的で、現実ではないような空間が広がっていた。
そよぐ風に吹かれて木の枝が揺れ、色とりどりの花が咲き、鳥が歌うように鳴く。まるで、絵本の中に入ってしまったよう。
「この世にいるような気がしない。別世界に迷い込んだみたいだ」
精一杯腕を広げ深呼吸をすると、気持ちが穏やかになる。
「疲れたら、また来よう。それで…」
大切な人ができたら2人で来よう。その日が来るのを楽しみに、森を後にしたのだった。
未来への船
「未来への船があったら、どこに行きたい?」
キミと話していると、唐突にそう聞かれる。
「1年後?5年後?10年後?それとも、もっと先?」
未来への船か。望めばきっと、どの未来でも連れて行ってくれるんだろうけど…。
「僕は、未来がどうなっているのか、知りたいけど知るのは怖いし、わかってしまったら、つまらないな。とも思う。だから、未来への船があっても乗らないと思う。けど」
キミの手をそっと取り
「どの未来に行ったとしても、僕の隣にはキミがいる。それだけはわかるよ」
そう言うと、キミは嬉しそうに微笑むのだった。
届かない…… 夢を描け です
届かない……
「あと、少し…」
空に向かって手を伸ばす。
「もうちょっと、もうちょっと」
つま先立ちになり、うーんと手を伸ばすけれど
「届かない……」
はぁ。とため息を吐いて、伸ばした体を元に戻す。
「どうしよう…」
空を見上げると、風に飛ばされた帽子が木の枝に引っかかり、ひらひらと揺れている。
「どこかから、棒でも拾ってこようかな」
どうかしましたか?と声をかけてくれる人もいないし。
「早くしないと、また飛んで行っちゃうよね」
はぁ。ともう一度ため息を吐いて、私は棒を探しに向かうのだった。
夢を描け
「これからみんなは別々の道を歩んで行く。その中で、辛いことや困難な出来事もあるだろう。それでも、下を向かず、前だけ向いて夢を描け」
卒業式で、担任が僕たちに言った言葉。
「夢を描け…か」
今の僕は、描いた夢通りに歩めているのかな。道を歩く途中、ふと立ち止まってはそんなことを考える。そのたびに、描いた夢はこうじゃない。と思うことが多い。けれど、担任の言葉を思い出し、自身を奮い立たせて前を向いている。
「よし、頑張ろう」
これからもきっと、道に迷うことはあるだろう。そんなときに思い出す担任の言葉が、僕の心の支えになっている。
ラブソング 木漏れ日 です
ラブソング
「ねえ、この曲、歌ってくれないかな?」
キミとカラオケに来て、2人で好きな曲を交互に歌い、少し疲れたね。と休憩しているときにお願いされる。
「どれ?…ああ、このラブソング?」
「うん、そう」
にこにこと笑うキミに
「ラブソングは、ちょっと…」
申し訳ないとは思いつつ、やんわり断ると
「えー、何で?…もしかして、この曲歌えない?」
思ったとおりの反応をされる。
「いや、歌えるよ」
「なら、私のために歌ってよ」
不満そうな顔をするキミに
「ごめん、キミのためにだと、なおさら歌えない」
そう言うと
「…私のこと、好きじゃないってこと?」
キミは悲しそうな顔になる。
「そうじゃない」
「じゃあ、どういう意味?」
今にも泣き出しそうな顔で俺を睨みつけるキミを
「大好きだから、歌えないんだ」
落ち着かせるようにそっと抱きしめる。
「好きだから歌えない。って、わけわかんない」
俺の腕の中から俺を見上げ、不満をぶつけるキミに
「ラブソングはさ、その曲を作った人が、大切な人を想いながら書いたものでしょ?その誰かへの想いを、俺がキミへの想いとして歌うことはしたくない。俺は、俺の想いを言葉にして、キミに伝えたい。曲は作れないから歌にはできないけど」
思っていることを伝えると
「大好き」
キミは俺にギュッと抱きついたのだった。
木漏れ日
木漏れ日が降り注ぐ公園のベンチで、目を閉じているあなたを見かける。
「外回りに出かけたと思ったら、こんなところで休憩してたんだ」
郵便物を出しに外に出たついでに、まだ取っていなかった昼休憩を取ろうと公園に寄ったら、偶然見かけたのだけれど。
「どうしよう、寝てるんだよね?」
ベンチに近寄ってみるけれど、寝ているようでピクリとも動かない。
「疲れてるのかな、このままにしておこう。けど」
何となくあなたのそばにいたくて、寝ているあなたの隣に座ったのだった。
キミから届いた手紙を開けると、ほのかに、キミの香りがした。
「…いつもつけてる香水の香りだ」
キミとの連絡はスマホだから、なぜ手紙を。と思ったけれど、遠距離でなかなかキミと会えなくて、淋しがってる僕が、淋しくないように、キミを身近に感じられるように。という気遣いなのかもしれない。
「優しいなぁ」
そう思いながら手紙を開くと、僕への想いがたくさん綴られている。
「…会いたい」
手紙を読み終わると、会いたい気持ちがあふれてくる。
「僕も書こうかな」
手紙を封筒に戻そうとしたとき、封筒に水滴が落ちたような跡を見つける。
「…これって」
キミの涙の跡…そんなわけ…。
何の跡だか僕にはわからないけれど、すぐにでもキミに会いに行くと決めたのだった。
sweet memories 青い青い すれ違う瞳 です
sweet memories
「私ね、転校することになったの」
公園のブランコに乗り、何でもないことのようにキミはサラッと告げる。
「…それって、いつ?」
平静を装い聞いてみると
「1週間後だよ」
キミは空を見上げ、答えてくれる。
「1週間…後」
「うん。それまでは、いつも通りに過ごしたいから、みんなには内緒ね」
淋しそうに笑うキミに
「…どうして僕には、話してくれたの?」
と聞いてみると
「…あなたには、知っててほしいと思ったから」
そう、言われる。
キミに片思いをしている僕。
キミと過ごせる1週間の間に、キミにも僕にも心に残る、sweet memoriesを作ろうと決意したのだった。
青い青い
どこまでも青い青い空を見上げふと思う。
みんな、元気かな。って。
学校を卒業してから、親しい友だちとしか連絡をとってないし、進んだ道は、みんなバラバラ。
特に、好きだった子がどうしているか、今でも気になっていた。
卒業式で、想いを伝えようか迷ったけど、その子には好きな人がいる。って聞いていたから、困らせたくなくてやめた。それなのに、どうしているか気になるなんて。
せめて、元気でいてほしい。
どこまでも青く広がる空を見上げながら、願うのだった。
すれ違う瞳
キミとすれ違うとき、ホントなら目を見つめたいけれど、僕の想いに気づかれてしまいそうで、見ることができない。
もしかしたらキミも僕を見ているかも。
そんな淡い期待も持っているけれど、やっぱり怖くて見ることができない。
それでも、キミとすれ違うときには
「すれ違う瞳に、僕を映して」
と願ってしまうのだった。