この日のために、母さんが服を仕立て、父さんが靴を作り、おじいちゃんが剣を打ってくれた。
旅装束を整えた僕の隣に、癒し手の装備を整えた幼馴染の少女が並び、ふたり揃って胸を張る。
「頑張れよ」
「根を詰めすぎないようにね」
「無理だけはするんじゃないよ」
故郷の皆が見送りに出てきてくれた。
今まで世話になったことを思い出して、胸が熱くなる。
でもこれからは、もっとこの胸に熱を宿す、ワクワクもドキドキも待っているんだ。
「いってきます」
皆に手を振り、僕らは旅立つ。
前を向いて、どこまでも広がる青空に想いを馳せる。
どんな旅になるだろう。どんな胸踊る出会いが待っているだろう。
拳を突き上げて、大音声をあげた。
「さぁ、冒険だ!」
「人間とはつくづく愚かなものよ」
闇の城の底で、玉座に腰かけた魔王は、頬杖をつきながらくちびるを邪悪に歪める。
「年頃の子供を、さぁ冒険だなんだといって送り出し、我の糧に捧げることで均衡を保ち、自分たちは生き永らえようとする」
魔王が顔を上げて振り向く背後には、無数の毒々しい色をした卵。その中で、かつては新米冒険者だった人間の子供たちが、魔物に作り替えられている。
その中に、真新しい旅装束と靴、そして満足に振るわれることも無かった剣だけがかつての名残を残す、ぐずぐずに溶けたなにかが、あった。
お題「さぁ冒険だ」
戦はすべてを薙ぎ倒した。
どんなに花が綺麗に咲いても、人はまた吹き飛ばす、と哀しい瞳で言った少年は、どこにいただろうか。
だけど、人はまた何度でも花を植えると、少年を諭して涙を呼んだ青年もいたか。
いつかの物語を思い出しながら、焼け野原を見渡した。
白い花咲く草原は、見渡す限り、死の痕が刻まれている。
大戦は終わり、戦犯は処刑され、国々に新たな指導者が立っても、失われたものは戻らない。
英雄と呼ばれるようになったわたしの、大切なひとびとも。
「師匠!!」
死にかけていたところを助けたら押し掛け弟子になった少女が、驚き顔でわたしを手招く。
近づいたその足元には、一輪の白い花が揺れていた。
吹き飛ばされたものは戻らない。
だけど、新しい希望は、いつか芽吹くのだろう。
ひとよ、過ちを繰り返すな、と。
お題:一輪の花
古来、魔族は魔法を使う種族として認識されていた。
しかし世代を経て、人間と血が混ざることで、人間の外見を持ちながら魔法を使う者が現れるようになった。
彼ら、彼女らは『混ざり者』と呼ばれ、ある国では神子として崇められ、またある国では災厄をもたらす悪魔として恐れられた。
僕の幼馴染が魔法を使うことを知っているのは、村の人間だけだった。
先代の魔王を倒した勇者が治めるこの国で、『混ざり者』であることが露呈すれば、魔王の眷属として、たちどころに断罪されてしまうだろう。
僕らは、自分をかえりみず村人に回復魔法を施す彼女を、必死に部外者の目から隠した。
だのに、運命とは卑怯で。
村の近くで馬車が横転した隊商を助けた時、彼女は瀕死の子供に回復魔法を使ってしまった。
物事の善悪の区別もつかない幼子は、ぺらぺらと街で彼女のことを喋ったのだろう。あるいは隊商が村のそばで事故を起こしたこと自体が、仕組まれていたのかもしれない。
その日のうちに、国王直属の騎士団がやってきて、『混ざり者』を隠匿した罪として村人を惨殺し、彼女を連れ去った。
「ごめんね」
連れてゆかれる直前、彼女は僕に駆け寄り、遅効性の回復魔法をかけていった。
血のにおいが充満する中、薄明が去り、僕は立ち上がった。
昇る太陽が、すっかり傷の癒えた僕を照らし出していた。
彼女を取り戻すため、そして村の皆の無念を晴らすため、僕は剣を手に取り旅立った。
その道の途中で、僕と同じように、『混ざり者』の大切なひとを奪われた仲間たちができた。
その中で、
「勇者王は『混ざり者』を集め、その魔力を吸い上げて、大きな古代魔法を行使しようとしているらしい」
という情報をつかんでいた仲間がいた。
彼女をそんなふざけた真似の犠牲になど、させやしない。
たとえ救世主に弓引く行為だとしても。
堅牢な城塞を針で崩そうとするような脆弱さだとしても。
僕らは奇跡という名の魔法を、起こしてみせよう。
お題:魔法
お前の言うことは間違っている、意味なんて微塵も無いと、クラスメイトたち全員の前で否定された。
わたしはわたしの好きなものを、好きだと言っただけなのに。
わたしが弱気で言い返せないとわかっているから、あの子は居丈高に振る舞う。自分の矮小さを誤魔化して、自分が正しいと知らしめるための標的にする。
屋上に続く階段に座り込んで、声を殺して泣いた。
外からは雨の音が聞こえる。
余計に沈んでゆきそうなところに、差し出されるハンカチが。
「悔しいよね」
あの子のもう一人の標的の子が、眉を垂れて苦笑している。
「なんで君は平気なの」
あの子に何を言われても、苦笑するばかりで言い返さない彼女の強さが欲しい。ハンカチを受け取り、顔を拭きながら問いかけると。
「平気なんかじゃないよ。私も独りで泣いたりするよ」
でも、と彼女はわたしの手を引いて、屋上への扉を開く。
「空も泣いた後は、綺麗に笑うだろう?」
いつの間にか雨はやんで、七色の虹が弧を描いている。
泣いたっていいんだよ、僕は君たちを見守っているから。
そう、告げるかのように。
お題:君と見た虹
さっきまでドン底だったの。
仕事も人生も上手くいかなくて、自分なんか生きてても仕方無いなーって。
それがさ。
友だちがくれた一報。
推しカプが描かれた公式イラスト。
それだけで、舞い上がっちゃったのよ。
オタクで良かったーって、今、すごく嬉しい。
公式の燃料投下はオタクを元気にしてくれるわ。
もうちょい頑張るか!
いそいそと、履歴書を引っ張り出して、打ち込み始める。
もう、窓を開けて夜空に飛び出して駆け抜けたいけど、そろそろテンション落ち着いてくれないかな!?
お題:夜空を駆ける