「たまには2人で出かけようか」
よく晴れた休日。僕はキミを誘って、車で水族館へ出かけた。
「水族館なんて、いつ以来かしら」
水族館に入り、キミは少しはしゃいでいるように見える。
「子どもが小学生の頃に来たよね」
キミの楽しそうな様子に、連れてきて良かったな。と、僕も嬉しくなった。
「はぁ、かわいい」
一緒に動物を見て、次の水槽に行くとき、並んで歩いていたはずが、キミはどんどんと先に行ってしまう。
「待って」
咄嗟にキミの手を取ると、キミは足を止め、僕を振り返る。
「どうしたの?」
「楽しいのはいいんだけど、僕を置いていかないで」
苦笑すると
「ごめんなさい。次は何かなぁって、ワクワクしちゃって」
キミは照れ笑いする。
「このまま、手を繋いでてもいい?」
先ほど取った手をギュッと握ると
「こんな、カサカサな手だけどいいの?」
キミは不安そうな顔をする。
「そんなの、良いに決まってるでしょ。お互いに、手がしわしわになっても、手を繋いでようね」
そう言って微笑むと、キミも微笑んでくれる。
「じゃ、行こう」
「ええ」
水族館を出るまで、手を繋いで歩いたのだった。
部屋の片隅で と ありがとう、ごめんね です。
部屋の片隅で
部屋の片隅で、キミは僕に背を向け何かをしている。
「静かにしているし、まあいいか」
と、気にすることをやめ、本の続きを読んでいたが、視界の端に何か白い物が映る。
「ん?何か見えた?」
本から顔を上げ白い物が映った方を見て
「あっ、コラ。ダメでしょ」
慌てて取り上げてももう遅い。
「あーあ」
キミにプレゼントしたばかりのぬいぐるみ。ぬいぐるみは、しっぽを振るキミにボロボロにされてしまったのでした。
ありがとう、ごめんね
ありがとう、ごめんね。
この言葉が言えたなら、今もキミと一緒にいられたのかな。
ご飯を作ってくれたり、洗濯してくれたり、キミは家にいるんだから、やって当たり前。なんて思ってない。
キミが家のことをしてくれるから、俺が仕事を頑張れる。
キミが支えてくれてたから、俺は不自由なく過ごせてた。なのに、恥ずかしくて、ありがとうが言えなかった。
頼まれたことを忘れたり、キミに文句を言われて、俺が悪いのに、ごめんねも言えなかった。
今更後悔しても遅いのはわかってる。
けど、最後にキミに伝えたい。
一緒にいてくれてありがとう。泣かせてしまってごめんね。と。
鉄棒で逆さまになり、景色を眺める。
「逆さまに見ると、こんな感じなんだなぁ」
地面は近いし、空がさらに高い。ほぼ見ることがない逆さまの景色を堪能していると
「何してるの?」
キミが現れる。
「ん?普段見ない景色を堪能してるの」
笑顔で答えると
「へえ、そうなんだ。私はどう見える?」
そう聞かれ
「背が高く感じる…かな」
返事をしたあと、鉄棒を下りた。
「楽しかった?」
「そうだね。普段見ないものを見るのは楽しいかな。それに」
「それに?」
「いつも見ている視点じゃなく、別の視点から見るのも大切。ってことがわかった」
「そうなんだ」
「うん」
よくわからなそうな顔をするキミと視線を合わせ
「僕とキミの身長は違うよね。なのに、キミが見る景色と僕が見る景色は違う。ってことを意識してなかった。これからは、キミの視点を意識して、高いもの…物を取るとか、電灯を交換するとか、僕がやるね。今までは、イスとか使えば出来るでしょ。って思ってたけど、イスに乗ったりするのも怖かったりしてたよね。キミにやらせてばかりでごめんね。やってくれてありがとう」
気持ちを伝えると、キミは僕の手を取り、笑うのだった。
明日はキミとの初デート。眠れないほど楽しみで仕方ない。行き先は遊園地。どんな服で来るのかな。待ち合わせで、キミを待たせないように早く家を出ないと…などなど、考えることがいっぱいで、ドキドキワクワクが止まらない。
「でも、ちゃんと寝ないと」
寝不足で、カッコ悪いとこは見せられない。そう思って目を閉じたけど、なかなか眠気はやって来ない。
「ん?カッコ悪いとこ?」
自分で思ったことなのに、そのワードが引っかかる。
「…カッコ悪いとこ見せて、初デートなのに、別れましょ。なんて言われたらどうしよう」
別のドキドキに襲われる。
「どうしよう、どうしよう」
まだ行ってもいないのに、ネガティブな感情に心を乱され、余計に眠れなくなったのでした。
「キミのことが好きです。僕と付き合ってください」
思い切ってした告白を
「ありがとう。嬉しい」
キミは笑顔で受け入れてくれる。
「夢みたいだ。ずっと好きだったキミと付き合えるなんて」
ニコニコと笑うキミの隣で感動に浸っていると、遠くの方から何やら音が聞こえる。
「ん?何の音だろう?」
徐々に大きくなる音。キミと一緒にいるのに、音が邪魔をしてくる。
「あー、もう、うるさい」
と、怒りを爆発させたところで
「…やっぱり夢か」
目が覚めた。
「たまに恐いのもあるけど、夢はいいよな」
教室の机に座り、友達と話しているキミをそっと見つめる。
「夢では告白をOKしてもらえたけど、現実は、用があるときにしか話したことがない、ただのクラスメイトだもんな」
はぁ。とため息を吐き、机に突っ伏す。
「夢と現実。その差は大きいなぁ」
もう一度キミをちらりと見て、また、ため息を吐くのだった。