どんなに離れていても ふとした瞬間 夜が明けた。 です
どんなに離れていても
半年間、海外での仕事が決まり、キミにそのことを伝えたら
「え、半年間も会えないの」
と泣かれてしまった。
「時差はあるけど毎日連絡するよ」
キミを抱きしめそう言ったけれど、キミの涙は止まらない。
「…俺のこと、こんなにも好きでいてくれてありがとう。俺もキミと離れるの、すごく淋しいし、油断すると泣きそうだよ。でも仕事だから仕方ない。って、割り切ることにした」
俺は抱きしめる腕に力を込め
「半年間、離れてしまうけどこれだけは覚えていて。…どんなに離れていても、キミを愛する気持ちは変わらない。俺にはキミしかいないから」
そう伝えると
「…私もだよ。私にもあなたしかいない」
俺の背中に腕を回し、抱きしめ返してくれる。
淋しい気持ちは変わらないけれど、与えられた試練は越えられる。俺は確信したのだった。
ふとした瞬間
ふとした瞬間思い出す。転校してしまった彼のこと。気がつけば、目で追っていた彼が転校すると知って、目が腫れるくらい泣いて泣いて…。
彼が学校に来る最後の日。全員が手紙を渡すことになっていたから、私は自分の気持ちを書いた。
返事が来ることはなかったけれど、ずっと彼が忘れられなかった。
「どうしたの?」
大きな木の下で、ジュースを買いに行った彼を待っていた私。
「…大きな木を見ると、学校にあった木を思い出すんだよね」
木を見上げ、広げた枝を眺めていると
「…懐かしいな、校庭にあったよね」
私の隣に立ち、彼も木を見上げる。
「僕たちが再会したのも、大きな木の下だったよね」
「うん、そうだったね」
返事は来なかったけど、偶然会えた私たち。
大きな木を見るたび、切ない気持ちを思い出してしまうけれど、その分、彼への想いはこの木のように大きく大きくなっていく。
「行こっか」
「うん」
これからも、忘れられなかった想いと、偶然会えて彼になってくれた彼を大切にしようと思うのだった。
夜が明けた。
夜が明けた。
また今日が始まる。
昨日終わらなかった仕事を、まずは終わらせないと。
そう思いながらベッドから起き上がると、隣で寝息を立てているキミの寝顔が目に入る。
「大変だけど、キミのためにも頑張らないとね」
俺はキミの頬にキスをすると、寝室をあとにしたのだった。
巡り逢い 「こっちに恋」「愛にきて」 です
巡り逢い
「あれ?もしかして…」
休日に、少し遠くにあるショッピングモールに出かけたら、声をかけられる。
「ん?」
「やっぱりそうだ。元気だった?」
振り返った先にいたのは、学生時代の同級生。
「うん、元気だよ。そっちは?」
「見ての通り、元気だよ。それにしても、こんなところで会うなんてね」
「ホントだよ。普段なかなか来ないところに、たまたま来ただけだからさ」
「そうなんだ。こういうのって、巡り逢い。っていうのかな」
「そうかもね」
連絡先を知らない人に偶然会う。そう言ってもいいと思う。
「じゃあさ、その巡り逢いにかこつけて、連絡先交換しない?」
「うん、いいよ」
スマホを取り出し連絡先を交換する。
ここで会えた偶然を、偶然で終わらせないぞ。
と思う俺だった。
「こっちに恋」「愛にきて」
「ねえ、明日会えない?」
仕事が終わり、家に帰っている途中、彼女から連絡が入る。
「大丈夫だよ」
そう返すと
「良かった、突然ごめんね。会いたくなっちゃって」
と、かわいい返事が来る。
「うれしいよ、俺も会いたい。んで、どうする?俺がそっちに行く?それとも、こっちに恋よ…なんてな」
冗談っぽく書くと
「…愛にきて」
彼女に、そう書かれる。
「わかった。愛に行くね」
そう送信しながらも、今すぐ会いたくなってしまったのだった。
ささやき big love! どこへ行こう です
ささやき
「…うーん、先に休もうかな」
帰りが遅くなる。と言って仕事に行った彼を、日付が変わるギリギリまで待っていたけれど、このままではここで寝てしまう。と自覚したので寝ることにしたはずが…。
「ん?」
いつの間にか寝てしまっていたようで、何かの音で意識が浮上した。
「ねえ、起きて。風邪引くよ」
音の主はどうやら彼らしい。あ、帰って来たんだな。そう思うけれど、重い瞼は持ち上げられず、目を閉じたまま声を聞いていた。
「…起きそうにないか。じゃあ、ベッドに運ぶかな」そう言うと、私を軽々と抱き上げ、起こさないようになのか、ゆっくりと寝室まで歩き出す。
「そうっと、そうっと」
そして、私をベッドに降ろすと
「遅くまで待っててくれてありがと。愛してるよ」
私の髪を撫でながらささやき、頬にキスをすると、彼は寝室を後にしたのだった。
big love!
「ねえ、俺の話、つまんない?」
ファミレスで向かいの席に座り、フォークを持ったまま、ぼんやりしているキミに話しかける。
「え?何?」
ハッとした様子で、俯けていた視線を俺に移すキミに
「だーかーら、俺の話、つまんない?」
再度聞いてみると
「そんなことないよ」
慌てた様子で否定する。
「でも、心ここにあらず。って感じだよね」
「え?そんなこと、ないって」
俺の指摘が合っているからなのか、キミは気まずそうに視線をそらす。
「お互いにさ、仕事が忙しくて、しばらく会えなかったじゃん。だから俺、やっと会えるんだ。ってすげえうれしくて、今日が来るのを楽しみに待ってた。短い時間でも電話はできたから声は聞けた。けど、声だけじゃキミが足りなくて、すぐにでも会いたい気持ちをずっと我慢してた。それだけ俺は、キミのことが恋しくて仕方なかったのに、キミは違うの?」
そう問いかけると
「私だって、私だってすごくあなたに会いたかったよ。でも、忙しいのはわかってたし、会いたいなんてワガママ言って、迷惑かけたくなかったの。だから、辛いことがあっても我慢して…今だって、聞いてほしい話はあるけど楽しい話じゃないし、あなたまでイヤな気分にさせちゃったらって…」
今にも泣き出しそうな表情になる。
「あのさ」
俺はキミの隣に移動し
「キミが辛い思いしてたり、困ってることがあって、俺に話を聞いてほしい、会いたい。って思ってくれるなら、いつだって会いに行くよ。仕事も大切だけど、それ以上にキミが大切だからね」
「つっ…」
キミの髪をそっと撫でると、キミの頬を涙が濡らす。
「いつでもキミを、俺のbig love!で包むから、我慢しないで俺を頼って」
キミの涙を指で拭うと、泣きながらもキミは微笑んだのだった。
どこへ行こう
「おお、良い天気だな」
昨日までの雨が嘘のように、青空が広がる休日。
「家にいるのはもったいないか」
と、出かけることにしたのはいいけど、さて、どこへ行こう。
「買い物…って、天気関係ないな。うーんと、そうだなぁ…」
数分考え
「あはは、やっぱりここは親子連れでいっぱいか」
俺が来たのは動物園。仕事で忙しく疲れた身体を、大好きな動物に癒してもらおうと思ったのだ。
「かわいいなぁ」
柵に寄りかかり動物を眺めていると
「ママぁ、動物しゃんねんねしてるぅ」
小さな子がしゃがみ込み、動物を見てほほ笑んでいる姿が目に入る。
「もう少し小さな声でね。…すみません」
母親が俺に頭を下げるけど
「いえいえ」
小さな子にも癒される。
親になる。って大変なことの方が多いだろうけど…結婚もいいな。っとその前に相手を見つけなきゃ。と思った休日になったのでした。
街灯がなく、人通りの少ない夜道を、星明かりの下、キミと手を繋いで歩く。
「星の明かりだけだと、暗いね」
「そうだね。今みたいに、月が雲に隠されちゃったら、暗いよね」
しかも、月が雲に隠れていて、その姿は全く見えない。
「こんなに暗いと、私1人だったら怖くて歩けなかったよ」
「ああ、女性1人だと怖いよね」
確かにそうだよな。と思い、キミに同調すると
「あなたがいてくれて良かった」
キミは俺を見てふわっと笑う。
「あなたがいてくれると怖くないし、繋いだ手の温かさで、安心できるよ」
今すぐ抱きしめたい衝動を抑えるように、繋いだ手に力を込めたのだった。
「ねえねえ、これ知ってる?」
休み時間、隣の席の子に話しかけられる。
「ああ、影絵あそびのキツネだよね」
「うん、そう。知ってるんだね」
俺が知っていたことがうれしいのか、その子はにこにこ笑う。
「小さい頃にやったことあるよ、懐かしいな」
「懐かしいよね。でもこの前、小さい頃にした遊びの話になってこれを言ったら、知らないって人がいたんだよね」
「へえ、そうなんだ」
授業開始のチャイムが鳴り、会話はそこで終わったけれど、俺は影絵遊びをしていた頃を思い出していた。
「これと、これを合わせると何かに見えない?」
「うーん、どうかなぁ」
小さい頃よく遊んでいた女の子。確か、兄貴の友達が連れて来てた妹だった。兄貴たちは兄貴たちで遊んでたから、俺がその子の相手をしていたんだった。
「あの子、今はどうしてるんだろうな」
俺のこと、覚えているだろうか。なんとなくその子のことが気になり、家に帰ったら兄貴に聞いてみようと思うのだった。