約束だよ 恋か、愛か、それとも 水たまりに映る空 さあ行こう です。
約束だよ
「約束だよ」
そう言って、指切りした幼い頃の思い出。その思い出は、色褪せることなく僕の心に焼き付いていた。
「キミも覚えているといいな」
僕の淡い期待は裏切られることなく、僕の隣にいてくれることで証明されている。
「あの時の約束。守ってくれてありがとう」
僕を見上げ、微笑むキミに
「それはこっちのセリフだよ。忘れないでいてくれてありがとう」
僕はそっと手を握った。
今日は僕たちの結婚式。幼い頃にキミとした
「大きくなったら結婚しよう」
の約束が、今果たされる。
「どうしたの?」
約束を交わしてしまうほど大好きなキミと、愛を誓える日が来る。そんな運命的なことが本当に起こった。その事実に心が震え、目が潤む。
「ん、幸せすぎて…」
涙を見られないように俯いた僕を、心配してくれるキミ。キミと出会えて良かったと、心から思うのだった。
恋か、愛か、それとも
「今度の土曜、暇?」
「土曜?…あー、ごめん。用事ある」
「そっかあ、残念。じゃ、また今度ね」
「うん」
廊下でキミとすれ違いざま話をする。仲の良いキミと一緒に出かけるのはいつものこと。同じ趣味を持つ友達なんだけど…。
「なあ、おまえらって付き合ってんの?」
昼食を社食で取っていると、同僚に話しかけられる。
「何だよ、急に」
箸を止め、前に座ったそいつを見ると
「付き合ってんだろ?」
ニヤニヤしながらもう一度繰り返す。
「別に、付き合ってねえけど」
テーブルに肘をつき、答えると
「は?嘘だろ?2人で出かけたりしてんのに?」
驚いた顔をされる。
「趣味が合うからそうしてるだけ。友達だ」
そう言うと
「じゃあ、俺が狙ってもいいよな」
うれしそうに笑う。
「ああ。勝手に…すれば」
「そうするよ」
席を立ち、去っていくそいつを見ながら、俺が狙う。と言われたとき、ズキッとしたのはなぜだろう?と思う。俺にとってキミは、趣味が合う友達のはずで。でも、ズキッとしたなら…。キミへの俺の想いは、恋か、愛か、それとも本当にただの友情か。キミが誰かに取られる前に、気づかなければ。と思う俺だった。
水たまりに映る空
通り雨が止み、ところどころに水たまりができる。
「濡れないように、水たまりを避けなきゃ」
と、下を向いて歩いていると、水たまりに景色が映っているのが見えた。
「…キレイ」
水たまりに映る空がキレイで、立ち止まって見ていると、そこに七色のアーチが架かる。
「虹だ」
勢い良く空を見上げると、青い空に大きな虹が架かっている。
「…悪く、ないかも」
大きな虹を眺めながら、通り雨も悪くないかも。と思うのだった。
さあ行こう
「さあ行こう。未知の世界へと」
彼は楽しそうに、私の腕を引っ張る。
「え、本当に行くの?」
私が行くのをためらうと
「あったりまえじゃん。そのためにここまで来たんだから」
グフフと笑いながら、さらに私の腕を引っ張る。
「怖かったら、俺の腕に抱きついてていいから」
ね。と優しく笑うから
「わかった」
怖かったけれど、私は暗闇の中、お化け屋敷の中へ歩を進めたのだった。
まだ続く物語 勝ち負けなんて 雨上がり 傘の中の秘密 です。
まだ続く物語
「おめでとう」
家に帰り、昇進の決定をキミに伝えると、キミは顔を綻ばせる。
「ありがとう」
喜んでもらえてホッとした俺に
「今以上に、私も頑張るからね」
キミは気合を入れる。
「…キミも、頑張るの?」
俺が頑張るのは当たり前だけど…。と不思議に思っていると
「昇進する。ってことは、上司として責任も仕事も増える。ってことでしょ。そんなあなたを、もっと支えられるように頑張るの」
ふふっと笑うキミの笑顔に、胸が愛しさでいっぱいになる。
「まだ続く物語を、ずっとずっと隣で見させてね」
そう言って笑うキミを
「うん。ずっとずっと隣で見てて」
俺は強く抱きしめたのだった。
勝ち負けなんて
「あー、悔しい」
キミと、対戦型のゲームをしているんだけれど、さっきから負け続けているキミは、悔しそうに拳を握りしめた。
「気持ちはわかるけど、俺の方がやり込んでるんだし、仕方ないよね」
慰めるように言ってみたけれど
「それでも悔しいの。だから、もう1回」
負けず嫌いのキミは、もう1回と言う。
「わかった」
ゲームの間、キミのいろんな表情が見れて、俺は楽しい。けれど、勝ち負けなんてこだわらずに、楽しそうにゲームをしている姿も見たいな。と思いながら、コントローラを手にしたのだった。
雨上がり
雨上がりの空に、キレイな虹がかかる。
「わぁ、キレイ」
思わず足を止め、僕はスマホを取り出した。
「うん、キレイに撮れた」
虹を撮影し、撮れた写真をチェックする。
「よし、送信っと」
撮れた写真をキミに送ると
「キレイな虹だね。見せてくれてありがとう♡」
と、返信が来る。
僕は、僕たちを笑顔にしてくれたキレイな虹を心にも焼き付けようと、もう一度空を見上げたのだった。
傘の中の秘密
「ねえ、見て見て」
仕事帰り。雨に降られ、うんざりしながら傘を差して歩いていると、後ろから声をかけられる。
「うん?」
隣に並んだ人物を見ると
「ああ、お疲れ」
同じ部署の人だった。
「お疲れさま。それよりも見てよ。傘の中の秘密を」
「傘の中の…秘密?」
何を言っているんだろう?と首を傾げると
「雨の日って、傘を差して歩くの憂鬱じゃない?そんな憂鬱を吹き飛ばすために、傘に工夫をしたの」
キミはクスクスと笑う。
「え、工夫?」
「そう、これ」
キミが指差した先を見ると、傘の中に大きなキャラクターがいる。
「これ、何?」
「ふふふ。これはね、私の大好きなキャラクターのステッカーを貼ったの。これを見るとね、雨の憂鬱が和らぐんだ」
「へえ、なるほどね」
キミの工夫に感心しながらも、キミの笑顔に釘付けになった俺だった。
「…聞いてもいい?」
いつもとは違い、神妙な面持ちで、キミは俺に話しかける。
「いいけど、何?」
どうしたんだろう。不思議に思いながら返事をすると
「私とのこと、どう思ってる?」
キミは真剣な目を俺に向けた。
「そ…れは」
言い淀む俺に構わず
「私はあなたとずっと一緒にいたいと思ってるよ。けど、あなたの気持ちがわからなくて…」
キミは本音をぶつけてくる。
「…ごめん、ちゃんと話すね」
そんなキミに向き合わなければ。と、俺は重い口を開いた。
「俺も、キミとずっと一緒にいたい。結婚したいと思ってる。けどね、俺は渡り鳥みたいな転勤族。いつどこに行ってくれ。って言われるかわからない。それに、キミを巻き込んでいいのかわからないんだ。…そうわかっているのに、キミと別れたくなくて、言い出せなかった。キミの大切な時間を、ムダにさせてしまって、本当にごめん」
頭を下げると
「話してくれて、ありがとう。私を、あなたが羽を休める場所にしてくれますか?」
キミは微笑む。
「…ありがとう」
キミの言葉がうれしくて、キミをギュッと抱きしめたのだった。
ひらひらと、桜の花びらが風に舞う。
「キレイだね」
桜の木を見上げ、キミはつぶやく。
「そうだね」
キミに合わせて僕はそう言ったけど、風に舞う桜の花びらよりも、長い髪がさらさらと風に揺れるキミの横顔を、僕はずっと見つめていた。
大好物のお菓子を手に持ち、ゆっくりとした動作で口に運ぶ彼女。
「これで最後…」
自分に言い聞かせるように呟くと、最後の1つを口に入れる。
「うん、美味しかった。明日からは我慢だ」
そう言うと拳を握りしめ、お菓子の空箱をゴミ箱に捨てた。
「頑張ってね」
「うん」
明日からダイエットをする。という彼女。
彼氏である俺は、彼女が痩せても、今のままでも彼女を好きなことには変わりないし、正直どっちでもいいと思っている。
ただ、彼女が頑張るというなら、彼氏として、協力と応援はしてあげたい。
彼女を見つめながら、そう思うのだった。